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「売り手からの脱却」を目指すエスパニョール。ダニ・ハルケの意思を継ぐマルク・ロカの台頭。

森田泰史スポーツライター
クロースと競り合うマルク・ロカ(左)(写真:ロイター/アフロ)

12年ぶりの、ヨーロッパの舞台が待っている。

2018-19シーズン、エスパニョールはリーガエスパニョーラを7位で終えた。ヨーロッパリーグのプレーオフ出場権を獲得した。

■ルビの存在

大きな目標を達成したエスパニョールだが、その背景には、いくつもの準備があった。

第一に挙げられるのが、ジョアン・フランセスク・フェレール、「ルビ」の愛称で親しまれる指揮官の就任である。

ルビ監督は4-3-3の使い手で、クライフイズム(クライフ主義)を体現する指揮官だ。エスパニョール監督就任前、彼のリーガ1部での経験は乏しかった。2015-16シーズンにレバンテで獲得可能な勝ち点87ポイントのうち26ポイントを、2016-17シーズンにスポルティング・ヒホンで獲得可能な勝ち点60ポイントのうち19ポイントを獲得。いずれもシーズン途中の就任で、2部降格の憂き目に遭った。残留が絶対条件のチームでは、守備的に戦わなければいけない。しかしながら、ルビが志すのは攻撃フットボールであった。

ルビは2017-18シーズン、2部のウエスカを1部昇格に導いた。そして、エスパニョールからオファーが届く。レバンテとスポルティングを指揮した時との違いを挙げるなら、それはプレシーズンからチームを率いられることだった。

そして、ルビ監督の下で、3人の選手が軸となりチームを支えた。

■核となった選手

ヨハン・クライフの信奉者であるルビ監督だが、エスパニョールでは最終ラインから3枚でビルドアップする形を採らなかった。それは3トップとインテリオールの2枚を敵陣に配置するためで、それにより攻撃時に枚数を確保するだけではなく、攻守の切り替え時に連動したプレスが可能になった。

その戦術が機能した裏には、複数選手の活躍がある。まずは左利きのセンターバックであるマリオ・エルモソの存在だ。ビルドアップの能力、正確なフィード、空中戦の強さが持ち味で、2018年11月18日にはルイス・エンリケ前監督の下でスペイン代表デビューを飾っている。

また、欠かせないのがボルハ・イグレシアスだ。リーガで17得点を挙げ、得点ランクで7位に食い込んだ。スペイン人選手としては、イアゴ・アスパス(セルタ/20得点)に次いで、2位の数字だ。

そしてルビ監督のフットボールにおいて、必要不可欠な選手となったのがマルク・ロカだ。ポジショナルなMFで、ピッチの中心でコンパスのように動き、ボールを自在に展開する。この夏に行われたUー21欧州選手権では、ファビアン・ルイス(ナポリ)、ダニ・セバジョス(レアル・マドリー)とタレント揃いのチームで、アンカーを務めてスペインの優勝に貢献した。

ボール奪取数を見れば、その重要性は明らかである。マルク・ロカ(236回)、エルモソ(182回)、セルジ・ダルデル(143回)、エステバン・グラネロ(132回)、ディダク・ビラ(130回)がトップ5に入る。マルク・ロカとエルモソに加えて、中盤のプレッシングが嵌るためMFの選手が上位を占める。

■カンテラと資金繰り

マルク・ロカは2017-18シーズンから故ダニ・ハルケの背番号21を着けている。エスパニョールは2009年夏に急性心筋梗塞で亡くなったハルケが着けていた21番を永久欠番にする意向だった。しかしながら2017年夏に方針を変更して、クラブの価値を体現するカンテラーノに21番を与える考えに傾いた。そこで選ばれたのがマルク・ロカだった。

バルセロナのスクールで技術を磨いたマルク・ロカだが、11歳の時にエスパニョールのカンテラに入団した。ユース時代にバルセロナからオファーが届いたが、エスパニョール残留を決断している。

マルク・ロカだけではない。ハビ・ロペス、ディダク・ビラ、ダビド・ロペス、ダルデル、アドリア・ペドロサ、オスカル・メレンドと多くの選手がチームの中枢を担っている。そして、19-20シーズンに向けたプレシーズンに帯同するカンテラーノは15名にのぼる。

だが活躍によって、優秀な人材が引き抜かれるのが「中小クラブの性」だ。手始めといわんばかりに、キケ・セティエン前監督が去ったベティスにルビ監督を引き抜かれ、ダビド・ガジェゴ監督がエスパニョールの指揮官に就任した。

エルモソやボルハ・イグレシアスも例外ではない。契約解除金が4000万ユーロ(約48億円)に設定されているエルモソには、アトレティコ・マドリーが関心を寄せる。ただ、その売却額に関してはエスパニョールとレアル・マドリーが50%で分割することで合意している。契約解除金2800万ユーロ(約33億円)のボルハ・イグレシアスについてはベティスが興味を抱いている。

一方で、エスパニョールはカンテラーノを使いながら資金をうまく回している。

この夏、エスパニョールのカンテラーノであるパウ・ロペスとジョアン・ジョルダンが移籍している。パウ・ロペスは移籍金2400万ユーロ(約29億円)でベティスからローマに移籍。ジョルダンは移籍金1400万ユーロ(約17億円)でエイバルからセビージャに移籍した。エスパニョールはパウの移籍で100万ユーロ(約1億円)、ジョルダンの移籍で250万ユーロ(約3億円)の育成費を得ている。さらに、アーロン・マルティン(マインツ)の移籍が決まれば、その移籍金の12%が懐に入る。

現在のエスパニョールには選手売却の必要性がない。2016年1月にチェン・ヤンシェン会長が就任してから、状況が変わった。中国人オーナーを迎え、それ以降資金繰りに苦労しなくなった。

売り手から脱却して、新たな挑戦に迎えるか。7月25日にはヨーロッパリーグのプレーオフが幕を開ける。エスパニョールの勝負のシーズンが始まろうとしている。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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