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「日本で最も過酷な大会」地域CL 決勝ラウンド進出の4チームを紹介

宇都宮徹壱写真家・ノンフィクションライター
前回の地域CLで優勝してJFL昇格を決めた松江シティFC。

 国内のフットボールシーンが佳境を迎える中、今年も地域CL(全国地域サッカーチャンピオンズリーグ)の季節がやってきた。すでに1次ラウンドは終了しており、3グループの1位とワイルドカード(最も上位成績の2位)による4強が、福島県のJヴィレッジでJFL昇格を懸けて戦う。

 地域CLは、地域リーグ(5部)からJFL(4部)に昇格するための大会だが、その過酷な日程(1次ラウンドは3日連続、決勝ラウンドは1日おき)から「日本で最も過酷な大会」と呼ばれている。また短期決戦ゆえに、必ずしも前評判が高いチームが昇格するとは限らない。それゆえドラマが生まれやすく、この大会を毎年楽しみにしているサッカーファンも意外と多い。

 現在、J1に所属する松本山雅FCやJ2のV・ファーレン長崎、さらにはこのほどJ3昇格が決まったFC今治も、この過酷な戦いを勝ち抜いて今がある。本稿では、本日(11月20日)から始まる決勝ラウンドに進出した4チーム(いわきFC、福井ユナイテッドFC、おこしやす京都AC、高知ユナイテッドSC)のプロフィールを紹介する。

■いわきFC(東北リーグ1位)

「日本のフィジカルスタンダードを変える」が合言葉のいわきFC。
「日本のフィジカルスタンダードを変える」が合言葉のいわきFC。

 4チーム中、最も知られているのが、このいわきFCであろう。もともとは福島県3部のアマチュアクラブだったが、2015年12月に株式会社ドーム(アンダーアーマーの日本における総代理店)が経営権を取得。県2部、県1部、東北2部、そして1部と、飛び級制度を活用することなくステップアップを繰り返してきた。今季のリーグ戦は、15勝3分け無敗、得点104の失点4という驚異的な記録で東北1部を制覇。JFL昇格まであと一歩と迫った。

 いわきが一躍注目を浴びたのが、17年の天皇杯2回戦で北海道コンサドーレ札幌を延長戦の末に5−2で破った試合。結果もさることながら、J1クラブさえも圧倒するフィジカルと走力に注目が集まった。「日本のフィジカルスタンダードを変える」というテーゼの下、当初はストレングスとランニングの強化がメインだったが、最近はボールを使った戦術的なトレーニングにも力を入れている。初出場で初の決勝ラウンド進出となるが、地元開催ゆえにサポーターの強力な後押しが期待できる。

■福井ユナイテッドFC(北信越リーグ1位)

今季から名称とクラブカラーを変え、心機一転で昇格を目指す福井ユナイテッドFC。
今季から名称とクラブカラーを変え、心機一転で昇格を目指す福井ユナイテッドFC。

 前身は、2006年設立のサウルコス福井。昨年の運営母体の経営破綻を受けて、新会社設立と同時に現在の名称となり、クラブカラーも緑から青に変更された。今季の北信越では、アルティスタ浅間とのデッドヒートが最終節まで続く展開に。それでも直接対決で1勝1分けとし、終わってみれば13勝1分けの無敗で北信越リーグを優勝。続く地域CL1次ラウンドでも、常連のFC刈谷を振り切って4大会ぶりとなる決勝ラウンド進出を果たした。

 サウルコス時代には、北信越リーグに6回優勝しているものの、全国での挑戦となると1次ラウンドで4回、決勝ラウンドで2回涙を飲んでいる。今大会の4強では最も経験値がある一方、最も「悲願達成」の思いが強いのも彼らである。注目選手は、10番のFW山田雄太。今季は14試合で29ゴールをマークし、北信越リーグの新記録を樹立した。今大会の1次ラウンドでも4ゴールを挙げ、決勝ラウンド進出に大きく貢献している。

■おこしやす京都AC(関西リーグ1位)

京都第2のJクラブを目指す、おこしやす京都AC。3人のガーナ人選手にも注目。
京都第2のJクラブを目指す、おこしやす京都AC。3人のガーナ人選手にも注目。

 前身は、小学生向けのサッカースクールをルーツに持つ、アミティエSC京都。2011年より関西1部で活動しているが、18年のシーズン開幕直前になって現在の名称に変更し、クラブカラーも緑と白から紫となった(変更が4月1日だったので、エイプリルフールと勘違いするファンもいた)。ちなみに英語表記は「Ococias Kyoto AC」、中国語表記は「京都歡迎光臨」。観光都市のクラブらしく、国際的にも通用するブランディングを意識している。

 クラブ代表の添田隆司氏は現在26歳。大手商社の内定を蹴り、「史上2人目の東大卒Jリーガー」として藤枝MYFCで3シーズンプレーした異色の経歴の持ち主である。また、ガーナにコネクションがあり、今大会では3人のガーナ人選手(FWのイブラヒムとエリック、MFのサバン)が登録されている。色物めいたトピックスが並ぶが、コンペティティブな関西リーグを無敗で制した実力は本物。2大会ぶりの決勝ラウンドでも、旋風を起こしそうな存在だ。

■高知ユナイテッドSC(四国リーグ1位)

2つのクラブが合併して誕生した高知ユナイテッドSC。選手やスタッフには懐かしい名前も。
2つのクラブが合併して誕生した高知ユナイテッドSC。選手やスタッフには懐かしい名前も。

 Jリーグの空白県のひとつ、高知から全国リーグを目指すクラブ。2016年、四国リーグのアイゴッソ高知と高知UトラスターFCが合併して誕生した。FC今治がJFLに昇格して以降、四国では無敵の強さを誇るものの全国との力の差は埋め難く、過去2回の地域CLではいずれも1次リーグ敗退に終わっている。今シーズンは四国リーグを全勝で制すると、今大会の1次ラウンドを2勝1敗として、ワイルドカードで初の決勝ラウンド進出を果たした。

 チームの初代監督で、現在GMを務めるのは、セレッソ大阪やU−20日本代表などの監督を歴任した西村昭宏氏。そして10番とキャプテンマークを担うのは、サンフレッチェ広島のジュニアからトップチームまで駆け上がり、アンダー世代の日本代表経験もある横竹翔である。4強の中では実力的に最も不利と見られる高知だが、下馬評どおりとならないのが地域CLの怖いところ。決勝ラウンドでは、歴史に残るアップセットが見られるかもしれない。

 最後に、決勝ラウンドのスケジュールは以下のとおり(会場はいずれもJヴィレッジスタジアム)。

11月20日(水)

10:45 いわきvs高知 13:30 京都vs福井

11月22日(金)

10:45 いわきvs京都 13:30 高知vs福井

11月24日(日)

10:45 いわきvs福井 13:30 高知vs京都

 なお宇都宮徹壱ウェブマガジンでは、すべての試合の模様をフォトギャラリー形式で、試合当日に掲載予定。会員制であるが、サッカーメディアでは唯一の試みなので、興味のある方はご覧いただければ幸いである。

<この稿、了。写真はすべて筆者撮影>

写真家・ノンフィクションライター

東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。『フットボールの犬』(同)で第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞、『サッカーおくのほそ道』(カンゼン)で2016サッカー本大賞を受賞。2016年より宇都宮徹壱ウェブマガジン(WM)を配信中。このほど新著『異端のチェアマン 村井満、Jリーグ再建の真実』(集英社インターナショナル)を上梓。お仕事の依頼はこちら。http://www.targma.jp/tetsumaga/work/

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