北角裕樹さん解放、心から歓迎するが懸念も―ミャンマー邦人記者拘束事件
ミャンマーで先月18日に、同国軍に不当に拘束されていた日本人ジャーナリストの北角裕樹さんが今月14日、解放された。筆者も北角さん解放を求める署名の呼びかけた一人として、また同業者の端くれとして、非常に嬉しく思う。外務省の職員の皆さん他、北角さん解放にむけ尽力されていた方々の尽力にも敬意を表したい。一方、北角さんを拘束したこと自体が極めて不当であり、解放は当たり前のことだ。ミャンマー国軍は「日本に貸しをつくった」などと勘違いするべきではないだろう。
*本稿は筆者個人の私見であり、後述の「ミャンマーで拘束されているジャーナリスト北角裕樹さんの釈放を求める有志の会」の総意として決議されたものではない。
○起訴から一転、解放へ
北角さんは、ミャンマー最大都市ヤンゴンに拠点を置き、今年2月1日に同国で発生したミャンマー国軍のクーデターに対し、抗議する現地市民達を取材。彼らの声を日本のメディアを通じ発信してきた。ところが、現地時間の先月18日夜、ミャンマーの治安部隊が北角さんを拘束。ミャンマー国軍当局は、「虚偽ニュースを拡散させた」として、北角さんを今月3日に起訴した。そのため、拘束が長期化することが懸念されたが、日本政府側の働きかけもあり、一転して解放に至った。
帰国後、成田空港で記者達の取材を受ける北角さんを筆者もテレビで見たが、健康状態は良いとのことで、何よりだ。拘束中、暴力を受けるなど酷い扱いは受けなかったとのことであるが、この間のストレスは大変なものだったろうと察する。筆者もイラク戦争取材中に米軍に数日間不当拘束された経験があるが、おそらく殺されないだろうとはわかっていても、いつ解放されるかわからない状況での拘束は、実際の時間よりはるかに長く感じるものだ。北角さんは解放に尽力した人々に感謝の言葉を述べると同時に、取材半ばで拘束され、解放されたものの帰国を余儀なくされたことについて「記者としては悔しい」と語っていた。その気持ちは筆者も同業として、痛い程わかるのであるが、大変な目に遭ったのだから、まずは心身を休めることも大事であろう。
○外務省に求めたいこと
さて、北角さんの解放は大変喜ばしいのだが、懸念もいくつかある。今回、外務省が北角さんの解放のため尽力したことは確かで、そのこと自体には、筆者も敬意を表したい。ただ、この間、外務省は政権に忖度して、紛争地を取材する日本人ジャーナリストのパスポートを取り上げたり(関連記事)、現地で拘束された際に失ったパスポートを再発給しない(関連記事)等、「報道の自由」を蔑ろにするような暴挙を行ってきたことも事実だ。外務省に対しては、北角さんのパスポートを奪う等、彼のジャーナリストとしての活動を制限することはしないよう、筆者としても強く求めたい。
○ミャンマー国軍は勘違いするな
また、ミャンマー国軍も北角さんの解放について、日本に対し「貸しをつくった」などと勘違いしないことだ。ミャンマー国軍は「虚偽ニュースを拡散させた」として北角さんを拘束したが、彼が伝えてきたのはミャンマーで起きている真実であり、ミャンマー市民の切なる願いだ。ミャンマー国軍が行ったことは、「報道の自由」に対する深刻な侵害であり、強く批判されるべきことである。解放は当然のことであり、このことをもって日本側に何かしら見返り―例えば、国際社会からの批判からミャンマー国軍を擁護するとか、対ミャンマーODAを継続するとか―を期待しているのであれば、甚だお角違いだ。日本政府側も、ミャンマー国軍に配慮や遠慮をする必要は一切ない。むしろ、これまで以上に、ミャンマー軍に対し、デモ参加者や少数民族への暴力の停止、アウンサンスーチー氏ら民主化勢力の解放を、強く求めていくべきだろう。
○多くの人々の賛同に謝意
最後に、北角さんの解放を求める署名を集めていた「ミャンマーで拘束されているジャーナリスト北角裕樹さんの釈放を求める有志の会」のコメントを、本稿末尾に全文転載する。ネット上で集めていた署名には36,247人もの人々が賛同してくれた。呼びかけ人の一人として、この場を借りて感謝の意をお伝えしたい。同時に、今後もミャンマー情勢や現地の人権状況について関心を持ってもらうこともお願いしたい。
(了)