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ファンは選手を殺せるか。「死ね」の書き込みに。

谷口輝世子スポーツライター
(写真:アフロ)

プロ野球楽天の公式ツイッターに「死ね」という書き込みがあった。8月18日の朝日新聞電子版が伝えている。成績不振の選手に向けられたものだ。

朝日新聞によると、楽天球団の対応は早く「書き込みを削除し、SNSガイドラインを改めて明記。投稿内容によっては投稿者の特定や警察への届け出を行う場合があると警告した」という。

私は、また、あの映画を思い出した。1997年に封切りされたロバート・デニーロ主演の「ザ・ファン」である。離婚、失業などで家族や友人を失った一人の熱狂的なファンが、自分自身の現実から逃れようと、メジャーリーグのスターに入れ込む。しかし、このファンはスターが活躍できるためにと次第に狂気的な行動を起こし、最後には「自分のために本塁打を打て」と脅迫するのだ。

ファンは多かれ、少なかれ、チームや選手と同一化する。だから、チームが勝てば自分もうれしいし、選手が活躍すれば、自分のことのように喜びを感じられる。応援しているチームが勝てない、贔屓の選手がここぞという場面でミスをすれば、自分もフラストレーションを感じる。それはむしろ当然のことで、こういった気持ちの結びつきがあるからこそ、ファンと呼べるのだと思う。

「ザ・ファン」は、熱狂的なファンがスター選手に過度に同一化した挙げ句、ファンである自分の思い通りのパフォーマンスをしろ、さもなければその選手の息子を殺すと、脅す。

ファンは、自分の期待した通りに選手がパフォーマンスしてくれるように願うことはできる。しかし、誰であれ、他人の心身を、自分の思うように支配的に操ることはできないのだ。

SNSへの匿名の誹謗中傷が問題になっているが、プロスポーツではリアルのスタジアムでも匿名状態になることがある。数万人もの人が集まる場所で、その群衆の一人になっているとき、人は匿名性を獲得する。誰が言ったか分からないのをよいことに、暴言、差別発言を発する輩がいる。米国では対戦相手の選手を貶めるために人種差別発言をするファンがいるのも事実だ。

試合の主催者は、ビジネスとしても、倫理的にも、過激な誹謗中傷や差別発言を黙認してはいけない。ごく一部の人の暴言で、大勢の人が不快な思いをして観戦しなければいけないのは、ビジネスとしてはとてもまずい。誹謗中傷や差別発言は放っておけば、同調する人が出てくることもある。

楽天の素早い対応は良かったと、私は思う。悲しいけれど、こういった暴言をこの世の中から完全になくすことは難しい。しかし、試合の主催者、スタジアムの所有者は、観客席に一定の秩序もたらすことができる。それはバーチャルな応援空間である公式SNSでも同じだろう。米国では人種差別をした観客を球場から追放する措置を取るようになってきている。

ファンは選手を殺せない。決してラクではない日々を生きているファンたちの糧になれるように、選手は生きてそのパフォーマンスを見せている。選手に呪いの言葉をかけることは、ファンである自分をも、呪うことではないか。

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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