産経「秋田空港、救難機以外の自衛隊機を着陸拒否」は誤報
【GoHooレポート6月12日】産経新聞は5月22日、ニュースサイト「産経ニュース」に「六魂祭のブルーインパルス飛行縮小 秋田空港使えず」と見出しをつけた記事を掲載した。同日付朝刊(東北版)にも掲載された。その中で「秋田空港が救難機以外の自衛隊機の着陸を拒否している」「県と防衛省の協定で救難機以外は使えない」などと指摘し、秋田県と防衛省の協定があるため秋田空港を発着に利用できず、東北六魂祭で予定されていたブルーインパルスの展示飛行の規模が「縮小」されたかのように報道。しかし、協定が明確に禁止しているのは戦闘機の訓練の使用だけで、これまでにも他の自衛隊機が秋田空港を使用した実績はあった。そもそも自衛隊側はブルーインパルスの展示飛行で秋田空港を利用する計画もなかった。日本報道検証機構が秋田空港を管理している秋田県や航空自衛隊幕僚監部広報室などに取材して確認した(詳細はGoHooサイトも参照)。
秋田県は1984(昭和59)年10月、防衛庁(当時)と「航空自衛隊航空救難団秋田救難隊の設置運用に関する協定」を締結。当機構は協定とその了解事項の全文を入手した。この協定には「防衛庁が秋田救難隊に配備する航空機は、救難用航空機に限る」との規定があるが、これは「秋田救難隊に配備する航空機」以外の自衛隊機が一時的に使用する場合を対象にしたものではなかった。また、協定には「防衛庁は・・・同空港を戦闘機の訓練に使用しないものとする」との規定もあるが、「戦闘機の訓練」以外で自衛隊機が使用することを制限する規定もなかった。
県総務課によると、これまでにも秋田空港に配備されている秋田救難隊以外の自衛隊機が、救難以外の目的で同空港を使用したことがあった。具体的には、2009年4月ごろ、北朝鮮が「人工衛星」と称する飛翔体の発射準備を進め、地対空誘導弾パトリオット(PAC3)部隊が秋田に配備された際、陸自のヘリが秋田空港を使用したことがある。協定上、戦闘機の訓練では使用できないことになっているが、それ以外の目的で救難隊以外の自衛隊機が使用する場合は、そのつど個別に協議、調整しているという。実際にブルーインパルスの発着の申し入れがあった場合に使用を認めたかどうかついては「仮定の話になるため、答えられない」とした。
空自幕僚監部広報室の担当者も、救難隊以外の自衛隊機が使用する場合は秋田空港側と個別に協議、調整している事実を認めた。過去に空自所属の政府専用機が訓練で使用したこともあるという。秋田空港が実際に救難機以外の自衛隊機の使用を受け入れた実績があることから、「秋田空港では県と防衛省の協定で救難機以外の自衛隊機は使えない」という産経の報道は事実誤認といえる。ただ、空自の一部関係者の間に「秋田空港では救難機以外は使えない」という誤解があった可能性はある。
また、産経の記事には、秋田空港がブルーインパルスの着陸を拒否したかのような印象を与える記述もあったが、県総務課の担当者は当機構の取材に「秋田空港に確認したところ、今回、防衛省・自衛隊側からブルーインパルスの着陸について打診を受けた事実はなかった」と説明。空自幕僚監部の広報担当者も申し入れた事実はないことを認めた。今回の展示飛行を申請した自衛隊秋田地方本部の広報担当者も、「飛行計画は最初の計画から(ブルーインパルスが設置されている宮城県)松島基地の発着を計画しており、秋田空港の発着は想定していなかった。当然使用の申し入れもしていないし、飛行計画の『縮小』という事実もない」と答えた。
産経新聞は当機構の質問には回答せず、サイトの記事も訂正・削除されなかった。ただ、秋田県知事が6月8日の記者会見で、救難機以外の自衛隊機であっても有事の際に秋田空港を使用できるとの見解を示したことから、続報でこの発言を紹介。この記事でも「県と防衛省の協定で救難用以外の自衛隊機は秋田空港を使えない」との誤報を繰り返している。続報記事は「了解事項」が「自衛隊機の空港使用を救難機や救難業務用の輸送機、連絡機に限定している」と指摘しているが、実際は「救難機業務」に関する規定となっている。
- 産経新聞が6月8日付続報記事でも誤報を繰り返していることなどを加筆しました。(2015/6/12 20:50)