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36歳上田桃子の涙目に見た強さの背景と向上心――2年前に語っていた“引き際”

金明昱スポーツライター
TOTOジャパンクラシックで優勝争いしながら5位タイに終わった上田桃子(写真:REX/アフロ)

「これが現実なんだと感じさせられたと、それ以外にないですね…。ちゃんと答えられなくてごめんなさい」

 上田桃子は帰り際にこちらをチラリと見て、そう言い残していった。悔しい敗戦だったからこそ、「さらにモチベーションは上がりましたか?」と聞いたあとの返事だった。

 日米共催の女子ゴルフツアー「TOTOジャパンクラシック」で、最終日に首位から出た上田は、「思うように体が動かなかった」とスコットランド人のジェマ・ドライバーグに逆転優勝を許した。トップに8打差をつけられ5位タイ。今にも涙がこぼれ落ちそうな表情で報道陣に囲まれ、ゆっくりと深呼吸してこう振り返っている。

「自分の中では感じてなかったんですけど、思うように体が動いてくれなかったり、自信を持ってできなかった。最終日のバックナインでオーバーパーを打っているようでは勝てない。同じダメでも腹を括ってやれていたら、もう少し違ったかなと思います。同じミスを繰り返していることは、まだ成長できていない。そいうことを感じさせられました」

 やりたいゴルフができなかったこと、ここぞという勝負所で勝ち切れなかったことで、悔しさや腹立たしさといった、様々な感情が入りまじっていたに違いない。

雀士・桜井章一氏の本に刺激受け

 3日目を終えて単独首位に立った公式会見での上田は、“らしさ”全開だった。特に印象に残ったのが、“20年無敗”の伝説の雀士・桜井章一氏の本をたまたまコンビニで見つけて、読んで刺激を受けたという話だった。

「『勝つというより負けない』というフレーズが衝撃的でした。もうひと段階上にいくにはそういう柔らかさや、しなやかさを磨いていくこと。真似るのではなく、自分を磨いていくことだと。自分らしさを出すためには、最終的には綺麗な形じゃなくても、格好つけずに、持っていることをしっかり出しきるということ。それが本当の強さであり、人には真似できないところだと思う」

 ゴルフ以外のことから、様々なことを学び、それを試合に生かそうとする。そんな彼女の話には、人を引き付ける魅力がある。

“引き際”に対する考え

 2年前の2020年11月。全英女子オープンで自己最高の6位に入った年に、単独インタビューに応じてくれた上田は、ゴルフを続けるモチベーションや“引き際”についてこんな話をしている。

「5年くらい前から引退についてはずっと考えています。『もう無理なんじゃない』と自問自答すると、『いや、まだできるな』という答えが出てくるんです。やっぱりまだ勝てるという思いがあるので、やめられないんだと思います」

 今も引退については考える時があるのだろう。ただ、今季も4月に優勝を手にし、トップ10入りも9回という好成績を残しているのだから、「まだまだやれる」と思っていてもおかしくはない。

 「現役を長く続けたいですか?」と聞いたときには、こんなことを話していた。

「そういうのはないんですよ。矛盾していますよね(笑)。むしろ、早くやめたいと思うのですが、挑戦できずに終わるのは嫌です。それにゴルフは好きで終わりたい。悔いなく終われるようにというのは常に頭の中にあります」

 この言葉から見えるのは、TOTOジャパンクラシックで勝てなかった上田には、まだまだやり残したことがあるということ。悔しい敗戦を新たなモチベーションに変えてくると信じたい。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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