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旅に出たくなる「宿場町まるしぇ」~いま、リノベーションとシェアが楽しい(東京都北区岩淵)

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
帰ってきた時にホッとするようにと、レトロな街灯が灯された。

・旅をキーワードにした「宿場町まるしぇ」

 明日、土曜日(4月28日)、「宿場町まるしぇ」と名付けられたイベントが東京都北区岩淵町で開催される。3月にプレ開催、今回を第一回目とするこのイベントは、江戸時代にこの辺りが宿場町だったことに因んでおり、「旅」がキーワードになっている。普段はキッチンカーなどで移動店舗として営業している店舗や、素材やものづくりにこだわっている出店者や生産者を中心に11店舗が出店する。

 主催者の株式会社岩淵家守舎の代表取締役・織戸龍也氏は、「この岩淵という土地は、かつては宿場町として栄えたところです。今もその名残りが多くあります。そんな場所なので、『旅に出たくなる』をテーマに出店者を探し、集まってもらいました。」と言う。単に産直で販売するというだけではなく、出店者や生産者と来場者がつながり、「宿場町まるしぇ」をキッカケとして現地を訪ねる関係性を作っていくことを意図している。「出店者や生産者が地域と都会を結ぶことで、各地に旅に出たくなる人が生まれてくることで、関係人口を作っていくことができればと思っています。」

・「私道」のワケ

 

 こうしたマルシェそのものは東京都内でも各地で行われており、そう珍しものではななくなってきているが、この「宿場まるしぇ」がユニークなのは、その開催場所である。開催場所は「コトイロ私道」と名付けられた、長屋の間を通る路地だ。

 この場所は、かつて染色工場があった場所に、約60年前に賃貸用の長屋が建てられたところだ。1棟4室の木造長屋が約20棟並び、それらは一人のオーナーによって所有されている。そのため、長屋の間の路地も私道なのだ。「ここを使って、地域のお年寄りや小さなお子さんがいるお母さんとか、様々な人が集まって気軽に楽しんでもらえるようなものを目指しています。」

若い世代が入ってきたことで、路地にも活気が戻ってきた。(画像・筆者撮影)
若い世代が入ってきたことで、路地にも活気が戻ってきた。(画像・筆者撮影)

・欲しい暮らしをつくる

 

 織戸氏は、住民が共同で使用する共用棟「co-toiro」(コトイロ) で話す。共用棟には、シェアキッチンとコワーキングスペースが設けられ、広々とした空間と見晴らしが良さが気持ち良い建物だ。ここも老朽化した建物をリノベーションしたものだ。

 

 「住人同士での利用や友人や知人が集まって、パーティーをしたい時や、住居が狭いために仕事や打ち合わせをする場所が無いという時に仕えるようになっています。また、住民以外の人たちにも使ってもらうことによって、ここを交流の拠点としていきたいと思っています。」

 織戸氏は、老朽化した住居をリノベーションすることで新たな住み方を提案する仕事を行ってきた。そうした中で、この岩淵町の拠点での活動を始めた。「この地域は古くからの街があり、そこに新しく若い世代が住みやすい住宅やシェアハウス、シェアオフィス、飲食店や商店などを配置しco-toiro(コトイロ)がハブとなることで、自分たちが欲しい暮らしを手につくることができると思うのです。」と話す。

 成熟化した街には、様々な機能がすでに備わっている。ただ、一つ一つが老朽化したり、現代の生活に合わなくなっている部分などがある。それらをリノベーションし、再構築し、そしてシェアすることで、豊かな生活空間を楽しめる。

 「住居として狭く、自宅では仕事のスペースが無いというのであれば、コワーキングスペースがある。友人などが来て食事会をするスペースとしてシェアキッチンが。銭湯も近くにありますし、カフェもできました。都会での住み方としては、全部自分で所有するよりも、様々な資源をお互いに共有しあうことで楽しくなるのではないかと思います。」

3月にプレ開催した時。路地に賑わいが戻ってきた。(画像・株式会社岩淵家守舎提供)
3月にプレ開催した時。路地に賑わいが戻ってきた。(画像・株式会社岩淵家守舎提供)

・賑わいが戻る

 2017年から改築した住居棟に4組が入居し、さらにシェアキッチンとコワーキングスペースを備えた共用棟が完成した。2018年にはさらにもう1棟を店舗併用住居棟とし、2組の店舗と住人が入居した。3月からは路地を使ったマルシェも始めた。

 「かつては染色工場があり、その後、60年前に木造長屋が20棟ほど建てられました。ワンオーナーで維持されてきたためにバラバラの物件ではなく、路地も私道でいろいろなイベントなどにも利用できると言う点で恵まれていると思います。co-toiro(コトイロ)と名付けたのは、コト(事)とイロ(個性)の滲み出すシェア拠点をつくるというコンセプトを元に『co-』共に、共存する『toiro (十色)』様々な色を持つこと十人十色、いろんな色に染めながら共存していこうという願いを込めています。」と話す。

 3月10日に開店した「AERU COFFEE STOP」に続いて、5月3日には、自転車店「BICYLE STUDIO R-FACTORY」が開店する。この二店舗は、一階が店舗で二階が住居というショップハウス形式になっている。通りとの壁をなくし、カフェなど店舗に入りやすくし、通りかかった人たちが気軽に立ち寄れるようになっている。

古い長屋だったとは思えないリノベっぷり。通りからも立ち寄りやすい。(画像・筆者撮影)
古い長屋だったとは思えないリノベっぷり。通りからも立ち寄りやすい。(画像・筆者撮影)

 こだわりのコーヒーを提供するカフェは、すでに人気で、散歩がてらに北区内から来る人だけではなく川口市からも自転車などで訪れる人もいる。荒川土手をランニングやジョギングする人たちの立ち寄りも多い。新しく開業した東京メトロ南北線の赤羽岩淵駅からも近く、表通りの人通りも増えている。

 「例えばパン屋、宿泊施設、シェア工房など自分たちの暮らしに中で欲しいなと思う店を誘致して、開業してもらうことで、もう一度、宿場町だったこの町の賑わいを取り戻すとともに、コミュニティの核になっていけたらと思うのです。」

 起業したいと考える人たちにとって、住まいと店舗が兼用されていることはスタートアップの際には非常に有益だ。賑わいを戻すというのは、単にチェーン店の店舗が軒を並べるだけではなく、そこで暮らし、働く人々を増やすことにある。そうした点でも、注目される取り組みだ。

居心地の良いシェアオフィス。会議やパーティー会場にも使える。(画像・筆者撮影)
居心地の良いシェアオフィス。会議やパーティー会場にも使える。(画像・筆者撮影)

・町の機能をシェアすることで豊かに暮らす

 「宿場まるしぇ」は、明日以降も5月19日、6月16日と、これから毎月開催していくそうだ。長屋のリノベーションも順次進め、町のシェア拠点としての機能を強めたいと織戸氏は話す。

 

 近年、東京都心部でも老朽化した住宅やアパートなどが増加しつつある。一方で、高家賃などからなかなか若い世代が居住したり、そこで開業したりすることが難しい現実もある。老朽化した住宅やアパートを、現在の生活に合うように、また耐震対策などを施すことで比較的安価に提供できる可能性が拡がる。

 この岩淵家守舎の取り組みは、単に住居のリノベーションというのではなく、狭小な物件であっても、周辺に存在する様々な町の機能をシェアすることで、豊かで便利に生活を楽しんでいこうという試みだ。

 ぶらりと散歩がてら「宿場町まるしぇ」を覗いてみてはどうだろう。新しい町の機能をシェアするエリアリノベーション試みを楽しみながら、体感できるのではないだろうか。

神戸国際大学経済学部教授

1964年生。上智大学卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、京都府の公設試の在り方検討委員会委員、東京都北区産業活性化ビジョン策定委員会委員、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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