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ライブを見るように映画を見る?!〜『#シン・ゴジラ』発声可能上映が示した映画の新しい可能性〜

境治コピーライター/メディアコンサルタント
スクリーン入口に掲げられた注意事項、録音・撮影以外ほぼ何をしてもいい

【注意!】この記事はどうしてもネタバレになってしまう内容です。『シン・ゴジラ』を未見の方は、いますぐ見てから読んでください!(見れば絶対面白い映画です。この記事も見てから読むと絶対面白いです!)

叫んでもいいし、コスプレもありの映画上映?!

9月15日19時30分、私は川崎のシネコンに駆けつけた。指定のスクリーンに行くと、入口に上の画像のような注意書きが掲示されている。「発生可能上映」についての注意書きだ。録音・撮影は禁止だが、声を出してもいいしサイリウムを使ってもいい、コスプレもありと書いてある。

その下にはこんな「作戦要項」もあった。

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「巨大不明生物のより楽しい鑑賞を目的とする発生可能を主軸とした作戦要項」という長ーいタイトルの文書で、その下には「第一段階:発生目標位置・参加者各位が贔屓とする台詞登場時」とあり、以下要するにどう楽しめばいいかが作戦指示書風に書かれている。自分が楽しみたいように声を出して楽しんでください、ということだろう。

この「作戦要項」は映像版も編集され、YouTubeで事前に公開されている。

ぎりぎりで席に着くと、満員。コスプレの人も何人かいたがほとんどは普通の服装だった。だがサイリウムを手にした人はけっこう多い。ざわざわと上映開始を待っている。

最初にCMが流れ、その台詞に食いついてさっそく発声する人もいる。そして様々な予告編が流れ出すと、ウォーミングアップとばかりに発声がはじまる。ラブシーンにひゅーひゅー言ったり、いじめに立ち向かう物語には「がんばってー!」と声援が。『海賊と呼ばれた男』の予告編に「海賊王におれはなる!」との発声が飛んで映画館が笑いに包まれた。

経緯についてはあとで書くが、これは名前通りの「発声可能上映」。いまロードショー公開中の映画『シン・ゴジラ』が、この日のこの時間だけ、全国25館で「発声可能上映」されたのだ。どんな様子か知りたくて私も参加してみたら、こんな映画の見方があるのかと驚いた。

予告編が終わると、マナー注意の映像が出てくる。その中で「上映中のおしゃべりはご遠慮ください」と出てくると一斉に「ええーーーー?!」と驚き、続いて爆笑。さすがにこの上映会用に差し替えはできなかったようだ。

本編がはじまると2時間の”お祭り”状態に

やがて本編がスタート。「東宝」の例のクレジットが出てくると、もう「トーホー!」の発声。「東宝映画作品」には「トーホーエイガー!!」、「映倫」のマークが出ると「エーリーン!」。叫べるところは何でも叫ぶ勢いだ。

物語にはいると、何かにつけて「おおおー!!」「ええーーーー?!」「逃げてー!」と発声し放題。

「テレビつけて」の台詞の前に「テレビつけてー!」と先どりした発声が。会議中はしばらくおとなしく見ているのだが、「では○○○室に移動しましょう」と言われると「はーい!」「わかりましたー!」と小学生のように返事をする。

人気キャラが画面に出てくるとそのたびに声援が、「そうりー!」などと飛び交う。閣僚で人気なのが余貴美子演じる防衛大臣。「花森さーん!」と声が上がる。

そしてこの人、市川実日子演じる環境省自然環境局野生生物課長補佐が出てくると「尾頭さーーーーん!」と盛り上がる。官僚側の大人気キャラだ。

いよいよ上陸した第二形態を真正面から撮ったシーンには大拍手。サイリウムが一斉にふられる。「蒲田くーん!」の声援も。一気に会場が祭り化した。

巨災対(巨大不明生物特設災害対策本部)のシーンで流れる打楽器を使った独特の音楽がはじまると、そのリズムに合わせて会場中が手拍子を打つ。この曲は様々にアレンジされながら何度も出てくるが、そのたびに手拍子で盛り上がった。

その後はもうずーっと躁状態が続く。「財前さーん!」「目標が報告と違う!」「ごめんなさい」「カヨコー!」人気キャラが登場するたびに名前を叫び、名セリフはみんなで唱和する。そのたびに会場が一体となって盛り上がり、笑いに包まれる。

都心が焼き尽くされ、移動した立川で感情を爆発させる矢口蘭堂に”泉ちゃん”が水を差し出すシーンでは、ペットボトルを手に一斉に「まずは君が落ち着け!」との発声。これだけは私もミネラルウォーターを準備して楽しく発声した。この場面は「ボトルドン」とか「水ドン」などと呼ばれ人気シーンのひとつだ。

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名セリフはシールになって入場時に配られている。これは垂涎のアイテムだろう。

さていよいよ「ヤシオリ作戦」のスタートだ。物語とともに場内も最高潮を迎える。「仕事ですから」を唱和し、出撃前の隊員たちを前にした矢口のスピーチには拍手が沸き起こる。新幹線の突撃にまた拍手。倒れたゴジラに凝固剤が注ぎ込まれると「イッキ!イッキ!」のエール。そして極め付けは無人在来線爆弾!これには最大の盛り上がり!一度起ち上がったゴジラが固まった瞬間、もっとも大きな拍手が沸き起こる。「おつかれさまー!」「ごくろうさまー!」巨災対、そして自衛隊と米軍の一致団結した戦いの、労をねぎらう。

もちろん、最後のゴジラの尾の謎めいたアップに「おやー?!」との驚きの発声も忘れない。

エンドクレジットでは、人気キャラを演じた役者の名前が出てくると反応する。登場場面の短かった役者にも「タクミー!」「はいりー!」「たきー!」と声が上がる。庵野秀明の名は途中に5〜6回出てくるのだがそのたびに「あんのー!」と叫ぶ。そしてもちろん、最後の「脚本・総監督 庵野秀明」のクレジットにさらに大きな声で「あんのー!」と声が上がり、最後に「終」の大きな文字に大拍手!最後の最後まで発声し尽くす上映となった。

いやなんとも疲れる映画鑑賞だったが、こういう楽しみ方もあるのかと強い感動を覚えた。この映画を観るのは4回目だったがこんなに笑って「楽しい!」と感じたのははじめてだ。本来、そういう映画ではないはずだが。

25の映画館が監督・役者たちとともにひとつになった

会場が明るくなっても、誰も立とうとしない。まだ催しがあるのをみんな知っているのだ。川崎のスクリーンにまた映像が映し出される。TOHOシネマズ新宿の発声可能上映会場だ。舞台に登場したのは”泉ちゃん”役の松尾諭氏。壇上に上がると会場は大歓声に包まれる。マイクを握って「まずは君たちが落ち着け!」で大爆笑。続いて”尾頭さん”役の市川実日子氏、”安田”役の高橋一生氏、そして総監督・庵野秀明氏。舞台挨拶、というよりファンイベントのような催しが始まった。

催しといっても、MC役の松尾氏が三人に話題を振ったり、会場からの質問に応えたり、とくにシナリオもなかったのだろうが、何を話しても楽しく、会場は盛り上がる。

新宿での舞台挨拶を生で川崎で見たわけだが、なんとも不思議な感覚だった。映画館からの中継を映画館で見ているので、まるでそこにいるように感じられる。盛り上がる場面では「泉ちゃーん」「尾頭さーん」と、新宿に届かないながらも声を上げる。同じように全国24の映画館で同じ時間でみんなが見ているのだ。それがわかっているものだから、”シン・ゴジラを通じてひとつになっている”感覚になる。ちょっとグッと来る。

そろそろ終わりかなと思っていると、どこからともなく「ないものをあてにするな!」の声が響く。サプライズで、矢口役の長谷川博己氏が壇上に登場し、舞台挨拶は最高潮に達する。矢口ファンの女性なら感極まってしまうだろう。大団円を迎えて、舞台挨拶は終了した。川崎チネチッタはよく利用する映画館だが、こんなに高揚してあとにしたことはない。

発声可能上映のきっかけは漫画家・島本和彦氏のツイート

この発声可能上映は、8月にも新宿のバルト9だけで行われている。きっかけは、庵野秀明氏と大学で同級生だった漫画家・島本和彦氏のツイートだ。その経緯についてはガジェット通信が詳細に記事にしているのでそちらを読むとわかりやすい。→「庵野監督からの公開挑戦状!? 漫画家・島本和彦先生『シン・ゴジラ』発声可能上映の夢が叶ってしまう」(ガジェット通信:2016年8月6日)

島本氏の『アオイホノオ』という作品で、庵野氏を勝手にライバル視していた学生時代のことが描かれている。その島本氏が『シン・ゴジラ』があまりにすごい作品なので打ちひしがれたことをツイートしていた。そして特撮好きで集まって、庵野氏の才能に絶望する(ことを楽しむ)上映会ができたらいいなともツイートしたら、庵野氏を通じてそれを東宝が実現した。それが8月15日の「発声可能上映会」だった。

その模様はこちらのTogetterを見るとわかる。なんとも楽しそうだ。→ついに『シン・ゴジラ』発声可能上映会がやってきた!上映前から会場内はカオス!終演後に庵野秀明監督も登場!(togetterまとめ:2016年8月15日)

前に書いた記事で『シン・ゴジラ』のツイート数が公開後少し下がったあと、8月15日にまた盛り上がったことを紹介したが、その理由はこの「発声可能上映会」だったのだ。どれほど盛り上がったかわかる。

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8月の上映会のチケットはあっという間に売り切れたので私は参加できなかった。9月に全国で開催されると知り、今度こそはと思っていたのだが、本拠地となる新宿は30秒で売り切れたという。かろうじて私が手に入れたのが、川崎のチケットだった。どんなものかと少し腰が引けてもいたのだが、いや、本当に行ってよかった。これほどまで楽しいとは思わなかった。

ライブのように見る。映画の新しい鑑賞法が生まれた

「発声可能上映」は『シン・ゴジラ』に島本=庵野の関係が加わって生まれたオリジナルのものだが、「声を出してもいい上映会」は実は先例がある。2015年公開の『マッドマックス怒りのデスロード』がどうやら走りらしい。池袋の新文芸座で「絶叫上映」と称して行われているのだ。今年も『KING OF PRISM by PrettyRhythm』や『貞子VS伽椰子』でも様々な映画館で行われたという。

初めて観る映画ではなかなかできないとは思うが、気に入って何回も観ている映画ならいろんな映画で成立しそうだ。それだけその映画を好きになったということだし、映画本来の鑑賞などにこだわることもないだろう。

デジタルコンテンツ白書2016がこの9月に刊行されたのだが、私も第一章の特集記事で参加させてもらった。そして今年の白書で特長的だったのが、ライブエンターテイメントの伸びだ。ネット以外は減少もしくは停滞しているコンテンツ産業の中で、”ライブ”だけ異様に成長しているのだ。パッケージメディアが好まれなくなりすべてが”配信”になってしまうことで、逆に”リアルな体験”が求められ価値も高まっているらしい。

本来、映画は関係ない話のはずだが、この「発声可能上映」に参加するとそうとも言えなくなってきた。映画もやり方によっては”ライブ化”できるのだ。今回で言うと、舞台挨拶の生配信もセットだったので余計にそういう印象を持った。映画の楽しみ方が、また新しくなった。コンテンツビジネスは意外なところから広がれるかもしれない。

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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