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今年最大のイメージダウンを受けたハリウッド女優、監督兼共演者を訴える。真の悪者はどちらなのか

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
映画の共演者で監督のジャスティン・バルドーニを訴えたブレイク・ライヴリー(写真:ロイター/アフロ)

 年の瀬も迫る中、今年おそらく最もイメージダウンを受けたハリウッド女優が立ち上がった。ブレイク・ライヴリーが、「ふたりで終わらせる/IT ENDS WITH US」の監督兼共演者ジャスティン・バルドーニに対して法的な手段に出たのだ。彼女の主張するところによれば、悪者はバルドーニで、ライヴリーはセクハラと、いじめ、名誉毀損の被害者。これまで世間で信じられてきた筋書きとは、大きく異なる。

「ふたりで終わらせる〜」は、コリーン・フーヴァーが書いたベストセラー小説の映画化作品。映画化権は、バルドーニが共同創設したプロダクション会社ウェイフェアラーが取得したもの。ライヴリーが演じるのは、主人公で花屋のオーナーであるリリー。バルドーニの役は、彼女が恋に堕ちる脳神経外科医ライル。ロマンチックな形で出会い、祝福されて結婚するが、やがてリリーはバルドーニの持つ恐ろしい側面を発見していくことになる。映画は2,500万ドルの予算で製作され、全世界で3億5,000万ドルを売り上げるスマッシュヒットとなった。

 ライブリーとバルドーニの不仲説がメディアやソーシャルメディアを騒がせたのは、「ふたりで終わらせる〜」がアメリカで公開された今年8月。ニューヨークでのプレミアにお互いを避けて出席し、一緒の写真を一枚も撮らなかったことに、メディアはすぐ気づいたのだ。それ以外のプロモーションの機会でもふたりが一緒に登場することはなく、ライブリーと女性共演者がバルドーニのインスタグラムのフォローをやめたことも発覚する。

 衝突の理由のひとつとしては、撮影時にバルドーニがライヴリーのパーソナルトレーナーに彼女の体重について聞いたことが挙げられていた。バルドーニはライヴリーを抱き上げるシーンがあることを懸念していたそうだが、4人目を出産したばかりで体型が戻っていなかったライヴリーにしたら、非常に失礼で無神経な行動に映ったらしい。

 しかし、脚本に不満だったライヴリーが、夫ライアン・レイノルズに書き直しをしてもらったとも述べたことには、多くの人が違和感を覚えた。監督に相談することなく、この映画に何の関係もない人にリライトを頼むということ自体が普通ではない上、当時は脚本家ストライキの真っ最中だったはずなのだ。もしライヴリーの言うことが真実ならば、レイノルズは組合を裏切ったことになる。また、編集に関しても揉め、ライヴリーが自ら雇ったエディターに編集させたバージョンが結局通ったとの報道も出た。

「ふたりで終わらせる〜」NYプレミアに出席したバルドーニ
「ふたりで終わらせる〜」NYプレミアに出席したバルドーニ写真:REX/アフロ

 それらの話はライヴリーが「やりづらい人」であるという印象を与えたが、さらに、レッドカーペットでファンに対して冷たい態度を取ったこと、DVというシリアスな事柄を扱う映画なのにそこを完全に無視して花を前面に打ち出したこと、お酒はDVを刺激することもあるのに自分のカクテルのブランド「ベティ・ブーズ」を通じても映画を宣伝したこと、公開のタイミングでローンチする自らのヘアケアブランド「ブレイク・ブラウン」の宣伝にも余念がなかったことなどから、彼女への批判は強まる。そんなところへ、2016年にライヴリーが記者に対して失礼な態度を取った時の動画がYouTubeに浮上し、炎上してしまった。

 そんなふうに、バルドーニの問題行動にはほとんど触れられないまま、どんどんライヴリーのイメージが悪化していったのである。

セクハラに抗議したライヴリーは仕返しを受けた

 だが、ライヴリーによれば、これまで世間が聞かされてきた話は、真実と違う。彼女は、間違った行動に対して抗議をした結果、仕返しを受けたのだ。

 ライヴリーが訴訟のためのステップとして政府機関カリフォルニア・シビルライツ・デパートメントに提出した訴えによると、ライヴリーは、バルドーニとプロデューサーのジェイミー・ヒースによるセクハラに悩まされてきた。バルドーニは、脚本になかったセックスシーンを付け加えたり、自らのセックス体験やポルノに依存していたことを語ってきたりしたし、ヒースも妻のヌード写真を見せてきたり、ライヴリーが自分のトレーラーの中で、トップレス状態でボディメイクを取り除いてもらっている様子を勝手に見たりなどしてきたのだという。

 脚本家と俳優のダブルストライキがようやく終了し、撮影が再開されるにあたり、ライヴリーは夫レイノルズにも付き添ってもらい、バルドーニらとミーティングを持って、インティマシー・コーディネーターを雇うこと、セックスに関する個人的な話や体重についての話をしないこと、予定になかったセックスシーンを足さないことなど、今後気をつけてもらいたいことをはっきり述べた。

 バルドーニの会社ウェイフェアラーも、映画を配給するソニー・ピクチャーズも、これらの条件に合意。おかげで、以後は、バルドーニとヒースの行動はましになった。そこへ今度は脚本や編集などクリエイティブ面、またマーケティング方針について衝突が起きたのだ。

ライヴリーによれば、夫レイノルズは「ふたりで終わらせる〜」の脚本のリライトをした
ライヴリーによれば、夫レイノルズは「ふたりで終わらせる〜」の脚本のリライトをした写真:ロイター/アフロ

 自分に対して腹を立てたバルドーニは、自分を悪者に見せるための策略を練ったのだと、ライヴリーは主張。実際、映画のアメリカ公開前、バルドーニは、クライシス・マネジメントのコンサルタントや、別のエキスパートもチームに加えて、ソーシャルメディアやメディアを操る作戦を立てている。ライヴリーの訴状には、バルドーニがライヴリーを「叩き潰してやりたい」と思っているという内容のテキストメッセージの記録が記載されている。そんな彼らによる悪意に満ちた戦術が成功したせいで、心に大きな傷を受け、影響は夫と4人の子供にも及んだと、ライヴリーは訴える。

バルドーニは早くもタレントエージェンシーから契約を切られた

 バルドーニの弁護士は、ライヴリーのいうことを完全に否定。これはライヴリーが「自分に対する悪いイメージを覆すためにすぎない。嘘まみれでばかげている」と批判する。

 この後どんな展開になるのかはわからないが、これで続編の可能性はますます遠のいたことだけは明らかだ。ふたりの不仲説が出た段階で、このふたりがまた一緒に仕事することはありえないと言われていたものの、映画は大ヒットしたし、原作はもう1冊あるので、スタジオとしてはなんとかして続編を実現できないものかと思っていたに違いない。だが、ふたりの敵対関係がここまで公になってしまった以上、もはや希望はゼロだ。

 映画化権を持っているのはバルドーニなので、主演女優をキャスティングし直して続きを作るという道も、普通ならば考えられる。なんらかの理由で主要キャストを変更して続編が作られたことは、過去にあるからだ。しかし、原作者のフーヴァーはライヴリーの味方だし、何より「#MeToo」後の時代、セクハラの容疑をかけられた男性を支持する人は業界にいない。続編どころか、今、バルドーニは、キャリアそのものの絶対的危機にさらされている。事実、この訴訟を受けて、バルドーニは、早くもタレントエージェンシー、ウィリアム・モリス・エンデヴァー(WME)から契約を切られてしまった。

 ライヴリーが所属するのも、同じWME。彼女はエージェンシーに支えられているとはいえ、一連の出来事で堕ちたイメージを取り戻さなければ、今後のキャリアに大きく響く。彼女は来年「シンプル・フェイバー」の続編の公開が控えているし、リチャード・ギア、ダイアン・キートンらと共演する映画の企画もある。彼女自身の言葉にもあるように、4人の子供を育てる母としては、家族のためにも評判を立て直すことは悲願だ。

 果たしてこれは長い争いになるのだろうか。そこを生き抜き、正義を証明するのはどちらなのか。来年の動きが、今から気になる。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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