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「汚れた金は返せ。」レオナルド・ディカプリオに慈善団体が抗議

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
環境問題活動家としてパリ協定署名式に出席したディカプリオ(写真:Splash/アフロ)

「『ウルフ・オブ・ウォールストリート』で得たギャラは、不正使用された公金。汚れた金は返せ。」マレーシアの熱帯雨林の保護活動を行う慈善団体ザ・ブルーノ・マンサー・ファンズ(BMF)が、レオナルド・ディカプリオに、そんなメッセージを送った。

ディカプリオが主演とプロデューサーを兼任した「ウルフ・オブ・ウォールストリート」(2013)の予算を100%出資したレッド・グラニット・ピクチャーズが、マレーシアの歴史で最大規模の公金横領に深く関与していることについては、以前にもここで書いた(http://bylines.news.yahoo.co.jp/saruwatariyuki/20160618-00058913/)。レッド・グラニットの創設者のひとりは、マレーシア首相ナジブ・ラザクの義理の息子リザ・アジス。映画のエンドロールで「Special Thanks」のクレジットをもらっているジョー・ロウは、アザクのアドバイザーを務め、マレーシア国民のために政府が始めた投資基金1マレーシア・デベロップメント(1MDB)の管理と運用を担当してきたエリートビジネスマンだ。だが、今年に入って、1MDBから、巨額なお金が用途不明なまま消えていることが発覚。当初、レッド・グラニットは、「ウルフ・オブ〜」のためにレッド・グラニットが出した1億ドルは1MDBと関係ないと主張していたが、今ではほぼ間違いなく横領金の一部であると見られている。先月には、アメリカ司法省も腰を上げ、アジス、ロウらの資産について、本格的に調査をし始めた。

「ウルフ・オブ〜」で、ディカプリオは2,500万ドルの出演料を得ている。その当時、ディカプリオが金の出どころを知っていたかどうかは明らかでないが、実態が明るみに出た今、ディカプリオは、横領された公金を返金するべきだと、BMFのエクゼクティブ・ディレクター、ルーカス・ストローマンは、今週、声高に訴えた。ストローマンを怒らせているもっと大きな理由は、ディカプリオとアジス、ロウの蜜月関係が、熱帯雨林の破壊につながっていることだ。政治腐敗のひどいマレーシアでは、政府が賄賂と引き換えに、林業の業者にどんどん木を切らせていると、ストローマンは指摘。ディカプリオは地球環境の危機を長年提唱してきたことで知られる人で、その目的のためにレオナルド・ディカプリオ財団を創設している。「私たちと同じ使命をうたいながら、腐敗したお金を受け取るのは、矛盾であり、恥ずかしいことである」と、ストローマンは、ディカプリオに向けた公開状の中で述べている。

ディカプリオとアジス、ロウらの関係は、映画1本に限られたものではなく、長年にわたる、かなり強いものであることも、ここにきて明らかになっている。ディカプリオは、2010年にも、ロウに招待されて、南アフリカにサッカーのW杯を観に行った。2013年、ロウは、ディカプリオ財団のために、チャリティオークションでアートを110万ドルで競り落としている。その110万ドルの出どころが1MDBだったことも、現段階ではわかっている。また、同じ年のディカプリオの誕生日パーティでは、ディカプリオ財団に寄付されるという目的のもと、高値がつけられたシャンパンが売りに出され、ロウと、レッド・グラニットの共同創設者ジョーイ・マクファーランドは、ずいぶんそれらを購入したらしい。その前の年のディカプリオの誕生日には、ロウとレッド・グラニットが、60万ドルを払ってマーロン・ブランドが受け取ったオスカー像を購入し、プレゼントしている。また、レッド・グラニットのオフィスは、ディカプリオのプロダクションカンパニー、アピアン・ウェイと同じビルの、1階上のフロアにある。

これらの事実が露呈するのと同時に、ディカプリオ財団における金の流れにも不透明な部分が多くあることが明るみに出始めた。この団体は、非営利団体(NPO)ではなく、寄付者助言基金(DAF)として設立されていることから、収入と支出の内訳の公開が義務付けられていない。とは言え、環境保護のためのチャリティ活動を行う団体をうたっていることから、慈善事業関係者が、チャリティイベントの経費は誰が払い、上がった収益のうちいくらが実際にチャリティに寄付され、いくらが運営費用に回されるのかなど、いくつか基本的なことを質問しても、答が返ってこないのだという。たとえば、ディカプリオは、南仏で、参加費ひとり1万ドルの派手なチャリティイベントを開催し、500人を集めたりもしているが、そのお金の行き先もわかっていないのだ。

ディカプリオは、「タイタニック」でトップスターになった頃から、環境問題への関心を語っていた。トヨタがプリウスをデビューさせた時には誰よりも先に購入し、2007年には、環境についてのドキュメンタリー映画「The 11th Hour (日本未公開)」をカンヌ映画祭で上映している。映画はディカプリオがプロデュースしたもので、自ら出演もした。来週開幕のトロント映画祭でも、新たなドキュメンタリー映画「The Turning Point」がプレミア上映される。

先週は、ヒラリー・クリントンの資金集めパーティのためにディカプリオが自宅を提供することになっていたのに、彼が直前になってホストを降板し、会場が急遽、ジャスティン・ティンバーレイク夫妻の自宅に変更されるという出来事もあった。ディカプリオ側は、「The Turning Point」の編集作業が忙しく、ニューヨークから戻ってこられなかったためと説明しているが、本当の理由は、1MDBのスキャンダルにディカプリオとその財団が多少なりとも関与しているという事実が、クリントンにとって望ましくないからではないかと見る向きもある。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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