加熱式タバコに仕込まれた「凶器」とカプセルの新たな「健康懸念物質」とは
喫煙者のおよそ1/3が吸っている加熱式タバコだが、シェアが圧倒的に多いアイコスで吸われるタバコスティックには人を傷つける「凶器」が、そしてアイコスを含む加熱式タバコの新製品には「健康懸念」のある物質が仕込まれている。
アイコスの金属ブレードは国際的な問題に
アイコス(IQOS)は、米国やスイスに拠点を置くフィリップモリス社(PMI)が製造販売している加熱式タバコのデバイス名だ。加熱式タバコでは、電気的に加熱するデバイスにタバコスティックを差し込んで吸う方式が多いが、アイコスの現行バージョンはイルマといい、イルマにもテリアとセンティア(廉価版)という専用のタバコスティックがある。
実は、このテリアとセンティアのスティックの1本1本の中には、長さ約12ミリメートル、幅約3.5ミリメートルの金属ブレードが入っている。触ってみると弾力性があるが、バリがあって角が尖り、うっかりすると指先を切ってしまいそうになるほど鋭利だ。
2023年9月、三重大学大学院医学系研究科の研究グループがある症例報告を発表した(※1)。生後7カ月の女児が、加熱式タバコのスティックを誤飲し、近所の救急外来を受診、腹部X線検査をすると、胃の中に金属製の物質があることがわかったのだ。
女児は最初は救急外来を受診したが、そのままでは腸などの消化管を傷つける危険性があるため、三重大学の病院へ転院した。そして、同研究グループによる上部消化管内視鏡(いわゆる胃カメラ)による検査と金属物質の除去が行われたという。
この女児の胃の中で見つかった金属ブレードこそ、テリアかセンティアの中に仕込まれたものだったというわけだ。こうした誤嚥事故は、日本だけではなく、アイコスが販売されている各国で起きていて公衆衛生上の懸念が示されている(※2)。
金属ブレードが入れられたタバコスティックを子どもが誤飲すれば、口腔内を傷つけ、飲み込んでしまうと消化管を傷つけるなど、重篤な事故につながる危険性があるというわけだ。しかし、これらタバコスティックのパッケージに書かれた文言は驚くほど小さく読みにくい。
タバコに仕込まれたカプセルとは
ところで、日本は紙巻きタバコや加熱式タバコの種類が多い。加熱式タバコでは、それぞれの製品ごとにタバコ・スティックの種類も添加された香料(フレーバー)ごとに膨大だ。中には意図的にニコチンをやや少なくした製品もあるため、喫煙本数は必然的に多くなり、吸い方も深く長くなる傾向がある(※3)。
こうした添加物の一種にメンソール(ハッカ)がある。トウガラシに含まれるカプサイシン(Capsaicin)が暖かさを感じさせるように、ハッカやミントなどに含まれるメンソールは、冷たい感覚(冷感)を引き起こす。ヒトやマウスを含む哺乳類は第2染色体上の遺伝子にTRPM8という寒さを感知するレセプターを持っていて(※4)、メンソールはTRPM8に作用し、あたかも冷たさを感知したかのように錯覚させるという(※5)。「スッとする」あれだ。
タバコにメンソールを添加してきた歴史は長く、1933年にブラウン・アンド・ウィリアムソンというタバコ会社がクール(Kool、現在はインペリアル・ブランド、米国内以外ではブリティッシュ・アメリカン・タバコのブランド)という製品を発売してから一般に広まった。以降、キャメル(Camel)やセーラム(Salem)などでメンソールを添加した製品が現れ、今では加熱式タバコのスティックでも採用されている。
メンソール・タバコの規制については、すでにカナダのオンタリオ州が2017年1月、その販売を禁止している。その際、タバコ会社はフィルターに入れていたメンソール入りのカプセルを別売りにするなどして規制を逃れようとした(※6)。
このように、タバコ会社はあの手この手で規制を逃れようとする。別売りカプセルは陳腐で使い古された手だ。タバコのフィルターに香料などを入れたカプセルを仕込み、喫煙者がカプセルを指で押し潰すことで揮発性の高いフレーバーを新たに吸い込ませる製品はすでに紙巻きタバコから採用されていた。
アイコスやグロー(ブリティッシュアメリカンタバコ)の新たなタバコスティックでも同じような製品が出ている。アイコスのテリアのハイブリッドパールと銘打ったタバコスティックやグローのネオのダブルカプセルというタバコスティックだ。
これらのタバコスティック製品では、小さなビーズ玉のようなプラスチック球のカプセルに香料を入れ、フィルターに仕込んで喫煙者が吸う際に指でカプセルを押しつぶしてフレーバーを発生させる。
カプセルを潰すと出てくる有害物質
こうしたカプセルに入っている物質に有害性はないのだろうか。金属ブレード同様、これについても各国で研究が始められている。韓国などの研究グループが調べたところ、グローなどの加熱式タバコのスティックに入れられた芳香カプセルを潰すと、総VOC濃度(揮発性有機化合物、主にエチルプチレート=イチゴ、酢酸イソアミル=バナナ、リモネン=レモンなどの香料)が8倍も増えたという(※7)。
VOCは多種多様な化学物質の総称だが、同研究グループはこれらの物質による健康への悪影響はまだわかっていないという。とはいえ、特に2,3-ブタンジオン(ジアセチル、焼き芋や加齢臭)は韓国の規制濃度(0.05mg/1日)を超える量となった。2,3-ブタンジオンは、1990年代に米国ミズーリ州のポップコーン工場で閉塞性細気管支炎が多発したポップコーン肺や2019年に米国で問題になった電子タバコの肺障害(EVALI)の原因物質の一つと疑われている。
また、別の韓国の研究グループが、加熱式タバコのカプセルを押しつぶす前後で有害物質を比較したところ、やはり押しつぶすことで総VOCが増え、メントフラン(ペパーミント)とプレゴン(ペパーミントや樟脳に似た香料)が含まれ、タール量も増加したことが確認できたという(※8)。メントフランもプレゴンも毒性があり、発がん性が疑われており、オーストリアでは食品規制物質に指定されている。
米国やメキシコなどの研究グループが、グアテマラとメキシコで販売されているタバコ製品の31種類のカプセル(紙巻きタバコ、JT傘下のベンソン&ヘッジスも)を調べたところ、その半分以上のサンプルからメンソールや発がん性物質を検出したという(※9)。これは紙巻きタバコのカプセルでの調査研究だが、加熱式タバコに仕込まれたカプセルの内容物も基本的に同じと考えていい。
そもそもフィルター内のカプセルが有害性を高めるというのは、タバコ会社自身が認めていることでもある(※10)。だが、それを知りつつ、タバコ会社はタバコスティックにカプセルを仕込み続ける。
フィルター内のプラスチックカプセルは、タバコの吸い殻のポイ捨て問題にも関係する。写真でわかるように、これはまさにマイクロプラスチックそのものだ。
タバコ会社は将来の添加物規制を見据え、フィルターに有害物質を仕込む製法を用意して規制を逃れようとしている。一方、米国FDAは、タバコ製品のメンソール規制を強化しようとしているがタバコ産業の抵抗にあい、その試みは停滞中だ。日本ではタバコ製品は食品ではないため、添加物についてはほとんど野放し状態でもある。
アイコスに仕込まれた金属ブレードにせよ、フィルターに仕込まれたカプセルにせよ、タバコ会社はその危険性や有害性を十分に知りつつ、確信的に製造販売している。行政の規制がおよばないこのような状況は一刻も早く正していくべきだろう。
※1:Koki Higashi, et al., "Extraction of a metallic susceptor after accidental ingestion of the heated tobacco product TEREA TM: a case report" BMC Pediatrics, Vol.23, article number 452, 9, September, 2023
※2-1:Azzurra Schicchi, et al., "Ingestion of heated tobacco sticks containing a micro-blade by children: the importance of performing a radiograph" Clinical Toxicology, Vol.62, Issue2, 13, March, 2024
※2-2:Paola Angela Moro, et al., "Urgent health concerns: Clinical issues associated with accidental ingestion of new metal-blade-containing sticks for heated tobacco products" Tobacco Prevention & Cessation, Vol.10, doi:10.18332/tpc/190634, 12, July, 2024
※3:Michele Davigo, et al., "Impact of More Intense Smoking Parameters and Flavor Variety on Toxicant Levels in Emissions of a Heated Tobacco Product" NICOTINE & TOBACCO RESEARCH, Vol.26, Issue5, 571-579, 30, November, 2023
※4:Diana M. Bautista, et al., "The menthol receptor TRPM8 is the principal detector of environmental cold." nature, Vol.448, 204-208, 2007
※5:R Eccles, "Menthol and Related Cooling Compounds." Journal of Pharmacy and Pharmacology, Vol.46, Issue8, 618-630, 1994
※6:Robert Schwartz, et al., "Tobacco industry tactics in preparing for menthol ban." Tobacco Control, Vol.27, Issue5, doi.org/10.1136/tobaccocontrol-2017-053910, 2018
※7:Doe-Hwan Lim, et al., "The extent of harmful volatile organic compounds released when smoking after breaking the flavor capsules of heat-not-burn (HNB) cigarette products" Environmental Research, Vol.216, Pat1, 1, January, 2023
※8:Hyeon-Su Lim, et al., "Effect of Capsule Burst in Cigarette Filters on the Compound Composition of Mainstream Cigarette Smoke" toxics, 11(11), 901, 3, November, 2023
※9:Sphia Mus, et al., "Chemicals in Cigarette Flavor Capsules From Guatemala and Mexico" NICOTINE & TOBACCO RESEARCH, Vol.26, Issue5, 545-551, 5, May, 2024
※10:Yvette van der Eijk, et al., "Tobacco industry strategies for flavour capsule cigarettes: analysis of patents and internal industry documents" Tobacco Control, Vol.32, e53-e61, 5, October, 2021