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年間死者120人・死傷者1万人超 巻き込まれ労災事故の実態と対処法とは

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
(提供:ideyuu1244/イメージマート)

東京都府中市で起きた凄惨な労災死亡事故

 今年1月9日、東京都府中市のアスファルト製造会社で、工場のミキサーの機械に巻き込まれる労災事故が発生し、2人の労働者が亡くなった。報道によると、2人はミキサー機械の内部で点検作業を行なっていたが、何らかの原因でミキサーが作動してしまい、機械の棒状の部分に挟まれてしまったとのことだ。2人は2時間半後に救助されたが、40代の男性1名は現場で死亡、20代の男性1名は病院に搬送されたが、死亡が確認されるという凄惨な結果となった。

 じつは、こうした「はさまれ・巻き込まれ」型の労災死亡事故は、日本国内において、まったく珍しいことではなく、毎月平均で10人ほどが亡くなっている。労災事故の典型の一つである「はさまれ・巻き込まれ」は、なぜ、どのように起きてしまうのだろうか。そして被害に遭ってしまったとき、被害者や遺族は、どのように対応すべきなのだろうか。今回の事故を教訓とするためにも、解説したい。

「はさまれ・巻き込まれ」によって、2021年だけで120人が死亡

 厚労省は毎年、労働災害発生状況 を公表している。この統計を見てみると、「はさまれ・巻き込まれ」型の労災事故によって、2021年で120人、2020年で126人が亡くなっている。死傷者数で言うと、2021年で1万1763人、2020年で1万3602人にも上る(2021年の数値は12月17日時点での速報値であり、現在集計中のため、死傷者数はさらに増加すると見られる)。いずれも、非常に高い数値で推移していると言って良いだろう。

 死亡労災事故の型のうち、2021年の1位は「墜落・転落」の179件だが、120件の「はさまれ・巻き込まれ」は2位となる。死亡労災事故の中でも大きな位置を占めていることがわかる。

 なお業界別に見ると、「はさまれ・巻き込まれ」型の労災事故は、製造業で多く発生している。死亡災害について見てみると、2021年は46人が死亡し、5504人が死傷しており、製造業だけで被害の半分近くを占めているのである。

機械のメンテナンス中の労災を防ぐための危険防止措置とは

 次に、「はさまれ・巻き込まれ」型の労災事故が多く発生している背景や、経営者に求められる対策を見てみたい。とはいえ、いろんなパターンが存在する。

 今回の府中市の事故では、ミキサーの機械のメンテナンス中に、機械が作動してしまったという経緯が報道されている。そこで、同様の条件で「はさまれ・巻き込まれ」型の重大な労災事故が発生したと考えられる事件を見てみたい。2021年に労働基準監督署が企業を書類送検し、公表されている事件から、いくつか紹介しよう。

・千葉県・建設会社

 道路工事現場において、機械に詰まったモルタルの除去作業中、機械を作動されてしまい、モルタルを混ぜる金属プロペラに労働者が右腕を巻き込まれ、重傷。

・大阪府・木材素材メーカー

 製造した木質繊維板を積み重ねるスタッカーを労働者が調整作業中、運転を停止していた機械を別の労働者が起動させてしまい、作業中の労働者は機械に挟まれ死亡。

・兵庫県・大手パンメーカー

 工場の容器の洗浄ラインにおいて、機械内で修復作業に当たっていた労働者が、容器と機械の内壁の間に頭や上半を挟まれ、死亡。

 これらの事件は、いずれも同じ労働安全衛生法等の違反で書類送検されている。まずは労働安全衛生法20条違反である。同条では、「機械、器具その他の設備(以下「機械等」という)による危険」について、「危険を防止するため必要な措置を講じなければならない」と定めている。経営者は、危険のある機械を労働者が使用する際に、危険防止措置を講じる義務があるということだ。

 では、具体的にどのような措置を取るべきだったのだろうか。上記の事例はいずれも、具体的な危険防止措置を定めた労働安全衛生規則107条に違反していた。同条1項は、機械(刃部を除く)の掃除、給油、検査、修理または調整の作業を行う場合には、機械の運転を停止しなければならないと定めている。

 続く2項では、機械の運転を停止したときに、機械の起動装置に錠を掛け、当該機械の起動装置に表示板を取り付けるなどして、他の労働者が機械を運転することを防止するための措置を講じなければならないと定めている。

 このように、経営者は、労災事故を防ぐために、危険な機械の清掃・給油・検査・修理・調整の際に、まず運転を停止させること、同時に、運転を再開させないための施錠や表示板による対応をすることが最低限義務付けられているのである。こうした対策がなされていなければ、労働者は業務命令を拒否し、速やかに会社に対策を求めるべきだろう。

 今回のアスファルト工場のミキサー機械の事故でも、運転の停止や、施錠や表示板といった危険防止措置が取られていなかった可能性が疑われるのではないだろうか。

労災申請、そして会社の責任の追及を

 最後に、自分や周囲の人が重大な労災事故に巻き込まれてしまったら、どうすればいいのだろうか。

 まず、労災保険制度を利用しよう。労働基準監督署に労災事故に遭ったことを申請すれば、治療費の全額に当たる療養給付と、賃金の8割に当たる休業給付が払われる。基本的には会社に申請すれば、手続きをしてくれるはずだ。さらに改めて申請を行うことによって、後遺症が残る場合には、障害給付が支給され、万が一、被害者が亡くなった場合は、遺族に遺族給付が支給される仕組みになっている。

 労災の給付が降りても、それだけでは不十分だ。会社側の責任を追求して、慰謝料や、本来今後の生涯で受け取ることのできたはずの逸失利益といった損害賠償を会社に請求することができる。労災ユニオンが解決した事例を紹介しよう。

 この事例は、メーカーに派遣されていた派遣労働者の40代男性のもの。業務中、工場の機械が手を貫通し、指を二本欠損してしまった。労災からの給付こそ受給できたものの、自由に使えなくなった手のまま工場で働き続けることは難しく、離職することになってしまった。

 しかし、工場の機械には安全装置が付いておらず、労働安全衛生法や労働安全規則違反であり、会社に責任があることは明らかだった。男性は友人のつてで労災ユニオンという団体があることを紹介され、同ユニオンを通じて派遣先のメーカーと交渉することにした。その結果、会社に責任を認めさせ、慰謝料、逸失利益等多額の損害賠償を支払わせることができた。

 もちろん、事故で欠損したり機能を失ったりした身体が返ってくるわけではないし、奪われた命は二度と戻ってこない。しかし、残された被害者自身や遺族の生活を少しでも過ごしやすいものにするためにも、同様の被害を今後起こさせないよう経営者に徹底的にわからせるためにも、損害賠償請求を行うことは非常に大事なことだ。

 一向に減る様子のない「はさまれ・巻き込まれ」型の労災死亡事故だが、労働者や遺族が声をあげ、損害賠償を払わせることが当たり前になることによって、会社は重い腰を上げ、危険防止措置を促進せざるを得なくなっていくのではないだろうか。

 とはいえ、個人での請求は困難だ。ぜひ専門家に相談してみてほしい。

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NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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