縮小する音楽市場で8年連続増収、最大手外資の躍進の裏に異色施策【後編】
国民的ヒット曲が出にくくなった昨今において、若い世代を魅了する新人アーティストを輩出し続け、コロナをものともせず売上を伸ばすユニバーサル ミュージック(UM)。その躍進の裏には、かつて制作も手がけていた藤倉尚社長の経営手腕がある。外資系では異例となる契約社員の正社員化を断行した藤倉尚氏にその成果とUMの未来を聞いた(前編から続く)。
■外資では異例の正社員化、業績は上昇傾向にドライブ
2014年に社長に就任した藤倉氏は、外資系音楽会社としては異例の契約社員の正社員化を掲げるとともに、アメリカ本社とのタフな折衝を経て実現させた。当時その取り組みはメディアでも取り上げられていたが、それによる成果はいまどう表れているのだろうか。
「2018年に正社員制度ができる前までは、70%が有期の契約社員、残りの30%が60歳までの雇用制度がある正社員でした。つまり70%の社員は短期で力を発揮できなければ会社を去らなければならない可能性があり、実際そういうことがたくさんありました。私もそういう雇用形態で勤めていました。
そこで何が起きるかというと、目先の成果に注力せざるを得ない。もちろんいいこともあります。能力主義が謳われた2010年代はとにかく結果を出すことが求められ、期限付き契約になるアーティストもそれを歓迎しているところがありました。
しかし、音楽ビジネスが、発売から1ヶ月で結果が出るCDから、ロングタームで再生回数が増えていくストリーミングに移行していくなか、中長期タームでアーティストに長く寄り添って、より腰を据えて働いてもらう方がいいという思いがありました。日本のこうした考え方や雇用制度をアメリカ本社に理解させるのは簡単ではなくて、2014年から業績を伸ばし続けてきた結果、特殊なケースとして認められ正社員化に踏み切れました。
結果として、正社員化後の2019年〜2021年の業績は、市場が横ばいのなか、上昇の伸びにドライブがかかっています。我々のような外資系音楽会社の働き方で何が一番いいのかは答えがありませんが、アーティストも社員も安心して成果を出す体制を作るために模索した今の答えがこれです」
■2030年に向けて掲げる目標は「日本の才能を世界に届ける」
一方、社長就任から8年連続増収と結果を出し続ける藤倉氏が、UMの未来に向けて掲げるのは「2030年に日本の才能を世界に届ける会社になる」という目標。「今は音楽だけをやっていますが、そこに特定しているわけではありません」とし、異業種との協業も視野に入れて会社の未来を見据える。
「世界を考えたとき、製品だけの競争だとそれぞれの国特有の社会や文化の事情が壁になることがありますが、音楽などエンタテインメントやクリエイティブと一緒だと国境を超えやすい。国をあげてそれを推進しているのが韓国ですが、日本もやっていくべき。単なるタイアップコラボではなく、そういうポリシーや考え方を共有できる企業や自治体と一緒に世界進出に取り組むことができればと考えています」