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久保建英、パリ五輪代表招集の断念は当然の帰結。北京五輪、本田圭佑や長友佑都の成功例へ

小宮良之スポーツライター・小説家
久保建英(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

オーバーエイジ枠の議論

「オーバーエイジ(OA)枠3人は誰に?」

 男子サッカー五輪代表は、パリ五輪出場決定後、その議論が活発に展開されていた。

 個人的に選出するなら、FW上田綺世(フェイエノールト)、MF守田英正(スポルティング・リスボン)、DF板倉滉(ボルシアMG)になるか。U―23アジアカップを通じ、縦のラインに揺らぎがあった。確実に仕留められるストライカーを擁し、攻守をリンクさせ、守備のところで補強することで、戦力アップを図れるが…。

 しかし筆者は「その議論は意味がない」と訴えてきた。

 OAは誰を選ぶか、という話は楽しいが空虚である。なぜなら、五輪はクラブに派遣義務がなく“交渉ありき”。選びたくなるような選手を簡単に選べない。日本と密接な関係があるシントトロイデン以外、有力クラブが「悪戯に選手の体力を消耗させ、プレシーズン帯同を遅らせる」マイナスポイントばかりのOAに後ろ向きなのは無理もない。

 だからこそ、OAなしでの戦いを前提にすべきだ。

 過去の五輪でも、OAは必ずしも補強につながっていない。足手まといになることすらあった。そして、ファーストチョイスではないOAを選ぶのは本末転倒だ。

 2008年の北京五輪メンバーのように、OAなしで惨敗しても(1996年大会に出場以降では最低の成績で全敗)、本田圭佑、長友佑都、岡崎慎司、香川真司などが挫折をばねに羽ばたいていったケースもある(過去最多18人中16人が代表に選出されている)。OAが一人入れば、一人の若手の席を奪い、可能性を狭める。その事実を忘れるべきではない。

 五輪は世界一を決めるワールドカップではなく、あくまでU―23という育成年代に位置づけられる大会である(この点、五輪サッカーは歪である)。すでにプロ選手として活躍している選手よりも、この舞台から飛躍する若い選手のために用意されているのだ。

 言い換えれば、すでにチャンピオンズリーグでベスト16に勝ち上がっている久保建英が、出場する大会ではそもそもない。

久保建英の招集など言語道断

 パリ世代の久保だが、最近になって「五輪出場はない」と報じられている。当然の帰結だろう。選手、代表、クラブ、三者ともに理解を示した結論、と言われるが、所属するレアル・ソシエダがリスクしかない招集を受け入れるはずはなかった。今年1月のアジアカップでも招集された後、危惧していたようにコンディションが急下降したことを考えたら、然るべき判断と言える。

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/e34c3a6ba896f2cc1277d5fae9a05c0398329f9b

「本人は行きたい意志を示していた」

 そんな意見もあるが、本人が好む好まざるにかかわらず、体力は無限ではない。疲労の蓄積は致命的なダメージ=ケガを招く。過去にそうしたケースはいくつもあった。シーズンを欧州カップ戦も含めて戦い、大陸別の代表戦を戦い、五輪まで戦う。それは最初から”正気の沙汰ではない”。本人が出たい意向を示したという話も疑わしく、協会から打診されて「行きたくない」とは返答できないわけで…。

 久保が五輪に参加しないのであれば、それは正しい決定と言える。

 来シーズン、最高のプレーを拝める可能性が高くなるからだ。

誰がパリに行くべきか?

 では、誰がパリに行くべきか?

 率直に言って、パリ五輪もU―23アジアカップで出場権を勝ち取った選手が主力になるべきだろう。大会ベストイレブンに相当する小久保玲央ブライアン、藤田譲留チマ、荒木遼太郎などは外せない。彼らが本大会の舞台にも立つのが正当だ。

 五輪は、U―23代表の選手が世界に羽ばたくべき舞台である。そう考えると、Jリーグ組中心で十分だが、オランダやベルギーの中堅以下のクラブでのプレーの場合、五輪はジャンプアップになるだけに、彼らの出場に関しては交渉の余地がある。

 大岩剛監督が率いるようになったU―22代表からの活動が現チームの原型だけに、U―23アジアカップで招集できなかった欧州組の派遣交渉には手を尽くすべきだ。

 デンマークでカップ戦も含めて二けた得点の鈴木唯人は参加が難しい状況のようだが、オランダ1部で攻撃の中心になっている斎藤光毅、バイエルン・ミュンヘンのセカンドチームで定位置をつかんでポルトガル1部でも試合に出ているMF福井太智などは、戦力アップの人材になる。言うまでもないが、異国で試合を重ねてきた選手は必然的に適応力も高く、正念場で力を発揮するはずだ。

 繰り返すが、五輪サッカーは育成大会である。結果以上に戦いを糧にできるか。五輪の舞台に立てなかった選手の方が、目覚ましい成長を遂げている例も忘れるべきではない。シドニー世代の遠藤保仁、アテネ世代の長谷部誠、ロンドン世代の大迫勇也、リオ世代の伊東純也、守田英正、鎌田大地など枚挙にいとまがない。挫折こそ闘志に火をつけるのだ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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