地方都市の駅近マンションが都心の物件よりも人気に まさかの逆転現象が起きた理由
今、不動産会社の多くが、地方都市での新築分譲マンション開発に興味を示している。その理由は、「地方であれば、駅に近い場所でも土地の値段が安く、購入者も多い」と判定するからだ。
地方の駅近マンションの住戸は、子育てファミリー向けの3LDKだけではない。1人暮らし、2人暮らし向けの1LDK、2LDKが多く設定され、シニアに大人気なのである。
「シニアになったら、都会暮らしが最高」とも言われたが
「高齢になったら、都会暮らしが最高」と言う人がいたのは20世紀に入った頃。「だって、都会なら、お芝居を見に行くのも、デパートで買い物するのも楽。美術館や博物館も身近にいっぱいあるので、シニアの暮らしに最適」……そんなセレブ感満載なことが真顔で言われたものだ。
今なら、「どこに、そんなお金があるのよ」と大ひんしゅくだろう。思えば、2000年、2001年当時は、バブル崩壊後であっても「ミレニアム」だの「新世紀」だのと浮かれる要素があり、まだふところに余裕があったのだ。
同時に、「都心マンションブーム」が起きた頃でもあった。JR山手線内側の新築分譲マンション3LDKが5000万円、6000万円という価格で購入でき、一方で郊外の一戸建てが今よりも高く売れた。だから、郊外の一戸建てを売って、マンションを購入でき、「高齢になったら、都心で暮らしましょう」という人も現れたのだと考えられる。
今とは、事情が大きく異なっていたのだ。
都心マンションより人気が高い、郊外駅近マンション
現在、都心の新築分譲マンション3LDKの価格は1億円を大きく超え、2億円以上が珍しくない。一方で、郊外で駅から離れた一戸建ては、値段を下げても買い手がつきにくくなってしまったので、「高齢になったら、都心でおもしろおかしく暮らしたい」と考える人はいない……少しはいるかもしれないが、私が知っている範囲にはいない。
しかし、郊外や地方都市では、「高齢になったら、駅近暮らしが最高」と考える人はいる。というか、そう考える人が以前より増えている印象だ。
そのことを証明するように、地方都市で駅近マンションの短期完売が続出している。滋賀県の大津市では、2年ほど前、大津駅徒歩1分で建物の1階がスーパーマーケットになっているマンションがほとんど即日完売の状態。栃木県小山市では、昨年JR宇都宮線・両毛線・水戸線のほか、東北新幹線も利用できる小山駅から徒歩3分の再開発エリアに建つマンションが短期間に完売した。
だから、不動産会社が、地方の駅近マンションに注目しているのである。
駅に近くて便利なマンションがシニアの2人暮らし、1人暮らしに大人気……まるで、都心マンションと地方マンションで人気が大逆転したかのようだ。地方で駅近のマンション人気が上がっている理由は、それまでの家が駅から遠く離れており、不便であるからに他ならない。
免許返上で、駅から離れた一戸建ては“離れ小島”に
地方で駅から離れた住宅の生活は、「車で出かける」ことで支えられてきた。だから、一家に2台、3台の車を所有することが珍しくなかった。
ところが、今はその車を運転できない高齢者が増えてしまった。本人は「まだ運転できる」と思っても、周囲から「もうやめなさい」といわれる。万一、事故を起こして人様にケガをさせたり、命を奪ったらどうするのだ、と。
仕方なく免許を返上すると、シニア2人だけの田舎暮らしは、とたんに不便になる。利用すべきバスは少ない。本数の少ないバスで行き来すると、簡単な用事一つで半日仕事、1日仕事になってしまう。雨の日や暑い日は、出かけるのがためらわれる。
だから、思い切って駅に近いマンションを購入する。それまでの家を売って買い替えればよいのだが、今、郊外や地方都市で駅から離れた一戸建てはなかなか売れない。タダでも引き取り手がない、というケースもある。
だから、貯金をはたいてマンションを買い増しするケースが目立つ。
地方都市であれば、2LDKが2000万円台で購入しやすい。1LDKであれば2000万円を切ることもある。2人暮らし、1人暮らしなら、2LDK、1LDKで十分。それまでの家を残しているので、マンションに持ち込む家財道具が少なくて済むので、マンションは狭くてもよいのだ。
駅近マンションが生み出すいくつもの合理性
今までに比べれば、狭い住まいだが、便利なことこの上ない。鍵一つで出かけることができ、買い物も食事も歩いて5分以内で済ませられる。人生最後まで残る仕事は買い物と通院。その二つが、苦労なくできる。シニア夫婦で、どちらかが長期の入院になったときも、駅に近い場所であれば、毎日の付き添いが楽だ。
庭の掃除をする必要がなく、台風が直撃しても、屋根が飛ぶことを心配する必要もない。
そして、2000万円前後で購入できる2LDK、1LDKは、資産価値が高い。駅に近く便利なマンションなので、地方都市でも将来値下がりしにくく、値上がりすることだってある。
値下がりしないのであれば、利子がまったくといっていいほど付かない銀行預金にお金を預けているのと同じ。万一値上がりすれば、万々歳。そんな事情もあり、「歳を取ったら、駅近暮らしにしてみようか」と考えられるようになったのである。
内閣府が発表した平成29年版高齢者白書(概要版)の高齢者の経済状況によると、1世帯あたりの平均貯蓄額は世帯主が60歳から69歳の世帯で2402万円。世帯主が70歳以上の世帯で2389万円。年間収入がそれぞれ573万円、449万円あって、この貯蓄額。そして、貯蓄の主な目的は「万一に備えて」。つまり、使わずに、遺産として残す可能性の高い貯蓄となる。
遺産として残すなら、駅に近いマンションで残してもよい。マンションならば、現金で残すよりも相続税を減らす効果も期待できそう。
地方都市で、駅近マンションが増え、シニア世帯が積極的に購入する……この動きは、今後ますます進みそうだ。