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より良い避難所のために・災害弱者を守るために:避難所ストレスの今とこれから、そして対処法:熊本地震

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ:中越地震発生時の避難所玄関:筆者撮影)

■避難所ストレスと震災関連死

避難所ストレスは、災害ストレスの中でも長期的に続くストレスです。阪神淡路大震災では、全死亡者の14%が関連死、新潟県中越地震では3分の2が関連死と言われていますが、避難所ストレスは大きな災害関連死の大きな要因になっています。避難所の環境を良くすることは、心のケアだけでなく、命を救うことにもなるのです。

夜になると、今日も避難所のあちこちから、すすり泣くこ声が聞こえます。

■避難所設置から解消まで

1 混乱期:生命確保期:地震発生から数日

大混乱の中で、必死になって命を守る最低限のことが行われる時期です。

2 生活確保期:数日~1週間

避難者も少しずつ落ち着きを取り戻し始める時期です。生活の場としての避難所整備が進められます。援助物資は多数届けられますが、一部の避難所に偏ってしまう問題も出ます。

どうしても、多く報道された有名な被災地の、大きな避難所に、支援物資もボランティアもマスコミも集まります。

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3 秩序確立期:地震発生から1週間~1ヶ月

避難所ごとに自治組織ができ、運営のルールが作られていきます。食事メニューが単調などの不満も出やすくなります。これは、決してわがままではなく当然のことなのですが、気をつけないと人間関係が悪化します。

ボランティアも、ただおにぎりを持ってくるのではなく、楽しさやイベント性が求められます。災害時でも、楽しさは必要です。

4 自立運営期:機能回復期:地震発生から1ヶ月~3ヶ月

避難所での生活が安定し、避難所運営も軌道に乗ってきます。しかし災害ボランティアに疲れがたまってきます。仮設住宅が建設されてますが、不便なものが多いと、空家が目立ってしまいます。

5 避難所解消期:正常化

避難所が閉鎖され、正常な生活が戻ってきます。ただし、最後まで取り残されやすい災害弱者の問題を忘れてはいけません。

■避難所の強者と弱者

情報を素早く得ることができる、体力がある、決断力がある。このような災害強者たちは、しばしば良い避難所の良い場所に早く行き着くことができます。

情報が得られない、体力も決断力も弱く素早く行動できない災害弱者は、避難が遅れ、よくない避難所の良くない場所しか空いていないこともあります。今回は、室内になかなか入れない人もいました。

これまでの災害における避難所でも、高齢者が体育館の隅の寒いところにいるといったことは、見られることです。

■人それぞれの避難所ストレス

高齢者や身体的な障害がある人は、段差が辛いでしょう。建物内も、仮設トイレも、大きな段差のあるところもあります。若い女性は、プライバシーのないことが苦痛です。着替えもトイレも大きなストレスになっている人たちがいます。

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夜中にトイレに行くことなどない人もいれば、必ず行く人もいます。寝ている人たちの間を歩いいていくことを申し訳なく思う人もいれば、その足音が辛く感じる人もいます。

大勢の人と雑魚寝状態をとても苦しく思う人もいれば、一人暮らしの高齢者の中には、みんながいてくれることを嬉しく思う人もいます。冷たいおにぎりをばくばく食べられる人もいれば、飲み込みにくい人もいます。

静かな環境を求める人もいれば、賑やかさが欲しい人もいます。

みんなで協力して避難所運営をするべきだと考え、そこに生きがいを感じる人もいます。それは良いことなのですが、避難所から通勤する人もいます。うっかりすると、仕事に行く人を責めたくなる人も出てしまいます。仕事に行く人も、地元で働き、広い意味では地元の復興に関わる人なのですが。

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■より良い避難所のために:共に活動すること

より良い避難所のために、自衛隊やボランティアが活躍してくれます。しかし、大切なのは避難者も共に活動することです。

疲労困ぱい仕切っている時には、自衛隊やボランティアに頼りましょう。甘えることも必要です。けれども、自分たちでできれば、もっと素晴らしいでしょう。

調理が得意な人、アウトドアが得意な人、日常大工が趣味の人。高齢者との会話や子供と遊ぶのが好きな人。全ての人の力が必要です。自分たちの力で、少しの工夫で生活が快適になれば、元気が増します。体を動かせば、病気も防げます。

困っていることを話し、できることを話し、協力しあえるコミュニケーションができれば、人間関係が良くなり、心身の健康につながるでしょう。

■避難所転居ストレス

様々な理由で避難所を移る人もいます。今回の熊本地震でも、もう3回も避難所を移っているという人もいます。地震直後に、近所の保育所や駐車場に近所の人と共に集まる人もいます。一時的な避難所に行く人もいます。災害強者は、近所の駐車場でもより快適な避難場所にすることもできます。県外に脱出する人もいるでしょう。

災害弱者が、後の方で避難所に入ることもあります。それでも、リーダーシップの取れる災害強者がいてくれれば、災害弱者にとっても快適な避難所作りに努力してくれるでしょう。

しかし、行動力があり、人脈があり、経済力がある災害強者から避難所を出ます。頼りになる強者の人々が減っていきます。最後には、災害弱者が残ります。避難所から出られない理由も様々です。

避難所の人数が減ってくれば、避難所の統廃合が行われます。慣れ親しんだ避難所から退所し、新しい避難所へ行かなくてはなりません。新しい人間関係も作らなければなりません。これは、大きなストレスになります。

東日本のある小さな避難所に、最後まで残った高齢の女性がいました。その方は、退所前に、お世話になったからと言って丁寧に掃除をしていました。ひとりぼっちの掃除です。全ての仕事を終え、避難者も職員も誰もいない避難所に向かって、女性は一人で深々と頭を下げていました。

誰か一人でも、一緒に掃除してくれていたら、心の疲れは段違いでしょう。手伝ってくれなくても、最後に職員でもボランティアさんでもが出てきて、挨拶に答えてくれるだけでも、避難所を出る女性に笑顔があったことでしょう。

被災地には、避難所には、多くのニーズがあります。

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社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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