「13億人の持続的成長に日本のノウハウが活きる」ーーなぜインドとの連携がシナジーを生むのか
インドの首都デリーで6月6日、環境問題に焦点を当てた『ザ・マッシブ・アース・サミット2018』が開催され、6つのテーマ、1公害、2水・衛生、3再生可能エネルギー、4農業、5電気自動車・エネルギー貯蔵、6循環型住宅について議論が交わされた。例えば水資源問題、インドのシンクタンク『科学環境センター』によると、国内で約6億人が水不足の状況にあり、約10億人が汚染水の影響を受け、国内疫病の2割の起因になっている。
◆巨大な問題解決は巨大なビジネスチャンスに
同サミットで『インドの大規模な問題を解決していくうえでのパートナー・日本』と題したパネルディスカッション(筆者も登壇)において、モデレーター役を担ったGHV Accelerator(以下GHV)のヴィクラム・ウパデアーエ代表(Vikram Upadhyaya)は、同テーマに焦点を当てた背景についてこう話す。
「排気ガスや産業廃棄物の制限、省エネ、リサイクル促進、土地利用の制限、環境汚染防止プログラムの整備など、日本は社会的・環境的な問題に対して素晴らしい改革を行ってきました。インドは13億人の人口を抱えており、これは世界人口の17%を占めます。そのため、問題も巨大になりがちです。インドが持続的な成長を続けていくうえで、日本の環境問題解決のアプローチから学ぶことは非常に多いのです」
巨大な問題解決は、そのまま巨大なビジネスチャンスになる。つい数日前には、インドのモディ政権が推し進める太陽光発電事業に対して、ソフトバンクグループが6兆円から10兆円規模の巨額投資を提案、最終調整へ入っていることが明らかになった。通信、EC、金融などで目立ったリープフロッグ(新興国が一足飛びで最新技術を導入する現象)は、エネルギーなどの環境問題解決においても同様だ。IT大国インドにおいては、プレイヤーも桁外れに多い。スタートアップ(急成長を図る新興企業)の成長ぶりが目覚ましく、いまやインド国内のスタートアップ数は世界2位を誇る。
2017年のインドのスタートアップの資金調達額は約1兆5000億円(YS Research調べ)に達し、これは日本の2717億円(ジャパンベンチャーリサーチ調べ)を大きく上回り、米国や中国に次ぐ規模感だ。そのダイナミズムの真っ只中にいる20代前半の若き起業家たちは、日本企業との連携についてどのように考えているのかーー。
◆シナジーの多様な可能性
インドの首都圏を中心に、1000以上のフィットネス施設と提携、ジム経営システムやトレーナーのスケジュール管理システムなどのフィットネスビジネスを手掛けているFitMeIn。同社に対して16年2月、日本のヘルステック企業FiNCが出資、現地の有力なパートナーとして業務提携した。FitMeInのニディシャ・ヴァルシュニCEO(Nidhisha Varshney)はこう話す。
「協業を通じて、我々はFiNCの持つノウハウを学ぶ一方で、インドのフィットネス市場で培ってきたマーケティング経験や技術的強みをFiNCに共有してきました。非常に強いパートナーシップ関係を築けていると感じています」
インドでは中間層の増加が続いており、インドの起業家から見れば、社会インフラの未整備などの山積する社会課題もビジネスチャンスとなる。フィットビジネスの成長も、厳しい暑さ、そして中間層を担うIT人材の運動不足という、昨今の需要増に応えたものだ。混沌としたインド市場だが、起業家が効果的な課題解決を生み出せば、その仕組みは急速に広まる。その中で、日本企業との相乗効果が期待できるものも少なくない。
「我々は海外市場では日本、中国、タイを意識しています。日本にも何度か出張していますが、オペレーションの自動化や料理サンプルのショーケースなどが独特で、非常に多くの学びがありました」
そう語ったのは、レストラン向けにバックエンド支援サービスを提供するAdurcupのクマ・クシャンCEO(Kumar Kushang)だ。さらに、今の場所や気分に基づいた最適な楽曲を提案してくれる音楽SNSアプリPindropMusicのヴィシュ・グプタCEO(Vishu Gupta)は、次のように話す。
「音楽はグローバル化が進んでいます。我々のアプリについても、早い段階で日本の方々に使っていただいたり、ブログで紹介いただいてきました。様々な魅力的なコンテンツを生み出してきた日本との交流・連携に、今後期待するところは大きいです」
◆柔軟かつ横断的な連携を
インドには、日本の多くのキーマンが度々訪問を重ねている。安倍晋三首相は、17年9月に首相として4度目の訪印を行ない、外国首脳初の9kmに及ぶ異例の歓迎パレードでむかえられた。インド初の高速鉄道建設について、すでに日本の新幹線方式採用が決まっているが、他路線への採用も働きかけた形だ。
また、前述したソフトバンクは、14年10月にインド最大級eコマースサイトのスナップディールへ6億2700万ドル出資をはじめ、次のアリババはインドから(同社は2000年に中国IT大手のアリババに20億円を出資、その価値は4000倍以上に膨れ上がった)とばかりに、孫正義社長は訪印や現地企業への出資を重ねている。
では、これら超大型の協業・投資から少し距離を置いた一般論として、インドとの連携が日本企業に及ぼすポジティブな影響は何かーー。10年以上の日本滞在経験を持つGHVのヴィクラム・ウパデアーエは、それは経済的メリットやIT技術連携を超えた『文化的な化学反応』にあると話す。
「最大のポイントは、文化の柔軟性でしょう。日本は規則や集合体を重んじますが、過度なルール作りはクリエイティビティやイノベーションを損ね、過度に密着したコミュニティ醸成やグループ構成は協業の機会を損ねてしまいます。同じ都市・社会のエコシステムに関わるものとして、より横断的な協力体制を築くことで産み出されるポジティブな影響力ーー、それをどう実現していくのかについて、インドの様々な側面から感じ取っていただけると思います」
これらを実現するため、GHVではこのほど日本企業向けのビジネス共創センターをインド首都近郊の経済発展都市グルガオンに立ち上げている。同エグゼクティブ・ディレクターのアヌラグ・カプール(Anurag Kapoor)は次のように語った。
「日本企業がインドへ進出するのを容易にするため、コワーキングスペースの提供、マーケットの理解、パートナーシップ関係の模索、会社設立やコンプライアンス面など、包括的にサポートできるプラットフォームを志向しています」
日本の大企業の多くは米シリコンバレーを見ているが、もっとインドへ目を向けることも必要だろう。人口13億人による国力成長、英会話人口1億3000万人という英語の浸透、24歳以下の人口構成比47%という若者率の高さ、高い技術力、循環する資金、解決すべき巨大な問題、多様性あふれる社会ーー、投資や成長を裏付ける要素がインドには揃っている。