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財務次官セクハラ疑惑 テレビ朝日だけの問題ではない。メディアの認識の甘さが生んだ「事件」だ

藤代裕之ジャーナリスト
セクハラを否定したままでの財務次官辞任を伝える各紙

財務次官セクハラ疑惑は、19日にテレビ朝日が本社で記者会見を開き、女性記者が被害にあったことや財務省に抗議することを明らかにしました。女性記者は1年半ほど前からセクハラ発言を受けており、上司に相談したものの「2次被害が心配されることから報道は難しい」と断られ、週刊新潮に情報提供を行ったということです。

問題はセクハラを「放置」した会社にある

毎日新聞や読売新聞のウェブ版のタイトルが端的に問題を伝えています。

相手に無断で会話を録音したこと、週刊新潮に情報提供したこと、について女性記者の行動を問題視する声もありますが、セクハラ被害を1年半も受け続け、上司に相談すると報道を断られたにもかかわらず、取材を続けなければならなかったという状況を踏まえ、議論が行われる必要があります。

関西大学の小笠原盛浩さんは疑問を投げかけています。

元産経新聞記者で、弁護士ドットコムの猪谷千香さんは女性記者の危機感を表明しています。

会見でも一部記者から質問がありましたが、報道するかどうかとは別に、女性記者の異動や配置換え、上司から相手への抗議などが行われたのかは分かりませんでした。社内に取材時のセクハラ窓口があるかは質問すらなかった気がします。

繰り返しになりますが、被害を受けているのに取材を続けなければいけない(それも女性記者は財務次官に呼び出されていた)は地獄です。このような状況を生んだのは会社組織の問題です。

マスメディアがセクハラを容認してきたから起きた

財務省は問題が週刊新潮により報じられた際に、セクハラを否定し、訴訟準備を進めている、という見解を省のサイトに公開しながら、報道機関に対して調査協力を行いました。

この財務省の行動から見えてくるのは「重要な取材相手なのだから、どうせ誰も被害申告する記者などいない」というメディア側の足元を見透かした姿勢です。

寺町東子弁護士は、「財務省の要請の前段階として、マスコミ各社が全く女性記者を守っていない。個人を矢面に立たせてはいけない」と記者クラブ加盟各社の対応を批判しています。

新聞労連は18日付けで声明を発表しました。

多くの女性記者は、取材先と自社との関係悪化を恐れ、セクハラ発言を受け流したり、腰や肩に回された手を黙って本人の膝に戻したりすることを余儀なくされてきた。屈辱的で悔しい思いをしながら、声を上げられず我慢を強いられてきた。こうした状況は、もう終わりにしなければならない。

出典:【全文】新聞労連声明 「セクハラは人権侵害」財務省は認識せよ(THE PAGE)

この声明からは、「記事を書くためならセクハラぐらい」という考えがメディア業界側にあることを示しています。

財務省だけでなく、メディア側もセクハラに対する認識がズレていたからこそ今回の被害は起きたと言えるでしょう。これはテレビ朝日だけの問題ではなく、メディアの認識の甘さが生んだ「事件」なのです。

メディア業界は変わる必要がある

14日にヤフー個人に以下のような記事を書きましたが、テレビ朝日の会見で指摘が当たっていたことが分かり残念でなりません。

セクハラの被害者は女性に限ったことでなく、加害者も異性とは限りません。記者時代は、後輩にハラスメントを我慢して一時的なスクープのために取材をする必要はない、自分を傷つけて取材をしてもいい記事にはならないし、何より読者の共感は得られない、と取材手法に注意を促してきました。

いまは大学の教員として、メディア業界に人材を送り出す側です。今のような状況で、安心して学生を送り出すことは出来ないし、驚くことに悪しき業界体質がメディア志望の学生にも蔓延しているという現実すらあります。長時間労働、セクハラやパワハラ。メディア業界はブラックな職場というイメージは広がり、優秀な学生は敬遠する傾向が強くなっています。

私はメディア業界は社会的に意味があり、やりがいのある仕事ができると思っています。働きやすい業界になるように多くの人が声を上げて、学生に胸を張ってメディア業界を勧めることが出来るように変わってもらいたいと切に願っています。

ジャーナリスト

徳島新聞社で記者として、司法・警察、地方自治などを取材。NTTレゾナントで新サービス立ち上げや研究開発支援担当を経て、法政大学社会学部メディア社会学科。同大学院社会学研究科長。日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)代表運営委員。ソーシャルメディアによって変化する、メディアやジャーナリズムを取材、研究しています。著書に『フェイクニュースの生態系』『ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか』など。

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