もうオーバー80にも驚かない。レジェンドたちが映し出す人生100年時代。
今年公開された『イーディ、83歳 はじめての山登り』や『ぶあいそうな手紙』など、近年、70代80代の主人公は珍しくない。
かつて、この世代が主人公の作品は、残された時間を意識し、自身の生き方や家族との絆を見つめる静かなヒューマンドラマが多い印象だった。しかし、いまや人生100年時代。70代80代となったレジェンド俳優たちが、そうしたイメージを変えつつある。
タランティーノ作品でもお馴染みのブルース・ダーンは、現在84歳。その彼が70歳の元演劇評論家クロードを演じる『43年後のアイ・ラヴ・ユー』は、チャーミングな愛の物語だ。妻に先立たれ、一人暮らしをするクロードは、かつての恋人である舞台女優リリィ(カロリーヌ・シロル)がアルツハイマーで施設に入ったことを知り、自分もアルツハイマーのふりをして同じ施設に入所することに。
自分たちの愛の記憶を思い出してもらうために、日々、リリィに語りかけるクロードの優しい眼差し。嘘をついて施設に入所するという無謀な計画に加担させられて困惑する親友シェーン(ブライアン・コックス)との軽妙なやりとり。酸いも甘いも噛み分けたクロードの佇まいには、史上最年長でカンヌ映画祭男優賞を受賞した『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』(’13年)以来の主演作となる曲者俳優ダーンの持ち味が、いかんなく発揮されている。
リリィとクロードにとって大きな意味を持つシェイクスピアの『冬物語』を絡めながら、不実な夫に苦しむクロードの娘や、高校生の孫娘の恋も交えて描かれる物語は、人生の心残りに正面から向き合ったクロードがくれる充足感だけではなく、彼のポジティブな姿勢とあいまって、人生まだまだこれからというときめきにも溢れていることも、幸せな余韻を味わわせてくれる。
『キングスマン』『ダークナイト』の人気シリーズでも抜群の存在感を見せていたマイケル・ケイン主演の『キング・オブ・シーヴズ』は、ロンドンの宝飾店街ハットンガーデンの貸金庫から1400万ポンド(約25億円)相当の宝石や現金を盗んだのが、平均年齢60歳以上の窃盗団だったという実話がベース。英国史上最高額を盗んだ最高齢窃盗団のリーダーであるブライアン(事件当時77歳)を演じるケインは、現在87歳。No.2のテリー(同67歳)役のジム・ブロードベントは71歳。さらに、83歳のトム・コートネイや80歳のマイケル・ガンボンといった大ベテランの名優がずらりと顔を揃えている。
泥棒稼業から離れていたブライアンは、妻の急逝後、窃盗計画を持ちかけられ、かつて「泥棒の王」と呼ばれていた頃の仲間たちを集めるのだが、メンバーには肉体的にシニアならではの悩みもあったり、何かと不安が多い。そんな一味のスリリングな犯行シーンに手に汗握らせるのはもちろんのこと、決して結束が強いわけではないチームの間に生まれる猜疑心や、人間の欲のリアルさで笑いを誘うあたりは、名優揃いならでは。『ミニミニ大作戦』や『SCUM スカム』など、キャストたちの往年の出演作のカットが挿入されて、窃盗団の若き日を鮮やかに立ち上がらせるのも、ベテラン揃いだからこそのお楽しみだ。
ヘンリー・フォンダが『黄昏』(’81年)で史上最年長のアカデミー賞主演男優賞受賞者となったのは76歳のとき。『八月の鯨』(‘87年)は主演リリアン・ギッシュとベティ・デイヴィスが撮影当時93歳と79歳、『ドライビング Miss デイジー』(’89年)はジェシカ・タンディの80歳でのアカデミー賞主演女優賞受賞と、年齢も話題になったが、それから30年余り。主演俳優が80代だからといっても驚かない時代になった。
それは男優に限ったことではない。公開中の『また、あなたとブッククラブで』に集まったのは、ダイアン・キートン、ジェーン・フォンダ、キャンディス・バーゲン、メアリー・スティーンバージェンという全員がアカデミー賞やゴールデングローブ賞を受賞しているビッグネームたち。
40年以上、毎月、読書会を開いてきた4人の女性の恋や結婚生活が、課題図書『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』に刺激を受けて動き出す。さしずめ熟女版『SEX AND THE CITY』といった趣だが、撮影当時平均年齢74歳(最年少のスティーンバージェンは現在67歳)という4人が、60歳そこそこと思しきヒロインたちを演じて違和感なし。かつてワークアウトで一世を風靡したジェーン・フォンダが80代にして見事なボディラインをキープしているのもさることながら、4人がスター女優ということを差し引いても、彼女たちの若々しいこと。その事実が、今どきのオーバー70がいかに年齢を感じさせないかを再認識させる。そんな女優陣もヒロインたちも年齢を重ねることを楽しみにさせてくれるのが、この作品の魅力だ。
ベテラン俳優が演じる役が、気難しい老人や誰かの祖父母や親として脇を固める存在ばかりではなくなった。作品ジャンルも、ラブストーリーもあればサスペンスもあると幅広い。それもまた、人生100年時代を映し出している。
『43年後のアイ・ラヴ・ユー』
(原題:Remember Me)
1月15日、新宿ピカデリー、角川シネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
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『キング・オブ・シーヴズ』
(原題:King of Thieves)
1月15日、TOHOシネマズ シャンテほか 全国順次公開
(c)2018 / STUDIOCANAL S.A.S. - All Rights reserved
『また、あなたとブッククラブで』
(原題:Book Club)
ヒューマントラストシネマ有楽町・渋谷ほかで公開中。全国順次公開
配給:キノフィルムズ
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