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電気棒を肛門に突き刺す、イスラム女性を路上で裸にする―イスラエル軍の性暴力が酷すぎる 国連文書が批難

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
ガザで女性の下着をあさるイスラエル兵達 彼らのSNSから流出

 「イスラエルは、強制移送、性的暴力、戦争手段としての飢餓、拷問および非人道的または残酷な扱いなどの戦争犯罪を行った」―今月12日にまとめられ、国連の人権理事会に提出された独立した調査委員会による報告書は、イスラエル軍のガザ攻撃における戦争犯罪や、それがイスラエル政府関係者の明確な意図を持って行われていることを、様々な角度から具体的ケースや証拠と共にまとめています。今回の記事では、こうした国連関連の報告等で筆者が注目したイスラエル軍による性暴力(男性に対するものも含む)について、とりあげます。

*本記事は「志葉玲ジャーナル-より良い世界のために」から転載したものです。

〇深刻さを増すイスラエル軍による性暴力 

 日本のメディアでの報道で、あまり報じられていない問題として、イスラエル軍によるガザの人々への性暴力やセクシャルハラスメントがあります。10月7日の越境襲撃で半裸の女性をまるで戦利品のように連れ去る等、ハマス等ガザの武装勢力側の性暴力は、それ自体は強く批難されるべきであり、その真相究明や加害者への法に基づく処罰は行われるべきですし、国連の人権関連の各機関もそう求めています*。しかし、上述のようなハマス等側の振る舞いを、イスラエル側は、ガザ攻撃の正当化する上で「アピール」してきたのですが、実は、そのイスラエル側もガザの人々に対する性暴力を行ってきたのだということは、やはり、もっと注目されるべき問題です。当たり前のことですが、性暴力は誰に対するものであれ、断じて容認できないものであるし、加害者が誰であれ処罰されるべきだからです。

*ハマス側の性暴力についても、国連は調査を行っているのですが、イスラエル側の協力が得られていないため真相究明が困難だとの問題があり、それは上述の独立調査委員会も報告書の中で言明しています。

 昨年10月のガザ攻撃開始以前から、イスラエル側は、占領への抗議デモに参加した等で女性や子どもを含むパレスチナ人を拘束、起訴や裁判のないまま拘禁施設内で拘禁し続けるという「行政拘禁」を数千人規模で行ってきました。拘禁されているパレスチナ人は、性的虐待を含む拷問や屈辱的な扱いを受ける等、その非人道性がかねてから人権団体等から問題視されていたのですが、それらはより深刻なものとなっているようです。今回、独立調査委員会によるガザ攻撃の実態についての包括的な報告書が国連人権理事会に提出され、同報告書には性暴力についても「イスラエル軍がパレスチナ人に対して行った性的およびジェンダーに基づく暴力の範囲、頻度、深刻さが大幅に増加している」と指摘しています。

〇肛門に電気棒を突っ込まれ死亡

 上述の報告書の引用元の一つとなっている、UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)の調査では、イスラエルの拘禁施設から解放された1506人のガザ住民らはの多くは虐待を受けた形跡があり、激しく殴られたり、軍用犬に嚙まれたりして怪我を負っていると指摘。こうした被害者には未成年や女性、老人も含まれているとのことです。ある41歳の男性はUNRWAに対し次のように証言しています。

「(イスラエル軍の兵士らは)私を熱い金属棒のようなもの上に座らせ、私の尻は焼かれたように熱かったです。兵士たちは側面に小さな釘の付いた金属棒のようなもので私を殴りました。彼らは私たちにトイレから水を飲むように言い、犬に私たちを襲わせました...拘束されたうちの一人は、電気棒(棒状のスタンガン)を肛門に突っ込まれた後に亡くなりました」(出典:UNRWA

 また、同じくUNRWAの報告書は、ガザでのイスラエル軍による家宅捜索で、住民の女性達が男性兵士の前で裸にされ、ビデオや写真を撮られるということがあったと報告。証言者の一人として、34歳の女性はガザで拘束され、イスラエル領内の拘禁施設に移送される際の経験を次のように語っています。

「彼らは私達を引っ張って殴り、バスで(イスラエル北部の)ダモン刑務所に連れて行きました。男性兵士が私達のヒジャブ(イスラム教徒の女性が髪を覆い隠すスカーフ)を脱がせ、胸を含む体を触ったのです。私達は目隠しをされていて、頭をバスに押し付けていました。身体を触られないように身を寄せ合っている私達に、彼らは『ビッチ、ビッチ(「雌犬」「ふしだらな女」の意)』と罵りました」(出典:UNRWA

〇イスラム教徒の女性を晒しものに

 さらに、上述の独立調査委員会は、複数の現地住民から、ガザの女性達が公衆の面前で男性兵士に下着まで剥ぎ取られ、兵士に体を触られたとの証言を得たとのことです。また、やはり現地からの証言によれば、ガザを南北に通るサラフディーン通りに設けられたイスラエル軍の検問所で、男性も女性も服を脱がされ、従わなければ射殺すると脅され、男性は全裸、女性もヒジャブを外し、衣服を脱いで下着姿になることを強要されたとのことです。こうした検問所では、兵士が女性達にセクハラ的な行為をすることもあり、17、18歳くらいの少女もそうした被害に遭ったとのことでした。こうした事例の一つとして報告書に記載されたケースでは、昨年10月25日、ガザ北部のベイトラヒヤの女性が子ども達と避難していたところ、イスラエル軍の兵士らと遭遇、大通りで全裸でのボディーチェックを強要されたのだそうです。当初、女性はボディーチェックを拒否しようとしましたが、イスラエル軍兵士に殴られた上、従わないなら子ども達を殺すと脅されたのだそうです。

〇パレスチナ人女性が強姦されている

 上述の独立調査委員会の報告書とは別に、今年2月に公表された国連人権理事会の特別報告者による調査も、「人権擁護活動家、ジャーナリスト、人道支援活動家を含む数百人のパレスチナ人女性と少女がガザ地区とヨルダン川西岸地区で恣意的に拘留されている」と懸念を表明。「多くが非人道的で屈辱的な扱いを受け、生理用品、食料、医薬品を与えられず、ひどい暴行を受けた」「少なくとも2人のパレスチナ人女性が強姦され、他の女性は強姦や性的暴力の脅迫を受けたとの情報がある」としております。また、劣悪な状況にある被拘束者の女性の写真がイスラエル軍によって撮影され、ネット上にアップロードされたことについても言及。さらに、少女を含む数え切れないほどのパレスチナ人女性や子供達が、ガザでイスラエル軍と接触した後に行方不明になったされることにも懸念を表明しています。

 同調査で特別報告者らは、「これらの申し立てられた行為は国際人権法および人道法の重大な違反を構成し、ローマ規程に基づいて起訴される可能性のある国際刑法上の重大犯罪に相当する可能性がある」「犯罪の責任者は責任を問われなければならず、被害者とその家族は完全な救済と正義を受ける権利がある」と述べています。「法の支配」に従い国際秩序を守るという観点からも、日本を含む国際社会は、特別報告者らの意見に対し誠実に耳を傾ける必要があるでしょう。

〇ジェノサイドの一環として行われる性暴力

 上述の国連の人権理事会の独立調査委員会の報告書に話を戻すと、様々なかたちで、老若男女問わずに行われた、イスラエル軍によるガザの人々への性暴力について、同報告書は、「民間人を屈辱させ、品位を傷つけることを目的としたイスラエル軍の行動の明確なパターンを示しており、その根底にある強制的な屈辱は、イスラエルの占領支配を永続させることを意図している」「身体的および精神的苦痛は個人としての一般市民を屈辱、処罰、脅迫する意図があっただけでなく、パレスチナ人社会に大きな危害と精神的苦痛を与えた」と結論付けています。

 つまり、イスラエル軍は性暴力をガザ、そしてパレスチナ人社会全体に対する攻撃の手段として行ったと評しているのです。こうした、特定の民族や集団そのものに重大な被害をもたらすための「兵器」として性暴力を行うことは、ジェノサイドの一要素としてあげられるものです。そして、ジェノサイドを防ぐための国際条約である「集団殺害罪の防止及び処罰に関する条約(ジェノサイド条約)」は、そもそも、第二次大戦におけるユダヤ人大虐殺「ホロコースト」への反省から生まれたものなのです。

〇イスラエル首相らの責任追及が必要

 今回、紹介した独立調査委員会の報告書は、本稿でスポットをあてた性暴力以外にも、人口密集地や避難所、病院等を攻撃してきたことや、人道支援活動への妨害してきたことなど、昨年10月からのイスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの攻撃で繰り返されてきた戦争犯罪について、様々な角度から、まとめられたものです。そして、同報告書は、これらの戦争犯罪について、多数の具体的ケースやイスラエル政府関係者らの言動から、イスラエル側がハマスのみならず「ガザ全体を絶滅させる」との意図で攻撃を行っていると強調。ネタニヤフ首相含むイスラエルの戦時内閣の面々の責任が重大であると指摘しています。こうした戦争犯罪の数々を鑑みても、そして、今なおガザでの民間人の死傷者が増え続けていることからも、日本を含む国際社会は、最早ただイスラエルに対し懸念を表明するだけでは、全く不十分です。一刻も早い完全な停戦の実現と、ネタニヤフ首相らに対する戦争犯罪の責任追及を求めるべきであるし、仮にイスラエルがそれに応じないのであれば、ウクライナ侵攻でロシアにそうしたように、経済制裁も行うべきなのでしょう。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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