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飢える北朝鮮「禁断の食肉」流通の血なまぐさい話

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
北朝鮮の公開裁判(デイリーNK)

北朝鮮において、朝鮮労働党や行政機関のどんなポストに就くかはその後の生活、人生を大きく左右する。それ次第で豊かな暮らしを送れるか、餓死するかが決まるかと言っても過言ではない。

男女9人処刑

そのポストを巡って、幹部の間で深刻なトラブルが起きたと、デイリーNK内部情報筋が伝えている。

朝鮮労働党中央委員会(中央党)財政経理部傘下の平壌牧場は、中央党幹部に肉と卵を供給している。ここで先月18日から幹部事業(幹部の人事異動)が行われ、保衛隊長と財政、経理、畜産、農産の各課長など中間管理職が総入れ替えとなった。中央党は、組織の効率化と若返りを今回の総入れ替えの理由として挙げたが、現場では不満が渦巻いた。

業務の引き継ぎが行われた21日に、とうとう不満が大爆発した。前任者と新任幹部らとの間で大乱闘となり、業務が完全に麻痺してしまったのだ。

なぜ人事異動でここまでの大トラブルになったのか。情報筋は次のように説明した。

「中央党幹部に提供する肉を生産する平壌牧場の幹部のポストは、一度任命されればずっとしがみつきたくなるほど特恵の多いポストだ。急に幹部事業の指示が下され、幹部の交代の過程で何らかのトラブルが発生した」

北朝鮮において畜産部門の幹部は、生産された肉や卵を市場に横流しすることで、相当の利益を得られる。現在のような食糧難の下では、その価値はいっそう増大する。

それだけに、こうした利権を巡って血なまぐさい事件も多発している。

昨年8月には、牛肉を密売していた男女9人が公開処刑されている。この件は、判決内容に不自然な点があり、何らかの利権を巡って9人がいけにえにされたとの見方もある。

(参考記事:北朝鮮の15歳少女「見せしめ強制体験」の生々しい場面

農業の機械化が遅れている北朝鮮では、牛はもっぱら農耕用として飼育され、法により国家財産と定められている。食べるなどはもってのほかだ。それでも、特権層は専用の牧場で育てられた牛肉を食べており、一般庶民の間でも密売されているのだが、摘発されればただでは済まされないのである。

もっとも、平壌農場の人事は、そういった「不正摘発」が理由ではない。中央党が掲げた理由は「効率化」「若返り」というぼんやりとしたものだったために、前任者の猛反発を誘ってしまったもようだ。また、若返りと言いつつも、新任者の方が年長である例もあり、ポストがワイロでやり取りされたことも考えられる。

人事に関連して大乱闘が起きたことで、中央党は激怒しており、中央検察所に事件の収拾を指示した。内部調査と警告だけで終えるのではなく、法的に処罰せよということだ。

(参考記事:北朝鮮女性を追いつめる「太さ7センチ」の残虐行為

中央検察所は22日、前任者全員を連行、勾留した。厳しい取り調べに続き、全員が平壌から追放されるのではないかと情報筋は見ているが、場合によっては先述した9人のように、はるかに残酷な結果になることもあり得る。

一方、新任者に対しては、何の処罰も行われておらず、やはりカネとコネでポストがやり取りされたのではないかという噂が渦巻いている。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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