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カーボンニュートラル燃料使用でもヤマハが独走!王者、中須賀を止めるのは誰か?

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
全日本ロードレース選手権 JSB1000クラス(写真:MOBILITYLAND)

2輪ロードレースの国内選手権「MFJ全日本ロードレース選手権」の2023年シーズンがモビリティリゾートもてぎ(栃木県)で4月1日(土)2日(日)に開幕した。

同レースの公式YouTube中継「motoバトルLIVE」で実況を務める私、辻野ヒロシが開幕戦のレビューと共に最高峰クラス「JSB1000」の今シーズンの見どころをご紹介する。

カーボンニュートラル燃料の導入

大接戦とビッグバトルが展開されながらも絶対王者に君臨する中須賀克行(ヤマハ)の全戦全勝で幕を閉じた2022年シーズンから半年、全日本ロードレースのJSB1000クラスは変革の年を迎えることになった。

最高峰クラス「JSB1000」は今季からガソリンに代えて非化石由来のレーシング燃料(=カーボンニュートラル燃料)を使用してレースを行うことに。従来のガソリンエンジンの技術を維持しながら、代替燃料によってCO2排出の削減を図るための新しい試みである。

新燃料で初レースとなったJSB1000クラス(写真:MOBILITYLAND)
新燃料で初レースとなったJSB1000クラス(写真:MOBILITYLAND)

使用する燃料は特殊燃料メーカーのハルターマン・カーレス社の「ETS Renewablaze NIHON 100」。バイオマス由来のCNFは「SUPER GT」で使用される燃料に近いものだという。市販車をベースにしたマシンで争うJSB1000は各メーカーが技術フィードバックの現場として活用しており、メーカーにとってみればカーボンニュートラル燃料(CNF)の使用でさらに研究開発の要素が増えたことになる。

今季は新燃料の導入により勢力図に変化が生まれることが期待されていた。

ヤマハの牙城は揺るがず!

そんなカーボンニュートラル新時代の元年、メーカーとして5連覇中のヤマハは今年もワークスチーム体制を維持。「YAMAHA FACTORY RACING TEAM」は11回目の王座を獲得した中須賀克行、そして昨年JSB1000にデビューの岡本裕生の2台体制である。

ヤマハワークスは冬の間にテストコースでCNFを使用した走行を行なっていたという。ヤマハはメーカー直属のワークスチームとしてのメリットを活かし、開幕前の事前テスト走行から一歩抜きん出ていた。ガソリンを使用した時に比べるとパワーダウンが否めないことを各ライダーは認めていたが、予選ではポールポジションを獲得した岡本裕生、中須賀克行ともに2022年のもてぎのポールポジションタイムを超える1分47秒前半を記録。新燃料の合わせ込みに成功していることを証明した。

初ポールポジションを獲得した岡本裕生(写真:ヤマハ発動機)
初ポールポジションを獲得した岡本裕生(写真:ヤマハ発動機)

レースでもヤマハワークスの強さは健在。快晴のレース1では岡本裕生、中須賀克行共にスタート直後にバランスを崩すシーンが見られたが、ワークス仕様のヤマハYZF-R1は非常に高い戦闘力を発揮。土日のレース1、レース2共に中須賀がリードしてのヤマハ1-2フィニッシュとなった。

今季は燃料の変更によってヤマハとライバルメーカーの戦闘力が接近する可能性もあったが、やはりヤマハが長年のワークスチーム体制で蓄積してきた膨大なデータ量はいまだに大きなアドバンテージを持っている。今年で42歳になる中須賀克行の決勝レースでの強さは揺るぎないものがあり、ドライコンディションで2年目の岡本裕生が今後どこまで中須賀に迫れるかが今季の大きなテーマになるだろう。2021年から25連勝を続けるヤマハ&中須賀の牙城はそう簡単には崩れそうにもない。

連勝街道を突き進む中須賀克行(写真:ヤマハ発動機)
連勝街道を突き進む中須賀克行(写真:ヤマハ発動機)

ライバルでは名越哲平(ホンダ)が躍進

ヤマハがワークスチームで2人のライダーにリソースを集中させているのに対し、ホンダはJSB1000ではワークスチームを出場させていない。近年のホンダはCBR1000RR-Rのレースモデルをプライベートチームに託してレースを戦っている。その分、台数が多くトップライダーが揃っているというのがホンダの強みだ。

イギリスから国内復帰となった水野涼(写真:MOBILITYLAND)
イギリスから国内復帰となった水野涼(写真:MOBILITYLAND)

開幕戦で注目を集めたのは昨年まで英国スーパーバイク選手権を戦っていた水野涼。「Astemo Honda Dream SI Racing」からの参戦がギリギリで決まり、非常に限られたテスト走行の時間でレースウィークにしっかりと合わせ込んできた。レース1はトップ争いの最中にマシントラブルでリタイアとなったが、レース2では最後まで諦めない攻めの姿勢を示して4位。ホンダ勢最上位とはならなかったが、積極果敢なレースで強いインパクトを与えたのは間違いなく水野で、今季の期待は高まるばかりだ。

3位表彰台を獲得した名越哲平(写真:MOBILITYLAND)
3位表彰台を獲得した名越哲平(写真:MOBILITYLAND)

一方で2レース連続の3位表彰台という結果を残したのは名門チーム、ハルクプロが母体の「SDG Honda Racing」から参戦する名越哲平。立場としてはホンダのエース的存在として起用されながら、昨年は開幕前に大怪我を負い、シーズンの大半を欠場する事態に。約半年ぶりのレースということで感覚を取り戻すのが大変だったようだが、レース1では津田拓也(スズキ)とのバトル、レース2では水野涼(ホンダ)とのバトルを制した。身体のコンディションが戻った今季、名越哲平はシリーズチャンピオンを争う一人になるだろう。

ホンダには若手のラインナップだけでなく、大怪我を乗り越えて表彰台を獲得した清成龍一(TOHO Racing)、昨年の最終戦でスランプから抜け出した印象の大ベテラン秋吉耕佑(Murayama Unso Honda Dream K.W)、自動車関連企業の社内クラブチームながら上位争いを展開する岩田悟(Team ATJ)など選手層が非常に厚い。

伏兵はスズキ?亀井、津田など新体制

昨年、チャンピオンの中須賀克行(ヤマハ)を追い回したのは、岡本裕生(ヤマハ)と渡辺一樹(スズキ)だった。しかし、渡辺一樹はFIM世界耐久選手権へと戦いの場をスイッチし、スズキGSX-R1000Rを走らせる「YOSHIMURASUZUKI RIDEWIN」のシートには空きができた。

YOSHIMURA SUZUKI RIDEWINから参戦する亀井雄大(写真:MOBILITYLAND)
YOSHIMURA SUZUKI RIDEWINから参戦する亀井雄大(写真:MOBILITYLAND)

同チーム監督の加賀山就臣が白羽の矢を立てたのが、昨年ホンダの社内クラブチームで3度のポールポジションを獲得した亀井雄大。プロライダーとして名門ヨシムラのマシンに乗るというオファーを受けた亀井は「YOSHIMURASUZUKI RIDEWIN」入りを発表。初めてのスズキでレースに挑んだ。

そしてスズキ勢からはもう1台、4年ぶりのJSB1000復帰となる津田拓也が「オートレース宇部Racing Team」から参戦。このチームはなんとスズキからワークスマシンと同等のポテンシャルを持ったスズキGSX-R1000Rを購入し、スズキのマシンを知り尽くした津田に託し、いきなり表彰台を争うレースを展開してライバルを驚かせた。

新規参戦でいきなり活躍したオートレース宇部の津田拓也(写真:MOBILITYLAND)
新規参戦でいきなり活躍したオートレース宇部の津田拓也(写真:MOBILITYLAND)

スズキは昨年をもってワークスマシンの開発を終了した形となっているので、マシンの大幅な進化は望めないものの、昨年の渡辺一樹の速さを見ても分かる通り、ヤマハに挑めるだけの高い戦闘力を持っている。ただ、亀井はスズキに乗る最初のシーズン、津田のチームはJSB1000に初参戦ということもあり、開幕戦はレース1で津田拓也が4位になったのが最上位。今後うまく歯車が噛み合ってくれば、ヤマハワークスに挑めるのはスズキ勢かもしれない。

今シーズンは全7ラウンド12レースで争うJSB1000クラス。次戦は4月22日(土)23日(日)に鈴鹿サーキットで開催される。昨年、大いに観客を沸かせた中須賀vs渡部のような渾身のドッグファイトを期待したい。

【2023年 JSB1000 暫定ランキング】

1. 中須賀克行(ヤマハ) 50p

2. 岡本裕生(ヤマハ)  40p

3. 名越哲平(ホンダ)  32p

4. 作本輝介(ホンダ)  22p

5. 秋吉耕佑(ホンダ)  19p

(2レース終了時点)

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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