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2014年秋 ひと味違う「注目CM」はこれだ!

碓井広義メディア文化評論家

テレビ番組もそうですが、CMは時代を映す鏡です。その時どきの世相、流行、社会現象、そして人間模様までをどこかに反映させています。

「うーん、あるある、そういうこと」という共感や、「もしかしたら、こういうの、待ってたかも」という潜在的な期待感に応えるCMは、やはり目を引きます。

この秋、流されているCMの中から、注目作を選んでみました。

サントリー食品「プレミアムボス テレビ局編」

テレビに関するこんな辛口批評が、当のテレビから聞こえてきた。

「妙に真面目ぶった番組もあれば、ひたすらクダラナイ番組もある」。

うん、確かに。

「視聴率と呼ばれる尺度が重視され評価も決まる」。

これもその通り。

「ただ、あるとついつい見てしまう」。

本当にそうだ。

さらに、「この惑星のテレビは缶コーヒーとどこか似ている」と言われて、思わずニヤリである。

トミー・リー・ジョーンズさん主演の「宇宙人ジョーンズ」シリーズ。今回は出入りの花屋さんに扮してテレビの裏側を見つめている。

カンペ(カンニングペーパー)を書きかけのまま、長椅子で寝てしまったアシスタント・ディレクター)も、やけにリアルで可笑しい。

どんな番組も、それを支えているのは人だ。出る人、作る人の思いやエネルギーが見る人の気持ちを動かす。

流れては消えていくテレビだからこそ、もっと本気で伝えるべきだし、もっと真剣に遊ぶべきなのだ。宇宙人ジョーンズも見守っている。 

大和ハウス工業「太陽を集めた男」編

長谷川和彦監督『太陽を盗んだ男』の公開は1979年だ。沢田研二さん演じる中学の理科教師が、何と東海村の原子力発電所に侵入し、銃撃戦の末、液体プルトニウムを強奪してしまう。

自分のアパートで、こつこつと原爆を製造するジュリー。やがて完成すると、政府にローリング・ストーンズ東京公演の開催を迫ったりするのだ。何とも際どい内容は奇想天外にして痛快、さらに苦味も効いた秀作だった。

あれから35年。太陽は盗むものから集めるものへと変わったようだ。大和ハウス工業「太陽を集めた男」編は、まるでサスペンス映画のような緊迫感にあふれたCMである。

謎の男・松坂桃李さんが乗った真っ赤なランボルギーニ・カウンタックを無数のパトカーが追跡するシーンなど、明らかに『太陽を盗んだ男』へのオマージュだ。ならば役所広司さんが扮する刑事はかつての菅原文太さんか。

松坂さんが目指しているのはメガソーラー(大規模太陽光発電)事業。「この国を変えてしまうような何か」という役所さんの言葉も決してオーバーではない。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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