2023年異例のさくら前線 消えゆくブラキストン線とは
今年ほどさくらの常識が変わったと思う年はありません。鹿児島でさくらが満開になって2日後に、青森で開花するとは、普通は思わないです。鹿児島と青森では平均して約20日の開きがあります。
田畑のあぜ道に、ひっそりとたたずむ一本桜が昔から農作業の目安とされてきたように、さくらは天候に敏感です。そのさくらが今、かつてないほどの早さで開花している。二酸化炭素(CO2)の増加だけでは説明がつかない何かが起こっているのかもしれません。
さくらにもブラキストン線
本州最北の青森に到達したさくら前線は今後、津軽海峡を渡り、北海道に向かいます。北海道最南端の松前町では独自にさくらの開花日を予想していて、今年は今月15日だそうです。また、函館は16日で、いずれも予想通りならば観測史上最も早い開花となります。
これまで、さくら開花は一日あたり約23キロの速さで東北地方を北上してきました。津軽海峡の幅は最も狭い所で20キロ程度しかなく、これでは一日で渡り切ってしまう距離です。
しかし、津軽海峡にはブラキストン線(Blakiston Line)といって、動物地理学上の境界線があります。これをさくらにも当てはめることができ、青森と函館では開花に6日の差があります。つまり、順調に北上してきたさくら前線も、急にスピードが落ちてしまうのです。
3月は過去例のない高温でしたが、暖かさは今後も衰えることはないでしょう。動物にとってのブラキストン線は残っても、さくらの境界線は消えゆく。それを実感する年になりそうな気がしています。
【参考資料】
北海道松前町商工観光課:令和5年のサクラ開花予想について(第2回目)、2023年4月5日