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“ハリウッドのATM”に支えられてきたヒラリー・クリントン。オールスター選挙運動はヒットに終わるか?

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
ジェニファー・ロペスはクリントンのため応援ライブを開催(写真:REX FEATURES/アフロ)

大統領選まで、あと5日。昔から民主党支持派が主流のハリウッドでは、ヒラリー・クリントンが勝ってくれるかどうか、多くが固唾を飲んで見守っている。個人の懐から献金してきた人はとくに、その見返りを期待していることだろう。

何においてもビッグなハリウッドでは、クリントンに対する政治献金の額も、なかなかビッグだった。たとえばスティーブン・スピルバーグ夫妻の場合、これまでクリントンに寄付してきた総額は、230万ドル(約2億3,700万円)。彼らの親しい友人ジェフリー・カッツェンバーグ夫妻は、260万ドル(約2億6,800万円)だ。J・J・エイブラムス夫妻は280万ドル、ジェームズ・キャメロン夫妻は110万ドル。最も多いのはスペイン語のテレビネットワーク、ユニビジョンの会長夫妻で、1,350万ドル(約14億円)だった。

ここまでの金額でなくても、クリントンに政治資金を提供してきた業界人はたくさんいる。ジョージ・クルーニー夫妻が自宅を会場に提供した4月のパーティのチケットは、ひとり3万3,400ドル(約334万円)だった。さらに良い待遇を受けられるチケットは、カップルで10万ドル(約1,030万円)だ。このパーティには、エレン・デジェネレス、ジェーン・フォンダ、ソニー・ピクチャーズ会長トム・ロスマンなどが出席している。クルーニーは、同じパーティをサンフランシスコでも開き、ここでもホストを務めている。

8月には、ジャスティン・ティンバーレイク夫妻宅でランチパーティが行われたが、この時のチケットも、前回と同じ3万3,400ドルだった。この時は、ジェニファー・アニストン、ジェイミー・フォックス、トビー・マグワイアなどが参加している。このパーティは、もともとレオナルド・ディカプリオ邸で開かれる予定だったが、ディカプリオがマレーシアの公金横領に関わっていた可能性が報道されたせいか、ぎりぎりになって場所が変更されることになった(http://bylines.news.yahoo.co.jp/saruwatariyuki/20160901-00061739/)。

反トランプCMには大物スターが総出演

ちょこちょことL.A.に来ては、有名人のお友達の協力を得て、一般人にはとても手が出ない派手なパーティを開き、ごっそりとお金を集めて帰るクリントンは、「またハリウッドのATMを使いに来たか」と、やや、揶揄されたりもしている。最後までクリントンと民主党の指名を争ったバーニー・サンダースと実に対照的で、サンダースは何度も、自分への献金の平均金額が27ドル(約2,780円)であることを強調していた。サンダースを支持していたハリウッドセレブには、スーザン・サランドン、ライアン・ゴズリング、マーク・ラファロ、ロザリオ・ドーソン、ジョシュ・ハッチャーソン、シェイリーン・ウッドリー、ウィル・フェレル、スパイク・リーなどがいる。リーは、サンダースのラジオCMのナレーションも務め、自分の代表作「ドゥ・ザ・ライト・シング」に引っ掛けて、「彼ならば正しいことをしてくれる」とメッセージを送った。

サンダースは指名を逃すことになったが、彼を支持していたセレブも、反トランプという点では一致している。ラファロも、後に、ほかのセレブらと共に、クリントンを支持するCMに出演した。「アベンジャーズ」のジョス・ウェドンが監督したこのCMは、表向きこそ「投票者登録をしましょう」と訴えるもので、クリントンの名前をはっきり出すことはしていない。しかし、「人種差別者で、暴力的な臆病者が僕らの社会を永遠に破壊してしまうのを防ぎましょう」「この男に、核兵器を渡してしまっていいんですか」「悪夢が始まる前に、私たちはそれを止めることができるのです」「両方の候補者が平等に好ましい人たちだとは言えません」などと言っていることからも、クリントンへの投票をうながしているのは明らかだ。最後は、「あなたが投票してくれて、この国を恐怖と無知から守ることができたら、次の映画でマーク(・ラファロ)は全裸になります」という冗談で締めくくっている。

クリントン派業界人は200人以上

このCMには、ロバート・ダウニー・Jr.、スカーレット・ヨハンソン、ドン・チードルなど「アベンジャーズ」組のほか、ジュリアン・ムーア、ジェームズ・フランコ、スタンリー・トゥッチ、ニール・パトリック・ハリスなどが出演している。

クリントン支持を表明しているハリウッドスターには、ほかに、ダスティン・ホフマン、ロバート・デ・ニーロ、ビヨンセ、マット・デイモン、ベン・アフレック、ジェニファー・ガーナー、ジェシカ・アルバ、キム・カーダシアン、オーランド・ブルーム、トム・ハンクス、ブリトニー・スピアーズ、アン・ハサウェイ、ダコタ・ファニング、モーガン・フリーマン、ショーン・ペン、ケイティ・ペリーなどがいる。

ジェニファー・ロペスは、先月末、クリントンのために「Get Out and Vote(投票しましょう)」と名付けた応援コンサートをマイアミで主催。ロペスの元夫マーク・アンソニーも舞台に立った。一方、クロエ・グレース・モレッツは、7月の民主党大会で舞台に上がり、同世代の若者に、クリントンに投票するよう呼びかけている。クリントンへの支持を表明しているハリウッド業界人は、現在、200人以上。ハリウッドの夢を結集したこのキャンペーンが大ヒットだったかどうかは、もうすぐわかる。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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