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総選挙での自民「裏金処分議員」27人の当落はいかに。「安泰」は2人。試される主権者の判断

坂東太郎十文字学園女子大学非常勤講師
まだゴタゴタしているようだが(写真:つのだよしお/アフロ)

 石破茂首相は9日にも衆議院を解散して総選挙を実施すると表明しました。日程は15日公示、27日投開票でほぼ確定。

 石破氏は同時に自民党総裁として一連の裏金問題で党の処分を受けた議員の大半を党公認とし、比例区との重複立候補も認めるとも。9日までに最終判断するもようでまだ流動的ですが。

 そうなれば裏金処分議員の多くが総選挙で「自民党公認」を名乗り、「自民党」と党名を書いてもらう必要のある比例区での復活当選まで容認となります。主権者の判断やいかに。

 そこで今回立候補予定の裏金処分議員27人の選挙区などの情勢を洗ってみました。すると案外と野党・立憲民主党や日本維新の会から有望な対抗馬が出ていてハッキリ「安泰」といえそうなのは2人ぐらい。序盤の情勢分析で劣勢が伝えられたら「処分なしの裏金議員」を中心に影響が全国に及ぶ可能性もありそうです。

離党勧告を奇貨として鞍替えする世耕氏

 選挙で公認するかどうか自民党内の規約にしたがい、上から4番目の「選挙における非公認」より重い処分を受けた者は今回も「非公認」です。

 2番目の(最も重い「除名」は該当者なし)「離党の勧告」を受けて離党した2人のうち1人は今度の選挙に出ないので除外。もう1人の世耕弘成氏も参議院議員なので総選挙には関係ないと思いきや、勧告を受け入れての離党を奇貨として何と「無所属新人」で引退する二階俊博氏の三男が自民公認で出馬する和歌山2区へ立候補予定。

 以前のままであったら参議院とはいえ自民現職が自民公認のいる衆議院小選挙区へ鞍替えしたらブーイングの嵐でしょう。なかなかの策士。もっとも選挙情勢自体は非常に厳しいとみられます。

無所属で出る「党員資格停止1年」の2人は

 3番目の「党員資格停止」のうち「1年」の2人も、まだ半年余しか過ぎていないから「非公認」です。

 西村康稔氏(兵庫9区)は選挙に強く、無所属でも勝てそうですが、世間から絶大な知名度を誇る泉房穂前明石市長が押す立憲新人の出馬が決まって怪しくなってきました。明石市は9区の中核都市です。

 もう1人の下村博文氏(東京11区)も選挙は強いとはいえ過去しばしば得票率5割を下回っています。いわば野党乱立に助けられていたところ今回は立憲が前回、次点落選の元職で再チャレンジ。野党の選挙協力ができるかどうかで形勢が変わってきそうです。

「資格停止6カ月」は4日に解除したとはいえ

 悩ましいのが「党員資格停止6カ月」の高木毅氏(福井2区)。今月4日に6カ月を過ぎて解除・党員へ復帰しました。公示日(15日)の数日前に資格を回復したばかりで、処分自体が「選挙における非公認」より重かったので何もなかったかのごとく公認を得るのは難しそう。県連が高木氏で申請するかどうかにかかってきそうです。

 立憲が立てる新人候補は、かつて旧福井全県区(中選挙区)などで5回当選した辻一彦衆議院議員の二男。辻氏の議員生活終盤に台頭して2000年に初当選したのが高木氏。因縁の相手であなどれません。

公認される「役職停止」1年の5人

 「選挙における非公認」と1つ下の「国会および政府の役職の辞任勧告」は該当者がなく、6番目の「党の役職停止」7番目の「戒告」が次の選挙で公認される方向になった「裏金処分議員」。そもそも「非公認」より軽い処分で済んだのだから公認は当然というのが身内の論理のようです。

 まず「役職停止」1年の5人(2人は不出馬なので除外)から。何といっても「大物」が萩生田光一氏(東京24区)。旧統一教会との親密さでも批判された「裏金+壺」のダブルパンチで地盤も大いに揺らいでいます。連立を組む公明党の最大支持母体たる創価学会からも過去のような熱心な支援は期待薄。立憲が統一教会批判で知られる有田芳生元参院議員を対抗馬に立てました。

 松野博一元官房長官(千葉3区)も厳しい。そもそも選挙にさして強いとはいえず、岡島正之・一正親子と長年死闘を繰り広げてきたのです。今回も立憲が一正氏を公認。

 3代目世襲で盤石そうな三ツ林裕己氏(埼玉14区)は前回、次点で退けたものの比例復活の国民民主現職が今回も立候補予定で逆転される恐れがあります。

 平沢勝栄氏(東京17区)は高齢で党の規約上比例への重複立候補ができなません。維新新人と国民の新人ながら参院で比例3回当選と知名度の高い2人の女性候補と厳しい戦いです。

 上記4人はいずれも1都3県が選挙区。無党派・浮動票が多く裏金批判も強めに出てきそうで落選しても驚きはありません。

 その点で安泰そうなのが武田良太氏(福岡11区)。引退する二階俊博の跡を継いで二階派領袖も期待された大物で野党候補を蹴散らしそうです。

「役職停止」半年のうち前回小選挙区当選の3人は

 次に「党の役職停止」半年で前回は小選挙区で議席を得た3人。処分自体は4日から解除されています。

 衛藤征士郎氏(大分2区)は御年83歳で重複立候補はできません。立憲が前回比例復活した現職の吉川元氏を今回もぶつけてきます。小田原潔氏(東京21区)もまた前回比例復活の立憲現職・大河原雅子氏の挑戦を受けます。敗れたとはいえ立憲の2候補の惜敗率が極めて高かったので、裏金問題がなくとも激しい戦いでした。

 簗和生氏(栃木3区)の対抗馬は立憲で前回落選の新人が再挑戦。

 残りの4人は比例区選出なので最後の「比例区編」にまとめて観察します。

「戒告」のうち前回、小選挙区で勝ち抜いた6人

 処分されたなかで最も軽い「戒告」のうち前回、小選挙区で勝ち抜いたのは6人。

 大塚拓氏(埼玉9区)は立憲から出て2度次点で落選した新人が、柴山昌彦氏(埼玉8区)と西村明宏氏(宮城3区)も立憲新人が主な対立候補です。

 関芳弘氏(兵庫3区)は関西圏ならば強みを持つ維新候補で前回次点ながら比例復活した現職の和田有一朗が再挑戦。

 細田健一氏(新潟2区)は区割り変更で前回まで4区で当選を重ねた現職の菊田真紀子氏と激突。和田義明氏(北海道5区)は立憲元職が挑んできます。

 いずれも立憲および「関西の維新」が相手で簡単ではなさそうです。

そもそも弱い比例復活組

 最後に前回比例区当選組と「その他」。「党の役職停止」半年(以下「半」)と「戒告」(以下「戒」)をまとめて見てみます。

 うち選挙区で敗れて比例復活した4人は、そもそも弱い候補です。菅家一郎氏(「半」)は福島旧4区(24年は新3区)で前回勝った立憲の宿敵・小熊慎司氏が待ち構え。中根一幸氏(「半」)は埼玉6区で立憲現職の大島敦氏に1勝5敗と分が悪い。宗清皇一氏(「半」)の大阪13区は金城湯池の維新・岩谷良平氏に前回敗北しています。

 高鳥修一氏(「戒」)は区割り変更で新潟旧6区から新5区で立つも旧区で敗北した立憲の梅谷守氏と再対決と構図に変化なし。

 積み増したいのに今回は「裏金」の逆風を受ける上に前回の勝利者が今度も出馬。比例復活しようにも惜敗率が下がったり、比例の自民票自体が減って枠が減ったらおぼつかない状況です。

明暗クッキリの比例単独2人

 比例単独当選2人のうち杉田水脈氏(「半」)の中国ブロックは、単独候補が選挙区割り変更のあおりで杉田氏の上位に何人か加えられそう。さらに杉田氏は重複立候補者の大半が小選挙区で勝ち抜いたため議席が巡ってきた側面もあって「自民逆風」が自身への逆風に直結します。

 その点で明暗がクッキリするのは「安泰」の尾身朝子氏(「戒」)。北関東ブロック単独ながら本来の選挙区である群馬1区は現職の中曽根康隆氏が立候補。群馬は尾身氏も含めて世襲がウジャウジャいて選挙区が足りないというありさまです。調整の結果、尾身氏が渋々比例へ回っている経緯から名簿順1位など優遇されるのが確実なので。

 なお参院から東京7区に鞍替えする丸川珠代氏(「戒」)と競うのが立憲元職と維新現職(比例復活)の小野泰輔氏と手強い。前回落選の中山泰秀氏(「戒」)の大阪4区は維新のお膝元で前回屈した現職の美延映夫が今回も立候補します。

十文字学園女子大学非常勤講師

十文字学園女子大学非常勤講師。毎日新聞記者などを経て現在、日本ニュース時事能力検定協会監事などを務める。近著に『政治のしくみがイチからわかる本』『国際関係の基本がイチから分かる本』(いずれも日本実業出版社刊)など。

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