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鉄道会社が「撮り鉄」集めて撮影会をやってみたらこうなりました。

鳥塚亮大井川鐵道代表取締役社長。前えちごトキめき鉄道社長
えちごトキめき鉄道能生駅で行われた観桜会の一コマ(4月16日 撮影 吉田昭宏氏)

昨今何かと評判が悪い「撮り鉄」ですが、筆者が社長を務めるえちごトキめき鉄道では、その「撮り鉄」を対象とした撮影会を新潟県糸魚川市の能生(のう)駅構内で行ってみました。

「撮り鉄」とは鉄道の写真を撮ることを趣味としている人々を指す言葉で、同様に乗って楽しむ人を「乗り鉄」、走行音などを録音して楽しむ人を「音鉄」、列車に乗って沿線のおいしいお酒を楽しむ人を「呑み鉄」などという言葉が最近聞かれるようになりましたが、その中でも「撮り鉄」はなかなか評判が悪く、鉄道会社的にも「立入禁止区域に無断で立ち入る。」「ホーム上で危険な行為が見られる。」など、悪いニュースが飛び交っています。

でも、もともとニュースというのは、めったにないことが起きてしまったからニュースになるわけで、そう考えるとマナー違反をする人というのはごく一部の人たちだと筆者は考えていて、そういうごく一部の人の迷惑行為で、写真撮影をする多くの「撮り鉄」の皆様が白い目で見られたり、後ろ指を指されるようなことは、本来の姿ではないと思っています。

まして、新潟県に居てわかることは、写真を撮るためにわざわざ遠くからいらしていただけるたいへん情熱的な方々であるということで、そういう皆様方に対して、地域の美しいシーンを撮影していただいたら、地域の宣伝にもなるし、何らかの形で地域に貢献していただけることにもなるのではないかと考えまして、えちごトキめき鉄道では日本海ひすいラインの能生駅で、撮り鉄の皆様方に向けた撮影会を開催してみました。

入場料は190円

大手の鉄道会社は数万円という高額な入場料金を取って撮影会を行っているところもあるようですが、えちごトキめき鉄道では、わざわざこのために遠くからいらしていただく皆様への感謝の気持ちを込めまして、入場料は駅構内へ立ち入る入場券の料金190円で開催いたしました。

開催日は4月2・3日。

事前に桜の開花予測から、多分このあたりで桜が満開になるのではないかと判断して、4月の第一週目の2・3日としました。

撮影会といっても、地域鉄道会社は資金力がありませんから特に大掛かりな仕掛けはありません。

国鉄形を使用する昭和の観光急行列車を、ふだんは列車が入線しない側線に入れて桜並木の横で一旦停止して皆様方に撮影していただくというただそれだけのことです。

4月2日。

能生駅へ入る観光急行列車の進路です。(運転席から撮影)

通常は本線上を真っすぐに進入しますが、この日は左に分岐していきます。

ところが、2日は線路際の桜並木が全く開花していませんでした。

4月3日の様子です。

列車が入ってきて一旦停止するシーンですが、桜の花はありませんでした。

急遽 延長決定

これでは観桜会になりませんので、急遽延長を決定し、翌週の9・10日にも同じ場所で開催することとしました。

桜の花は7日頃からぽつりぽつりと咲き始めました。

撮影 倉辻公美さん 
撮影 倉辻公美さん 

4月10日の様子です。

やっと3分咲きといったところでしょうか。

まだまだ満開には程遠い状況です。

再度 延長決定

こんな状況ですから、社内で打ち合わせをして再度延長開催することを決定し、昨日、今日の16・17日に再チャレンジいたしました。

鉄道会社というのはなかなか小回りが利かないと思われている方も多くいらっしゃると思いますが、大手の会社は知りませんが、えちごトキめき鉄道の場合は、こういう判断は迅速に行うことができまして、3週連続の観桜会となりました。

ところが、先週末に3分咲きだった桜は週中で見ごろを迎え、昨日の時点ではこのようにすでに散り始めていました。

自然相手ではなかなかうまく行かないものですね。

上記3枚 撮影 吉田昭宏氏
上記3枚 撮影 吉田昭宏氏

それでも昨日は東京、大阪などの遠方からの皆様を含め、約60名の方がいらしていただきました。

本日4月17日 最終日

そして本日最終日の様子です。

晴天に恵まれ、桜の花びらの絨毯の能生駅構内を観光列車「雪月花」が通り過ぎていきます。

お目当ての観光急行列車の到着時点で約90名の方にご来場いただきました。

「さくら」のヘッドマークを付けたピンクの電車に桜並木。

製造から50年以上が経過し、すでに日本全国でもえちごトキめき鉄道だけとなった貴重な電車をお目当てに、新潟県といっても県庁所在地から3時間もかかる辺境の地に、これだけのお客様に集まっていただきました。

列車到着の前にご来場いただきました撮り鉄の皆様方と記念撮影。

会場は和やかな雰囲気に包まれました。

というのも、電車をホームの手前で一旦停止させ、交代制で順番に写真撮影できるような仕掛けを作ることで、我先にというような殺伐とした雰囲気ではなく、後からいらしていただいた方でもこのような写真を撮ることができるような心理的な余裕を持つことができたからでしょう。

遠方からいらしていただいた皆様にもご満足いただけたのではないかと思います。

それにしても延長に次ぐ延長で3週にわたる撮影会の開催となりましたが、凝りもせずに何度も足を運んでいただいた方も一人二人ではありません。

3週のトータルで300人以上の方が、この地域には何の用事もないのに、わざわざこのためだけに遠くから何度も足を運んでいただける。それも大きな宣伝をすることなく、インターネットの告知のみですから、鉄道ファンが地域に落とす経済効果や発信力も侮れないのではないでしょうか。

「撮り鉄」に関してはいつもあまり良いイメージのニュースがありませんが、そういうニュースになるような悪い撮り鉄はごく一部の人たちであり、ほとんどすべての撮り鉄さんたちはきちんとマナーを守って行動し、皆様笑顔でお帰りになられたということを、本日は敢えてニュースにしてみました。

そして、皆様が撮影された自慢の一枚が、インスタ等で拡散することで、新潟県糸魚川市の能生駅の存在を一人でも多くの方に知っていただくことができれば、ローカル鉄道が地域貢献のお手伝いをすることができるのではないかと筆者は考えます。

鉄道にはいろいろな利用方法があります。

目的地へ行くという本来の利用はもちろんですが、「今あるものを上手に活用して地域を元気にしていく。」という意味で、地域鉄道にはこういう利用方法もありますので、皆様の地域の鉄道も上手に利用していただきたいと考えております。

全国のローカル鉄道のご支援をよろしくお願いいたします。

※本文中に使用した写真のうちお断りの無いものは筆者撮影です。

大井川鐵道代表取締役社長。前えちごトキめき鉄道社長

1960年生まれ東京都出身。元ブリティッシュエアウエイズ旅客運航部長。2009年に公募で千葉県のいすみ鉄道代表取締役社長に就任。ムーミン列車、昭和の国鉄形ディーゼルカー、訓練費用自己負担による自社養成乗務員運転士の募集、レストラン列車などをプロデュースし、いすみ鉄道を一躍全国区にし、地方創生に貢献。2019年9月、新潟県の第3セクターえちごトキめき鉄道社長、2024年6月、大井川鐵道社長。NPO法人「おいしいローカル線をつくる会」顧問。地元の鉄道を上手に使って観光客を呼び込むなど、地域の皆様方とともに地域全体が浮上する取り組みを進めています。

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