混戦B2上位争いで要注目 仙台89ERSの東北楽天出身新社長が見せている「渋い」取り組み
3季目に入ったプロバスケのBリーグは、現在2018-19シーズンの中盤を迎えている。昨季まではレベル、演出など様々な部分でB1とB2の“格差”感じることが多かった。しかし1月末に仙台で開催された仙台89ERS(エイティナイナーズ)と広島ドラゴンフライズの2連戦はB1とその差を感じない好ゲームだった。
B2東地区、西地区の首位争いは大接戦
B2は3地区に6チームずつの編成で、今季の上位争いは“超”の付く混戦だ。ナイナーズが属する東地区の三強はこうなっている。
★東地区
1位:群馬クレインサンダーズ 25勝10敗
2位:茨城ロボッツ 23勝12敗
3位:仙台89ERS 23勝12敗
中地区、西地区はこうだ。
★中地区
1位:信州ブレイブウォリアーズ 28勝7敗
2位:Fイーグルス名古屋 22勝13敗
3位:西宮ストークス 17勝18敗
★西地区
1位:熊本ヴォルターズ 25勝10敗
2位:広島ドラゴンフライズ 25勝10敗
3位:島根スサノオマジック 25勝10敗
※19年1月末時点
4月末から5月にかけて開催されるプレーオフには、各地区の1位と、ワイルドカード(最も勝率の高い2位)の計4チームが参加する。昇格にはB1ライセンスも必要だが、最大3チームがB1に昇格する制度設計だ。
得失点差もプレーオフ進出の決め手に
B1とB2の順位は(1)勝率(2)当該クラブ間で対戦した全ゲームの勝率(3)当該クラブ間で対戦した全ゲームの得失点差(4)当該クラブ間で対戦した全ゲームの平均得点という優先順位で決まる。全体順位を見ると28勝の信州が一応抜けていて、25勝に4チーム、23勝に2チームが並んでいる。これほどの微差ならば、レギュラーシーズン残り25試合の入れ替わりも当然あり得る。
26日のナイナーズ戦後に、広島の尺野将太ヘッドコーチ(HC)は両クラブの得失点差に言及していた。ナイナーズと広島がワイルドカードの「残り1枠」を争う可能性も当然あり、両チームが1勝1敗で並んだらプレーオフ進出は当該チーム同士の得失点差で決まる。1月の段階から既にそういう「計算」「駆け引き」が始まっている。
仙台は「まだまだ伸びしろがある」
ナイナーズは今季から桶谷大HCが就任し、外国籍選手も含めて選手の多くが入れ替わった。チーム作りの成熟度は同地区の群馬、茨城に比べてどうしても低い。そんな状況と「東地区3位」という立ち位置について、桶谷HCはこう述べていた。
「どっちかというと、群馬と茨城の方がしんどいかなと思っています。風当たりがきついのは彼らで、僕たちは後ろに隠れられている。最後の最後、彼らのスタミナが切れたときに抜けたらベストかなと思っている。今までディフェンスをしっかり整えようとやっていたけれど、これからプラスαでオフェンスでも相手にしっかりパンチを入れられるチームになっていく。まだまだ伸びしろがあるので楽しみです」
ナイナーズは今季から経営体制が一新され、コート外でも新たなチャレンジが始まっている。27日(日)の第2戦は、ゼビオアリーナ仙台に4,207名の観客が集まった。
ここまでのホーム戦18試合を見ると、1試合当たりの平均入場者数が2,799人。昨季はもちろん、B1を戦っていた一昨季も上回る数値で、今季のB2最多だ。平日開催が増えた影響で観客数を減らすクラブも多い中、健闘と言っていい。
「勝ちが人気につながっていく」
39歳の渡辺太郎新社長は東北楽天ゴールデンイーグルスの球団職員として、球団の立ち上げと成長を支えた人物だ。彼はチケットセールスについて独自の考えを持っている。
「チームが勝つために、そこに投資をしている。売り上げはもうこのレベルでいいと思っています。要は勝ちが人気につながっていく。それが資金につながって、強化費になるという、そのサイクルを回そうと考えている。満員に近いアリーナで、声援が選手の後押しをして、それで勝利を実際にファンの前で見せないと、人気も出てこない」
背景には楽天時代の2013年、日本シリーズ制覇で得た成功体験がある。結果と関係なくお客を増やせれば経営としては理想的だが、「チームとファンが勝利を共有する」ことほど効果的なプロモーションはない。それはそれで現実的な発想だ。
もちろん「何の狙いもなく、無料チケットをばら撒く」のは良いプロモーションでない。しかし、はっきり意味づけして「お得な理由」を納得してもらった上で足を運んでもらえば、それは投資となり得る。ナイナーズは一番安い席種の当日券が2,700円で、野球やサッカーに比べて単価が高く、割り引く余地もある。
バスケでは難しかった「空中戦」
1月26日の広島戦はナイナーズが勝利し、試合後には「勝割チケット」が発売された。当日のアリーナに足を運んでいたファン、ブースターが1000円で香川ファイブアローズ戦(2月9日・10日/カメイアリーナ仙台)の観戦引換券を買える企画だ。実はこれで試合後に約150枚のチケットが売れている。26日は降雪もあり入場者数が2,012名に止まったことを考えると、かなりの歩留まりだ。
ただし1試合平均2,799名というここまでの来場者数は、渡辺社長の想定より少なかった。今季のナイナーズはカメイアリーナ仙台の改修工事によって、ゼビオアリーナ仙台の使用頻度が増えている。ゼビオは長町駅から徒歩4分で、近代的な大型アリーナ。利用料は高くなるが、カメイより「お客を呼びやすい」施設だ。今季の残り試合は全てカメイ開催となるため、最終的な平均観客数はこの数字を下回る可能性が高い。
渡辺社長は明かす。
「目標はアベレージ3千人。少なくともゼビオアリーナでは3千人を死守したいと思っていました。バスケのマーケティングは初めてで、こうすれば成果が出ると思っていたことがそうならなかった」
渡辺は市立仙台高の主将を務め、名将・佐藤久夫コーチの指導を受けたバスケ人だが、スポーツビジネスに関しては野球育ちだ。プロ野球は認知度が高く、単純化して言うとテレビ番組出演やCMの出稿、SNS戦略といった「空中戦」が来場者増につながりやすい。しかしナイナーズはコアファンへの依存度が高く、空中戦がライトファンまで想定通りに浸透しなかったのだという。一方で企業や学校などの団体にアプローチし、優待などを用意して足を運んでもらう「地上戦」は、泥臭いが手堅く売り上げにつながる。
「安く勝つ」というロマンも
現場の強化に関してもB1昇格を視野に入れつつ、地に足の着いた状態を保っている。今季の人件費は1億5千万円弱。広島が29日に、NBAで500試合以上のキャリアを持つカール・ランドリーの獲得を発表して話題になったが、ナイナーズに追加補強の予定はない。B2には年間2億円近い人件費を費やしているクラブがあることを考えれば、ナイナーズの規模感は「上の下」程度だ。
渡辺社長は「楽天でいろいろ本当にチャレンジをさせてもらって、その経験値でやれているところは多い」と口にする。例えば今年度のグッズの売り上げは昨年度の1500万円から2倍ペース。飲食も好調で経営に明るい兆しはある。一方でナイナーズは昨季の年間売上高が3億3,000万円程度で、スポンサー収入は新体制への様子見もあって微増程度。目標の4億円到達は決して容易でない。そういう背景もあり渡辺社長は「安く勝ちたい。それがロマンだと思っている」とも述べる。
スポーツ、芸能のようなエンターテイメントビジネスは良くも悪くもハッタリの効いた経営者が目立つ。「自分たちはこんなにすごい」とグイグイ迫ってくるタイプの人が多い。そう考えると渡辺社長は異質なタイプかもしれない。彼も取るべきリスクは取っているが、地に足の着いたアクションを打ち、冷めた現状認識も持っている。
ただどんなビジネスであろうと持続的な成長を果たす方法は挑戦と評価、改善のサイクルしかない。ナイナーズはそんな正攻法で、Bリーグの頂きを目指そうとしている。