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再婚しても「親にならない」という選択肢があると知って 小4男児殺害事件に寄せて

大塚玲子ライター
「子どもから親じゃないと言われた」は、定形外家族では「あるある」の話です(写真:アフロ)

 さいたま市の集合住宅で9歳の男の子が殺害されてしまった事件では、母親の再婚相手の男性が「本当の親じゃないくせに」と言われたことに腹を立てて、犯行に及んだといいます。

 「子どもから、親じゃないくせにと言われた」という話は、定形外家族――いわゆる「ふつう」の家族と異なる家族では、大変よく聞く「あるある」話のひとつです。

 ステップファミリー(*)や里親・養親家庭など中途養育の家庭では、子どもからすると赤の他人である大人が急に「親」として生活に口をはさみ、影響を及ぼしてくるわけですから、「親でもないくせに」と反発するのは当たり前のことです。

 再婚家庭の継親からは「自分も言われたことがある」、実親からは「夫(妻)が言われた」などとよく聞きますし、子どもの側からも「私も昔、言ったことある!」などという話をよく聞きます。ですから、親はそう気にする必要はないと思うのです。

 しかし、継親はたびたび「親にならなければならない」と思いこんでおり、「親じゃないくせに」と言われると、ショックを受けてしまうことがあります。今回逮捕された「父親」も、同様だったのかもしれません。

 再婚家庭の大きな問題のひとつは、まさにその「親にならねば」という当事者や社会の思い込みにあります。「親にならねば」というプレッシャーから、継親が子どもに厳しく当たってしまうケースはよくあります。

 ステップファミリーの支援をするSAJ(Stepfamily Association Japan)代表の緒倉珠巳さんは、このように話します。

 「この継父が実際にどう考えていたかはわかりませんが、子どもから言われた『本当の親じゃない』という言葉が、感情の暴発を呼んだのはあるでしょう。一般的に、子どもがいる相手と結婚した人は、子どもの『親』になるべきと思われがちですが、そんなことはありません。近くにいる、信頼できる大人として子どもとかかわれば十分です。

 たとえば、私の知人で10歳以上年上の妻と結婚したある夫は、子どもたちに対して最初から『(親ではなく)保護者だ』というスタンスで接し、穏やかな家庭を築いています。再婚する人たちには、『親以外の選択肢』があることを、もっと知ってほしいです」

 中途養育を支援するA-Step(エーステップ)代表の町田彰秀さんも、「再婚家庭や里親家庭などに対し、一般家庭との違いや注意点を知ってもらうため、国や行政が予算をつけて、教育プログラムを用意する必要がある」と指摘します。

 なお、血縁関係がない、あるいは中途養育の親子であっても、いわゆる「ふつう」の親子と同様かそれ以上にいい関係を築くケースも少なからずあり、筆者もそういう事例をいくつも知っています。

 ただ、親子それぞれ、性格や相性等々違いがあります。時間や努力だけでいい関係を築けるとは限らないということも、念頭においたほうがいいように思います。

*シングルでも子育てしやすい社会を

 今回の事件について、SNSなどでは「再婚した母親が悪い」とする意見も見られますが、いまこの社会で、一人で子どもを育てるのはとても大変なことです。両親ふたりでやっとまわしている、というご家庭も多いのではないでしょうか。

 もしひとり親が再婚すべきでないというなら、まずはもっと子育てしやすい社会にする必要があるでしょう。シングルでも子育てしやすい社会になれば、誰もが子育てしやすくなり、子どもをもとうと考える人は今よりずっと増えると思います。

 「母親には稼ぎがあったのに、なぜ無職の男性と再婚したのか」という声も見かけますが、シングルファザーが専業主婦と再婚するのと何ら変わりありません。稼ぎと家事育児の全てをひとりでこなすのは困難ですから、結婚相手に家事育児を分担してもらおうというのは、突飛な発想ではないでしょう。

 亡くなった男の子のご冥福をお祈りするとともに、二度とこのような事件が起こらないことを、切に願います。

  • * 親の再婚(あるいは親の新しいパートナーと生活)を経験する子どものいる家庭
ライター

主なテーマは「保護者と学校の関係(PTA等)」と「いろんな形の家族」。著書は『さよなら、理不尽PTA!』『ルポ 定形外家族』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』ほか。共著は『子どもの人権をまもるために』など。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。ohj@ニフティドットコム

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