あのマニー・ラミレスもプレー?コロナ禍でも行われた「冬野球」の現状
昨年の今頃にその存在が明らかになったコロナウィルスはいまだ世界中を震撼させている。昨年は様々な制限の下、なんとか日本のプロ野球は実施されたが、現状では今シーズンも「元のまま」とはいかないだろう。
そういう中でも、もうひとつのプロ野球である中南米カリブ各国、南半球のウィンターリーグはなんとか実施されている。ここでは、キューバリーグを含めた各国のウィンターリーグの現状をお伝えしたいと思う。
ドミニカ共和国(リガ・デ・ベイスボル・プロフェシオナル・デ・ラ・レプブリカ・ドミニカーナ/LIDOM)
ウィンターリーグとして最も名が知られているのがこのリーグだろう。日本のプロ野球(NPB)経験者も多くプレーしている。無観客ながら6球団制の枠組みも維持の上、なんとか開催され、例年より20試合少ない30試合のレギュラーシーズンを11月半ばから12月下旬まで行い、上位5チームがポストシーズンに進出した。
レギュラーシーズンは1位から3位までが16勝14敗で並ぶ大接戦。対戦成績などで順位を決め、年明けからのポストシーズンに突入した。5位のエスコヒードとの3戦2勝制のワイルドカードシリーズを制した4位のエストレージャスが1位のヒガンテスと、2位アギラスは昨シーズンのカリビアンシリーズチャンピオンの3位トロスとの7戦4勝制のプレーオフを戦い、順当にヒガンテスとアギラスが勝ち抜いた。すでに両チームによるファイナルシリーズも始まっており、現在ヒガンテスが3勝1敗で6シーズンぶり5度目の優勝に王手をかけている。
プエルトリコ(リガ・デ・ベイスボル・プロフェシオナル・ロベルト・クレメンテ/LBPRC)
昨シーズンは日本の球団からの選手を受け入れていたこのリーグだが、さすがにコロナ禍にあってそれもなくなっている。
2000年代に入って球団数、試合数とも縮小傾向にあったこのリーグも、近年は元に戻りつつあったのだが、今シーズンは、コロナ禍にあって参戦予定の7球団中、昨シーズンの優勝チーム、「首都」サンファンのサントゥルセを含む3チームがシーズンをキャンセル。4チームが各々18試合という短いレギュラーシーズンは、12月中に消化してしまった。順位に応じてすべてのチームが出場する7戦4勝制のセミファイナルの後、決勝シリーズを行い、カリビアンシリーズ代表、つまり優勝チームを決めることになっていたが、セミファイナルシリーズの途中でレギュラーシーズン3位のマナティと対戦していた2位のマヤゲスにコロナ陽性の疑いのある選手が出たことで1試合を消化しただけでシリーズが中断。2週間待ってようやく再開となった。なおマナティには現在フリーエージェントで行き先の決まっていないMLBのベテラン捕手、ヤディアー・モリーナがスポット参戦予定である。
もう片方の対戦はすでにレギュラーシーズン首位のカグアスが決勝進出を決めており、連覇を果たした2017、18年以来のカリビアンシリーズ出場に向けて爪を研いでいる。
ベネズエラ(リガ・ベネソラーナ・デ・ベイスボル・プロフェシオナル/LVBP)
ここ数年の政情不安とそれにともなう経済の混乱で昨シーズンはついにMLBより傘下のマイナーリーガーに参加禁止の通達のなされたベネズエラ・リーグだが、試合数は縮小したものの、レギュラーシーズンは各チーム40試合を確保。8球団制も維持し、有観客で11月28日に開幕し、現在、東西各地区の上位2チームをたすき掛けにして対戦させるプレーオフが実施されている。例年は、6チームによりファイナルまで3段階のポストシーズンが実施されていたが、やはりコロナの影響で縮小されたようだ。昨年、カリビアンシリーズで決勝まで進出した元ヤクルトのカルロス・リベロ擁するディフェンディングチャンピオン、カルディナレスは現在プレーオフで2勝1敗と着実にファイナルシリーズに向けて駒を進めている。
メキシコ(リガ・メヒカーナ・デル・パシフィコ/LMP)
かつてはカリビアンシリーズ出場4か国の中で常に後塵を拝する存在であったメキシコだが、2000年代に入り、その他の中南米諸国と比較しての治安の良さや経済力から好選手が多く集まるようになったウィンターリーグ、メキシカン・パシフィック・リーグは今や人気実力とも「カリブナンバーワン」と言える存在になった。今年のカリビアンシリーズは、ホスト国として新装なったマサトランのスタジアムに各国チャンピオンを迎えるが、ここを本拠とするベナドスは前後期とも7位でポストシーズン進出を逃している。
夏のプロリーグはトップのメキシカン・リーグ、マイナーリーグともコロナ禍にあってシーズンキャンセルとなったが、LMPは10球団が前後期計60試合のレギュラーシーズンと各々7戦4勝制、3段階のプレーオフという例年通りのフォーマットを無観客ながら行うことになった。現在プレーオフはセミファイナルまで進んでおり、昨年のチャンピオンで元阪神のエフレン・ナバーロ、元オリックスのジョーイ・メネセス、元広島のラミロ・ペーニャ擁するトマテロスは2勝1敗と順調に勝ち進んでいる。
コロンビア(リガ・プロフェシオナル・デ・ベイスボル・コロンビアーノ/LPB)
昨年、悲願のカリビアンシリーズ出場を果たしたものの、6か国総当たりのラウンドロビンで全敗と上位4か国との実力の差を見せられた。
昨シーズンから元MLBのスター選手、エドガー・レンテリアが立ち上げたバランキージャ・ヒガンテスと、レオーネスがカリブ海岸東部の都市、サンタマルタにフランチャイズを移したことによって「空き家」となっていた内陸部の都市、モンテリアに新たに立ち上げられたバキュエロスが加わり6球団制となったコロンビア・リーグだが、今シーズンはコロナによる国際移動の制限もあって外国人選手の補強もままならず、バランキージャの古豪カイマネスと新球団ヒガンテス、それにカルタヘナを本拠とするティグレス、バキェロスからなる4球団制に縮小された。
リーグのフォーマットも、11月から年内いっぱいまでの各チーム24試合(実際は23試合)のレギュラーシーズンと年明けからのプレーオフという規模に縮小し、試合はすべて3年目のU23ワールドカップの会場ともなった、バランキージャのエドガー・レンテリア球場に集約し、無観客の変則ダブルヘッダーで消化した。プレーオフはレギュラーシーズン上位3チームが各8試合を行うラウンドロビン形式で実施、これを勝ち抜いたカリビアンシリーズ出場をかけたカイマネスとバキュエロスのファイナルシリーズを待つのみである。
パナマ(リガ・プロフェシオナル・デ・ベイスボル・デ・パナマ/Probeis)
1949年に始まったカリビアンシリーズの主催団体、カリブ野球連合の原加盟国であったパナマだが、1972年にリーグが消滅。その後、2000年代になってプロリーグが復活するが、アマチュア野球人気が高く、度々の中断などもあり、長らくカリビアンシリーズ復帰には至らなかった。
現在のプロリーグ、「プロベイス」が2011年に復活した後、2013年からはメキシコの独立ウィンターリーグ、ベラクルス・リーグが旗振り役となって始まったラテンアメリカンシリーズにコロンビア、ニカラグアなどとともに出場していた。しかし、2019年のカリビアンシリーズの開催予定国だったベネズエラが国内混乱のため開催権を返上したため、急遽、パナマが大会開催の上、参加することが決定。直前のラテンアメリカンシリーズを戦ったチャンピオンチーム、トロス・デ・エレーラの選手をほとんどメジャー経験者に入れ替える大補強を行い、パナマ勢として実に69年ぶりに優勝を飾ったあたりからパナマプロ野球の風向きが変わってきた。
昨年大会も新球団、アストロナウタスが参加するも、補強選手制度をあまり活用せず、元のメンバー中心の布陣で臨んだ結果、勝ち星はコロンビア相手の1勝のみに終わってしまった。
今シーズンはコロナ禍にあってなんとかシーズン開催の途を模索したが、結局リーグはキャンセルとなった。それでも、カリビアンシリーズには参加が決まり、昨シーズンのレギュラーシーズン首位のフェデラレス・デ・チリキの名前で国内外からメンバーを集め出場することになった。メンバーには、昨年メジャーデビューを果たしたジョナサン・アラウス(レッドソックス)や2018年には2ケタ勝利を挙げたハイメ・バリア(エンゼルス)らの現役メジャーリーガー名を連ね、首都パナマシティのロッド・カルー国立球場でシリーズに向けて調整中である。
現在、コロンビア、パナマのカリビアンシリーズ参加は「招待」というかたちを採っているが、今大会の際に行われるカリブ野球連合の会議で、コロンビア、パナマ両国の正式加盟が検討される。
ニカラグア(リガ・ニカラグエンセ・デ・ベイスボル・プロフェシオナル/LNBP)
多くのリーグがコロナ対策で無観客開催する中、強気で臨んでいるのがこの国のリーグだ。夏のアマチュア全国リーグでもスタンドを連日満員にしていたお国柄。冬のプロリーグも有観客で開催している。それも従来の4球団制から新たに内陸部の都市、エステリを本拠とするトレン・デル・ノルテが参入。5球団制で各チーム32試合のレギュラーシーズンを戦った。新球団はこのレギュラーシーズンをぶっちぎりの勝率7割5分で通過。しかしその後の上位4チームが各12試合を争うラウンドロビン・プレーオフでは同率最下位に沈んでしまった。
現在は、ラウンドロビンで勝ち残ったティグレスとヒガンテスの間で7戦4勝制のファイナルシリーズが行われている。なお、ニカラグア・リーグの優勝チームは、昨年中断となったラテンアメリカンシリーズに出場予定だが、コロンビア、パナマがカリビアンシリーズに「昇格」し、メキシコの独立リーグも活動停止となった現在、対戦相手がグアテマラ、キュラソーのプロ、セミプロリーグ、アルゼンチン、チリのアマチュアリーグくらいしかなく、今年も大会はキャンセルされる模様だ。
キューバ(セリエ・ナシオナル・デ・ベイスボル/SNB)
キューバ革命以降、社会主義の理念に基づいてプロリーグを休止、各州対抗のアマチュア全国リーグ、セリエ・ナシオナルに移行したこの国だが、近年は「友好国」のプロ球団への選手派遣を解禁していることは、日本で活躍するキューバ人選手の存在で多くのファンが知るところとなっている。2014年からはカリビアンシリーズにも復帰を果たしている。
それに伴ってウィンターリーグであるセリエのスケジュールも変更され、かつては11月末から12月初めに開幕、ファイナルシリーズ終了は4月に入ってからというものが、現在では晩夏から初秋開幕、カリビアンシリーズ前の1月末にはシーズンを終了するようになってきていた。
しかし、コロナのせいか、昨年大会は直前になってキャンセル。今大会にも参加の予定はなく、そのため昨年の9月12日に開幕し、全16チームが75試合を消化するレギュラーシーズンを経て上位8チームが進出する第1次プレーオフ、サブセリエがようやく終了したところで、勝ち抜いた4チームによる第2次プレーオフに突入するところである。
オーストラリア(オーストラリアン・ベースボール・リーグ/ABL)
日本からも毎年のように選手が「野球留学」することですっかりおなじみになったオーストラリアのウィンターリーグ、ABLだが、やはりコロナの影響からは逃れられなかった。
2年前に8球団制へと拡大したが、国境移動の制限もあり、韓国人チーム・ジーロング・コリアとニュージーランドに本拠を置くオークランド・トゥアタラが不参加となり、元の国内球団のみの6球団制となった。レギュラーシーズンは、例年より1か月ほど遅く、12月17日に開幕、1月下旬まで各チーム24試合というかなり縮小したかたちで行われることになっていた。しかし、開幕直後にシドニーでの感染拡大を受け、制限が強化され、ABLもシドニーのあるニューサウスウェルズ州との往来を停止することになった。このため、シドニーはいまだ公式戦を2試合しか消化しておらず、またシドニーとの対戦がキャンセルされたため、チームごとに消化試合数にばらつきが出、リーグ戦成立そのものにも影響が出る模様だ。
このような逆境の中、唯一の希望と期待されたメジャーリーグのレジェンド、マニー・ラミレスのシドニー・ブルーソックスでの現役復帰だったが、唯一行われた地元での開幕シリーズは体調不良で欠場、その後、球団の活動じたいが休止してしまったため、結局、1試合もファンの前に姿を見せることなく退団となってしまった。
ウィンターリーグの頂点を決めるカリビアンシリーズは1月31日から始まる。
(写真はすべて筆者撮影)