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監督や先輩のパワハラとイジメで元韓国代表が自殺の衝撃…その闇とは?

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
写真はイメージです。(写真:アフロ)

韓国スポーツ界を揺るがす悲しく衝撃的な出来事が、またもや起きてしまった。

トライアスロンの元韓国代表だったチェ・スクヒョンが、6月26日にこの世を去っていたことが明るみになった。

享年22歳。2015年には高校生ながらトライアスロン韓国代表にも選ばれた有望株だったが、自ら命を絶ってしまったという。それも所属した慶州市庁トライアスロンチームの監督、先輩、チームドクターから受けていた熾烈な“パワハラ行為”を苦に、自ら命を絶ってしまったというのだ。

2018年平昌冬季五輪ボブスレー・スケルトン韓国代表監督で、現在は未来統合党の国会議員であるイ・ヨン議員が7月1日に記者会見を開いてその事実が明かされたのだが、遺族が公開した故人の音声データやノートの内容が衝撃的だ。

食事の席で炭酸飲料を注文したことでスポーツ選手としての自覚がないと先輩たちになじられ、監督に無断で桃を食べただけで監督に殴られたこともあったという。

「こっちへ来い!! 歯を食いしばれ!!」「おい、カーテンを閉めろ!」など怒号が響く音声は戦慄が走るほどで、それに耐え怯えていた選手のことを思うと不憫でならない。

(参考記事:数々の“残酷行為”明らかに…自殺した元トライアスロン選手が集めていた録音データや日誌が公開)

韓国スポーツ界で“パワハラ”問題が発覚するのは今回が初めてではない。

2018年には、ショートトラック韓国代表で2014年のソチ五輪で金1、銀1、銅1、平昌五輪でも女子3000mリレーで金メダルを獲得したシム・ソクヒが、コーチから常習的な性的暴行を受けていた事実を告発している。

昨年は平昌五輪で韓国はもちろん、日本でも話題となった“メガネ先輩”キム・ウンジョンら女子カーリング選手たちが選手全員で記者会見を開き、コーチ陣や連盟首脳部から受けたパワハラを告発して大問題になった。

ただ、“パワハラ”を苦に選手が自ら死を選んでしまう悲劇は今回が初めてだ。報道によると、チェ・スクヒョンは今年4月にKOC(大韓体育会)に設置されているスポーツ人権センターに“パワハラ被害”を訴えていたようだが、大韓体育会や大韓トライアスロン協会は事態を深刻に受け止めるべきだろう。

と同時に、韓国スポーツ界は問題を根絶するために、いよいよ真剣に体質改善しなければならないときが来たのではないか。

韓国スポーツ界でパワハラが絶えないのは、指導者と選手の関係が“師弟関係”から“上下関係”に、ひどい時には“主従関係”になってしまうことが大きい。

ソウル大学のスポーツ科学研究所が2016年に発表した研究結果によると、暴言や脅迫、暴行を加えられたことのあるスポーツ選手は約38%に上るというデータもあり、パワハラや暴力を受けても泣き寝入りするしかない。

「車に轢かれようが強盗に刺されてもいいので死んでしまいたいという思いが、数百回も頭の中に浮かぶ」。亡くなったチェ・スクヒョンが書き残していた練習日誌には、精神的に追い詰められていた苦痛が綴られていたという。

この悲痛の叫びを韓国スポーツ界は重く受け止め、これ以上被害者を増やさぬよう、対策を徹底すべきだろう。

すでに大統領府が設置している『国民請願』には「トライアスロン有望株の悔しさを晴らしてください」という書き込みに、約3万人の同意が集まっている。文在寅大統領もスポーツ人権問題を徹底的に見直すよう関係各所に強く指示したという。

選手の競技者人生だけでなく、命までも奪ってしまった指導者によるパワハラや暴行が根絶されることを強く願う。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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