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歴代テレビドラマ「名女優の名役柄」を選ぶとしたら・・・

碓井広義メディア文化評論家

先日、「週刊現代」の取材を受けました。テーマは、「歴代ドラマ最高の名女優・名役柄」。5人の女優さんと、その役柄を挙げるよう依頼されたのです。

熟考するというより、訊かれた瞬間、パッと頭に浮かんだのが、今も強い印象を残している彼女たちでした。

もちろん、個人の独断と偏見による選択です。

この特集記事では、短いコメントとなって掲載されていますが、実際には、年代順に以下のような説明をさせていただきました。

『TVドラマの女優たち 「あの役」が最高なんです!』と題された記事の全体は、ぜひ本誌(2015.9.26/10.3号)をお読みください。

●「岸辺のアルバム」(1977、TBS) 八千草薫=田島則子

山田太一さんが脚本を手がけた「岸辺のアルバム」は、それまでのほんわかとしたホームドラマの概念を、がらりと変えてしまった、テレビ史上の事件です。そこでは、家族の崩壊と再生という重いテーマが、驚きのストーリーとなって表現されていました。八千草さんが演じたのは、ごく普通のサラリーマン家庭の主婦・田島則子。貞淑な妻であり、しっかり者の母である則子が、電話を通じて知り合った男(竹脇無我)とラブホテルに入ってしまう。それが八千草さんだったからこそ、インパクトが尋常ではなかった。主婦と呼ばれる女性たちの”心の揺れ”を見事に見せてくれたのです。

●「西遊記」(1978、日本テレビ) 夏目雅子=三蔵法師

「西遊記」の三蔵法師といえば、当然のことながら男性で僧侶。それを女性が演じたのだから衝撃的でした。しかも画面の中の夏目さんは、輝くような美しさと気品に満ちていました。その後は映画を中心に大女優へと成長していきましたが、27歳の若さで亡くなったことは、くれぐれも残念でした。かつて私は、「人間ドキュメント 夏目雅子物語」(1993、フジテレビ)というスペシャルドラマを制作しましたが、その夭折も含めた”夏目雅子伝説”は、いまでも多くの人たちの中で生き続けています。

●「金曜日の妻たちへ」(1983、TBS) いしだあゆみ=中原久子

東急田園都市線沿線の美しい街並みが新鮮でした。そして、「金妻」は中年に差しかかった男女の、どこか狂おしい恋愛模様を、団塊世代のライフルタイルも取り込みながら洒脱に描いて秀逸でした(脚本:鎌田敏夫)。いしださんが演じた中原久子は、夫(古谷一行)と親友(小川知子)の不倫関係を知って苦悩しますが、その悩む姿自体が実にセクシーでもありました。同世代の男たちは、いしださんのような女性との不倫に憧れ、また当時の若者たちは、いしださんを通じて「大人の女性」の魅力を学んでいったのです。

●「HERO」(2001、フジテレビ) 松たか子=雨宮舞子

型破りな検事・久利生公平(木村拓哉)を補佐する担当事務官・雨宮舞子。雨宮は、仕事も私生活も、その生真面目さ、もっと言えば「身持ちの堅さ」が最大の特徴でしょう。だからこそ、ふとした瞬間に見せる「隙」が好ましい。この雰囲気は、松たか子さんならではのものです。そこには、松さんの生まれや育ち、また男性的ともいえるさっぱりした性格などの背景があります。申し訳ないけれど、シリーズ最新作での北川景子さんには出せないニュアンスなんですね。久利生を本当に理解し、支えられるのは、松さんが演じる雨宮だけです。

●「JIN-仁-」(2009、TBS) 綾瀬はるか=橘咲

大沢たかおさん主演の「JIN-仁-」で、綾瀬さんが演じた橘咲は、時代の制約を受けながらも、可能な限り自分の思いを大切にして生きようとした女性。その姿が何とも健気でした。私は、是枝裕和監督『海街diary』を「平成の小津映画」、長女を演じた綾瀬さんを「平成の原節子」と呼んでいます。その佇まい、凛とした美しさ、そして強さと優しさ。さらに、どこか自分を無理に律している切なさも、小津映画のヒロインに通じるものがあるからです。その意味でも、「仁」の橘咲は、綾瀬さんが「平成の原節子」へと成長していくきっかけとなった名役柄だったと思います。

そして、結果は・・・

週刊現代に掲載された「TVドラマの名女優・名役柄ベスト50」では、1位に輝いたのが「雑居時代」(1973、日本テレビ)の大原麗子=栗山夏代でした。

2位は「男女七人夏物語」(1986、TBS)の大竹しのぶ=神崎桃子、そして3位が「おくさまは18歳」(1970、TBS)の岡崎友紀=高木飛鳥となっています。飛鳥、懐かしい。

私が選んだ夏目雅子=三蔵法師は4位、綾瀬はるか=橘咲が9位、八千草薫=田島則子が11位、松たか子=雨宮舞子は13位に入っていました。

今回の選者は、私の他に泉麻人さん、宇野常寛さん、尾木直樹さん、齋藤孝さん、佐高信さん、福田雄一さん、堀井憲一郎さん、森永卓郎さんなど20数名の方々です。

さて、皆さんなら、どの女優さんの、どんな役柄を選びますか?

<参考>

「TVドラマの名女優・名役柄ベスト50」の1位から20位

1位 雑居時代(1973、日本テレビ) 大原麗子=栗山夏代

2位 男女七人夏物語(1986、TBS) 大竹しのぶ=神崎桃子

3位 おくさまは18歳(1970、TBS) 岡崎友紀=高木飛鳥

4位 西遊記(1978、日本テレビ)  夏目雅子=三蔵法師

5位 篤姫(2008、NHK)      宮崎あおい=篤姫

6位 東京ラブストーリー(1991、フジテレビ) 鈴木保奈美=赤名リカ

7位 夢千代日記(1981、NHK)   吉永小百合=夢千代

8位 王様のレストラン(1995、フジテレビ) 山口智子=磯野しずか

9位 JIN-仁-(2009、TBS)   綾瀬はるか=橘咲

10位 やまとなでしこ(2000、フジテレビ) 松嶋菜々子=神崎桜子

11位 岸辺のアルバム(1977、TBS) 八千草薫=田島則子

12位 愛していると言ってくれ(1995、TBS) 常盤貴子=水野紘子

13位 HERO(2001、フジテレビ) 松たか子=雨宮舞子

14位 水中花(1979、TBS)     松坂慶子=森下梨絵

15位 毎度おさわがせします(1985、TBS) 中山美穂=森のどか

16位 前略おふくろ様(1975、日本テレビ) 坂口良子=渡辺かすみ

17位 踊る大捜査線(1997、フジテレビ)  深津絵里=恩田すみれ

18位 ケイゾク(1999、TBS)    中谷美紀=柴田純

19位 マンハッタンラブストーリー(2003、TBS) 小泉今日子=赤羽伸子

20位 北の国から95秘密(1995、フジテレビ)   宮沢りえ=小沼シュウ

(週刊現代 2015.9.26/10.3号より)

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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