「花子とアン」の人気を支えているダブルヒロインと通俗性
ダブルヒロインのドラマ
NHK朝の連続テレビ小説「花子とアン」が、後半戦に入ってがぜん面白くなってきた。かつて「あまちゃん」を評した際、「母娘3代のトリプルヒロインが効いている」と書いた。それにならえば「花子とアン」は花子(吉高由里子)と蓮子(仲間由紀恵)によるダブルヒロインのドラマである。
放送開始前、二つの懸念があった。一つは実在の人物である村岡花子の人生がどれだけ視聴者の興味を引くかということだ。「赤毛のアン」の翻訳者というだけでは題材として弱いのではないかと思われた。もう一つの心配は主演を務める吉高由里子という女優がもつ奔放なイメージと、生真面目そうな児童文学者の実像が重なりにくかったことだ。
しかし始まってみれば、演技に定評のある吉高が、自分の道を切り開こうと努力する明治生まれのヒロインを、現代的な味付けで魅力的に作り上げてきた。
”不倫スキャンダル”をも取り込む
また、それ以上に弾みをつけたのは、花子の親友・蓮子が引き起こした駆け落ち騒動だろう。蓮子のモデルは歌人・柳原白蓮。華族である伯爵家に生まれた彼女の人生は波瀾万丈だ。最初の結婚は15歳の時だが、20歳で離婚している。5年後に九州の炭鉱王・伊藤伝右衛門と再婚。26歳違いの夫婦だった。
そして10年後、7歳下の社会運動家・宮崎龍介(ドラマでは宮本龍一)と駆け落ちする、いわゆる「白蓮事件」を起こす。ちなみに宮崎龍介は孫文の支援で知られる宮崎滔天の長男だ。境遇が全く異なる2人の不倫逃避行は大正期を代表する一大スキャンダルだった。
ドラマは「白蓮事件」を正面から描き、凄艶な恋する女と化した蓮子を仲間が生き生きと演じていた。駆け落ちシーンでは語り手の美輪明宏が熱唱する「愛の讃歌」が流れ、その翌朝、一夜を共にした部屋で仲間は鮮やかな赤の長襦袢姿まで披露した。
吉田鋼太郎=嘉納伝助の”発見”
さらに吉田鋼太郎が演じる炭鉱王(ドラマでは嘉納伝助)に貫禄と存在感がある。離縁状を新聞に公開され、大恥をかいたにも関わらず最後は蓮子を許す、”男の度量”を見せた。「嘉納伝助が一度は惚れて嫁にした女やき。末代まで一言の弁明も無用!」は、このドラマにおける名セリフの一つとなった。
社会的制約の多かった時代に女性が自立することの困難さと、それを必死で乗り越えようとする主人公たち。伝統的朝ドラの爽やかなヒロイン像を守りつつ、不倫という通俗性をも堂々と取り込む、脚本と演出のチャレンジが功を奏している。