スズキ最高益決算に忍び寄るEVシフトの危機
スズキが2日発表した2017年3月期中間決算(4~9月)では、売上高が前年同期比22・2%増の1兆8311億円、本業のもうけを示す営業利益が49・7%増の1729億円、純利益は4・3%増の1042億円となった。売上高、利益ともに過去最高を更新した。
絶好調だったインドでの販売
好調決算の要因は、インド(17・1%増の82・6万台)、欧州(19・7%増の13・9万台)、日本(7・2%増の32万台)などで四輪車の販売が伸びたことだ。日本では新車の「ワゴンR」や「スイフト」が好調だった。総グローバル販売台数は12・6%増の約158万台で、これも過去最高を更新。主力市場のインドの通貨ルピーが円安に振れたことも利益を押し上げた。
日本のほとんどの乗用車メーカーは北米市場を収益源としているが、スズキは北米市場から四輪車の販売を撤退している。米国の新車販売に陰りがみえているため、各社は大幅値引きをして収益性が落ちているが、スズキはその影響を受けなかったことも好決算につながった。
インドもEVシフトか
記者会見したスズキの鈴木俊宏社長は「過去最高は喜ばしいことだが、課題としてEV化やハイブリッド化への対応がある。東京モーターショーを見てもEV化が加速している。その波がどういうタイミングで来るのかを見極め、それに乗り遅れないようにしたい」と述べ、危機感をにじませた。
スズキの収益源であるインドもEV化への流れが見られる。現状ではEVになると、クルマの価格が内燃機関(ガソリンエンジンやディーゼルエンジン)よりも高くなる傾向だ。スズキの場合は価格が安い小型大衆車を得意としており、そうしたクルマをEV化した場合にお客に受け入れられる価格になるか、といった課題があるからだ。
トヨタ・マツダEV新会社に参画へ
さらに、スズキの場合はEVへの対応で出遅れており、今後、設備投資や研究開発費が増大していく可能性が高い。こうした課題を踏まえて、鈴木社長は「これから収益を圧迫する要因も増えるので、効率的な開発を進めなければならない」と語った。
効率的な開発について、鈴木社長は、9月にトヨタ自動車とマツダが共同で設立したEV開発会社への参加に前向きに検討する考えも表明。「チームジャパンとしてやらないと、欧州勢に対抗できないかもしれない。電池の共通化など協調していくところと、競争するところを分けて考えたい」とも説明した。
業販店の事業継承問題
また、記者会見ではこんな厳しい質問も飛び出した。「スズキは補修部品の供給体制も脆弱。国内は業販店頼みで売っているが、後継者問題もあり、大丈夫か」
業販店とは、地方の整備工場などの中小企業がスズキの看板を出している店で、スズキの資本は入っていない。こうした店は、経営者が高齢化して後継者が問題が出ている。
鈴木社長は「業販店比率は高いが、今後は直営店も増やす。事業継承については個々のケースで話し合いをしながら、ユーザーには迷惑をかけないようにしたい」と答えた。
EV化が進むと、業販店も新しい修理技術など取り扱いを学ばなければ、顧客対応が疎かになる。その点も記者会見で指摘されたが、「(EV化対応は)スズキ本体も大変だが、業販店にも負担がかかる。研修しながら業販店の技能を高めていくが、その負担を軽減していくことも考えなければならない」と鈴木社長は語った。
いずれトヨタと資本提携へ
鈴木社長は、「カリスマ経営者」鈴木修会長の長男。修会長は、記者の質問にのらりくらりとかわしながら答えるので、「狸親父」とも言われるが、俊宏社長は誠実に答える。
社長自身が認識するようにEVシフトが世界で進めば、スズキの経営は厳しくなる可能性がある。これまでスズキが、米GMと独フォルクスワーゲンと資本提携してきたのは、高まる環境技術への投資負担が重くなることを想定して1社単独の生き残りは難しいと判断したからだ。
そして両社との提携解消後、スズキは2016年、トヨタとの業務提携に動いた。トヨタに庇護を求めた形だ。この業務提携はいずれ、資本提携に発展する可能性が高い。スズキの足元の決算は好調だが、長中期的に見れば課題が山積して単独での生き残りは厳しいことに変わりはない。