エントリー台数70台!なぜ鈴鹿の2輪・JSB1000はこんなに台数が多いのか?
鈴鹿サーキットで「NGKスパークプラグ・鈴鹿2&4レース」が2023年4月22日(土)〜23日(日)に開催される。鈴鹿2&4レースの初開催は1975年と歴史が長く、2輪と4輪の国内最高峰レースを同日開催する伝統のイベントになっている。
今回はその出場台数に注目してみたい。2輪は全日本ロードレース選手権・JSB1000、4輪は全日本スーパーフォーミュラ選手権を開催するが、4輪のスーパーフォーミュラのエントリーが22台なのに対し、2輪のJSB1000のエントリー台数はなんと70台という多さなのだ。
鈴鹿での2輪レースの決勝進出台数は44台。実に26台が予選落ちをする計算。いったいなぜ、JSB1000にはこんな凄まじいエントリーが集まるのか?4輪レースファンや2輪レース初心者の方にも分かるように解説していこう。
要は鈴鹿8耐を目指すチームが多い
4輪レース関係者から毎年のように尋ねられる「なぜ2輪はこんなに台数が多いの?」という質問。これを分かりやすい言葉で説明するのはとても難しいと毎年感じる。
長年の2輪レースファンにとっては昔からの恒例なので疑問にも思わないことだが、F1やスーパーフォーミュラなどスプリント形式の4輪レースでは出場台数が20台前後で予選落ちがないというのが当たり前なので、4輪レースファンにとって70台は驚く数字だろう。
ましてやJSB1000開幕戦(もてぎ)の出場台数が25台だったのに、突然45台も増えているのだから余計に訳が分からないと思う。4輪レースでこれだけ台数が増加することは世界中のありとあらゆるレースを探してもまずあり得ないことだ。実はかくいう私も鈴鹿でレース実況の仕事を始めるまでは4輪レースをメインで見ていたため、2輪の台数の多さや事情はすぐには理解できなかった。
そんな疑問を持つ人に大雑把に説明するならば「鈴鹿2&4レースは鈴鹿8耐の前哨戦である」ということ。そして「2輪レースはスポット参戦がしやすい」ということだ。
今年も8月に開催される「鈴鹿8耐」(=鈴鹿8時間耐久ロードレース)は国内の2輪トップチームの多くが1年のメインイベントに設定し、こぞって参戦するレースである。国内2輪レースは鈴鹿8耐を主軸に回っていると言える。
夏の鈴鹿8耐本番を前に鈴鹿で開催される大きなレースは鈴鹿2&4レースしかないので多くのチームはその前哨戦として力を入れて参戦する。そのため、全日本JSB1000にはフル参戦せずに「鈴鹿8耐だけに出たい」と考えるチームが準備を兼ねて数多くスポット参戦してくる。これがまず台数急増の最大の要因である。
8耐出場権をかけた8耐トライアウト
「全日本ロードレース選手権」として開催されるJSB1000、「FIM世界耐久選手権」として開催される鈴鹿8耐。これらは国内選手権と世界選手権で2つは違うシリーズ戦なのだが、実はマシンに関するレギュレーションは大部分が共通している。そのため鈴鹿8耐に出場を希望するチームは、全日本JSB1000を走ることで鈴鹿8耐(EWC規定)のデータを取ることができるのだ。
そして、スポット参戦急増による台数増加のもう一つの要素が「8耐トライアウト」という選考会だ。「FIM世界耐久選手権」という世界選手権シリーズである鈴鹿8耐は国内選手権よりも敷居が高く、現在は誰でもどのチームでも出場できるわけではない。
2016年から始まった「8耐トライアウト」とは「鈴鹿8耐の出場資格を掛けたチームの戦い」である。出場資格は年ごとに変わっているが、今年は昨年の鈴鹿8耐の結果に基づき国内の12チームが既に資格を保有している。さらに当然のことだが、FIM世界耐久選手権(EWCクラス)にシリーズ参戦する国内外の12チームは無条件で出場資格を保有する。「8耐トライアウト」はこれに加えて出場を希望する国内チームに「まず選考会レースに出て、実力を示してください」というものだ。
「8耐トライアウト」の選考レースは4月22日(土)に開催されるJSB1000・レース1(第3戦)に掛けられ、ここで出場資格を希望するチームのうち上位10チームが出場資格を獲得する。国内トップチームでは昨年の鈴鹿8耐で好成績が残せかった「SDG Honda Racing」(ホンダ)、「Astemo Honda Dream SI Racing」(ホンダ)、「村山運送 Honda Dream K.W」(ホンダ)や新規参戦の「オートレース宇部 Racing Team」(スズキ)などがまだ出場資格を保有しておらず、このレースを完走して出場資格を取りに行くことになる。
万が一、転倒やマシントラブルで上位10チームに選ばれなかった際には5月の鈴鹿・地方選手権「鈴鹿サンデーロードレース」で実施される2回目の「8耐トライアウト」に出場しなければならない。しかし、困ったことに全日本ロードレースJSB1000のレギュラー参戦組は全日本の菅生ラウンドと日程がバッティングしていて出場できない。そのため、彼らは4月22日(土)のJSB1000・レース1(第3戦)は絶対にミスできない緊張感溢れるレースになるのだ。
全日本トップチームであれば、主催者推薦という形で出場資格を得られるかもしれない、という最後の望みもあるにはあるが、推薦されるかどうかは不確定要素である。これでは堂々と「鈴鹿8耐に出ます」と言うことができず、スポンサーとの交渉にも支障をきたすことになる。それを避けるため、何がなんでも4月22日(土)に出場資格を得るために2台あるいは3台体制で参戦するチームが多い。こういう理由で台数が増えている。
(8耐トライアウト出場チームには8Hの表記がある)
幾つかの階層に分かれるJSB1000チーム
2輪レースの出場台数が多いのは「スポット参戦がしやすい」という要素も大きく関係している。国内最高峰のJSB1000は排気量1000ccの市販スポーツバイクをベースにしたマシンで戦うレースで、エンジン、ミッションやスイングアームなど様々な部分をレース特別仕様に改造することができる。
しかし、メーカー間の過当競争を防ぐために「改造範囲はここまでですよ」という上限的な規定があるのみで、極端な話、市販車からミラーなどの保安部品を外したノーマル(=市販車状態に近いマシン)でも出場することができるのだ。そのためエントリー台数70台の中にはノーマルに近いレギュレーションの「全日本ST1000」の仕様で走るチームもかなり居る。
同じホンダのバイク(CBR1000RR-R)だったとしても実はチーム体制や目的によってマシンの仕様は様々であり、実際には幾つかの階層に分かれてそれぞれの目標に向かって同じレースを走っているのである。
【ワークスチーム/ワークス仕様に近いマシンを使うチーム】
「YAMAHA Factory Racing Team」(中須賀克行・岡本裕生/ヤマハ)「YOSHIMURA SUZUKI RIDEWIN」(亀井雄大/スズキ)「オートレース宇部Racing Team」(津田拓也/スズキ)など
・・・特別仕様のワークスマシンやそれを使うチーム。スズキは昨年をもってワークスマシンの開発を終了している。
【メーカー特別仕様のキット車を使うチーム】
「SDG Honda Racing」(名越哲平/ホンダ)「Astemo Honda Dream SI Racing」(作本輝介・水野涼/ホンダ)「Honda Dream RT SAKURAI HONDA」(伊藤和輝・日浦大治朗)など
・・・プライベーター向けにメーカーが開発したキットパーツ(=レース用部品)を使うチーム。ホンダの全日本JSB1000チームのほとんどがこのケースであり、近年は各メーカーがこのジャンルに力を入れている。メーカーがチームに販売するという意味では4輪のFIA GT3、GT4の概念に近いものがある。
【全日本プライベートチーム】
「SANMEI Team TARO PLUSONE」(関口太郎/BMW)「KRP SANYOKOUGYO RS-ITHO」(柳川明/カワサキ)「Waveinn R」(中冨伸一/ヤマハ)など
・・・市販車からJSB仕様に独自で改造を施したマシンで戦うプライベーター達。市販車状態に近いST1000仕様のマシンで参戦するチームも多い。「MOTOBUM HONDA」(荒川晃太/ホンダ)など若手のスキルアップを目的に、あえてST1000仕様で参戦するチームもある。
【地方選手権プライベーター】
鈴鹿の地方選手権(サンデーロードレース)を主戦場とし、鈴鹿8耐への出場を目標とするチーム。ST1000仕様に近いマシンが多く、今回の26台予選落ちという状況では決勝進出は至難の業。予選通過が第一関門だ。
筆者独自の考え方で4つの階層に分けてみたが、実際にはどのチームがどの階層に属しているかの定義は難しい。ワークスから少人数の超プライベーターまでが同じレースを走るというのは昔から続く2輪レースの概念であり、それは2輪レースの良さでもある。
この概念は日本代表のマラソン選手が走る大会に一般出場枠で大勢の市民ランナーが走る構図に近いものがあると思う。
ただ、JSB1000という同じカテゴリーで70台が出場するというのは、初心者のファンには分かりづらい部分かもしれない。「JSB1」「JSB2」「JSB3」のようにカテゴリー分けをするレギュレーションになれば理解しやすいと思うのだが、どうだろうか。
SF23を使用するスーパーフォーミュラにSF19やSF14で参戦できないことや、GT500に市販車から改造したホンダNSXが参戦できないように、4輪レースでは性能の均一化が当たり前であり、実績のないチームのスポット参戦は難しいため、2輪レース独特の概念は4輪ファンにはなかなか理解できないかもしれない。
しかしながら、これだけの台数が出場する2輪スプリントレースは今や世界的に見ても稀なこと。ピットロードから我先にとコースになだれ込んでいくシーンは圧巻であるし、この中から推しを見つけて、鈴鹿2&4レースでしか味わえない迫力をぜひ楽しんでもらいたい。