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ペットボトル茶の台頭だけではなかった お茶専門店の苦悩と挑戦

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
有限会社おづつみ園の茶畑でお茶摘みの方法を説明する社長の尾堤宏さん(筆者撮影)

筆者が2015年から主宰している「食品ロス削減検討チーム川口」のメンバー有志一同で、埼玉県春日部市でお茶専門店とカフェを経営する有限会社おづつみ園の代表取締役社長、尾堤(おづつみ)宏さんを訪問し、食品ロス削減の取り組みについて学ぶ機会を頂いた。

お茶摘みの前に頂いた「お茶々飯(おちゃちゃめし)」。ご飯や天ぷらには茶葉の粉が使われており、味噌汁には新茶の葉っぱが浮かべられていた(筆者撮影)
お茶摘みの前に頂いた「お茶々飯(おちゃちゃめし)」。ご飯や天ぷらには茶葉の粉が使われており、味噌汁には新茶の葉っぱが浮かべられていた(筆者撮影)

おづつみ園は、経済産業大臣賞「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞の第一回大会で審査委員会特別賞を受賞している会社だ。筆者が食品ロス削減に取り組んでいることをご存知の、株式会社はぴっくの代表取締役、眞喜屋実行(まきや・さねゆき)さんが、おづつみ園を紹介して下さった。

ちょうど新茶の茶摘み体験ができるということで、お茶についての講義を受け、茶摘み体験を行ない、お茶の加工工場を見学した。

おづつみ園の水出し茶(筆者撮影)
おづつみ園の水出し茶(筆者撮影)

毎日出る茶殻はコンポストに、半端な野菜はカフェのスープにして食品ロス削減

おづつみ園では、定期的に発生する茶殻(ちゃがら)は、ゴミにせず、コンポストにして肥料として活用している。全国の自治体のうち、いくつかの自治体では、生ゴミを乾燥させたり肥料にしたりする機械を購入する場合、申請して認可されれば、半額程度の助成金を得ることができる。尾堤さんは、以前は廃棄していたそうだが、2017年1月、知人の紹介で筆者に会ってから、コンポストにするようにしているそうだ。

定期的に発生する茶殻はコンポストにして活用。機械は市の助成金で購入(筆者撮影)
定期的に発生する茶殻はコンポストにして活用。機械は市の助成金で購入(筆者撮影)

また、おづつみ園のお茶専門店に併設しているカフェ「はなあゆ」では、ランチセットとして提供するスープに、ランチのおかずを作るのに半端に余った野菜などを捨てずに活用し、食品ロスの発生を抑えている。

おづつみ園が経営するカフェ「はなあゆ」のランチセット。左手にあるスープには、余った野菜などが活用されている(筆者撮影)
おづつみ園が経営するカフェ「はなあゆ」のランチセット。左手にあるスープには、余った野菜などが活用されている(筆者撮影)

大企業が製造するペットボトル茶の茶殻もリサイクルして活用

おづつみ園は、従業員が24名の会社(平成20年9月現在、会社HPによる)だ。おづつみ園が行なうような、茶殻のリサイクルは、ペットボトル茶を製造する大企業でも取り組み始めている。

コカ・コーライーストジャパン蔵王工場の『爽健美茶(そうけんびちゃ)』の製造過程で出る茶殻は、以前、産業廃棄物として、工場のある地域外に排出されていた。そのような「未利用」の資源を有効活用するために、茶殻を飼料化する研究が、行政(宮城県蔵王市)も含めて2008年に始まった。同じような悩みを抱えていた、蔵王酪農センターの『蔵王チーズ』の製造過程で出るチーズホエイ(乳清)についても同時に活用のための研究がスタートした。

コカ・コーライーストジャパン蔵王工場と蔵王酪農センター、宮城県蔵王町の取り組み(日本有機資源協会「第4回 食品産業もったいない大賞」表彰 事例集より引用)
コカ・コーライーストジャパン蔵王工場と蔵王酪農センター、宮城県蔵王町の取り組み(日本有機資源協会「第4回 食品産業もったいない大賞」表彰 事例集より引用)

その後、茶殻にチーズホエイを加えて発酵混合飼料化したところ、茶殻だけを使っていた時には課題だった、牛の嗜好性や栄養価が大幅に改善され、整腸作用の効果も見られた。その後も研究を重ね、2012年に事業化するに至った。この飼料(エコフィード)を『乳茶餌(ニューチャージ)』と命名し、牛の健康と飼料コスト低減を目的にし、酪農家や畜産農家での利用促進を図っている。この取り組みは、農林水産省 第4回もったいない大賞の農林水産省食料産業局長賞を受賞した(一般社団法人 日本有機資源協会 「第4回 食品産業もったいない大賞」表彰事例集より引用)。

伸びるペットボトル入り茶系飲料市場

一般社団法人全国清涼飲料連合会の統計資料、清涼飲料水品目別生産量推移(1998年~2017年)によれば、緑茶飲料の生産量は2005年のピークの後、いったん下がったものの、2011年から2012年を境にして再び上昇傾向となり、2017年時点では2005年のピーク時を抜いている。

テレビやオンラインメディアで映る映像や写真でも、ペットボトル入りのお茶や水が会議参加者全員に配られているのを目にする。急須のない家もあると聞く。地方に行けば、田植えや農作業の合間などにお茶を入れるのはまだまだ当たり前だが、茶葉を急須に入れて飲む習慣が、以前に比べて廃れてきている。

参加した「食品ロス削減検討チーム川口」のメンバー(筆者撮影)
参加した「食品ロス削減検討チーム川口」のメンバー(筆者撮影)

手間と時間をかけて加工される茶葉

尾堤さんに、茶葉の加工工場を案内して頂いた。

今回は、手で茶の葉を摘む方法だったが、二人で機械を操作し、一気に摘む方法もあるという。それが、この機械だ。

二人で両端を持ち、茶畑の中で茶葉を刈り取っていくための機械と尾堤さん(筆者撮影)
二人で両端を持ち、茶畑の中で茶葉を刈り取っていくための機械と尾堤さん(筆者撮影)

その後、摘まれた茶葉は、ベルトコンベアで運ばれる。

茶葉がベルトコンベアで運ばれる
茶葉がベルトコンベアで運ばれる

ベルトコンベアで運ばれた茶葉は、この機械に入る。葉は蒸してから冷却される。

茶葉の加工機械(筆者撮影)
茶葉の加工機械(筆者撮影)

しっとりしていた茶葉は、粗揉(そじゅう)といって、熱風を当てながら葉を揉んでいくことで、少しずつ水分が飛ばされていく。

茶葉の加工機械(筆者撮影)
茶葉の加工機械(筆者撮影)

こちらが揉捻(じゅうねん)と呼ばれる作業。葉に力を加えながら揉む(もむ)ことで、水分を均一にしていく。

だいぶ水分が抜けてきた。

水分が飛ばされた茶葉(筆者撮影)
水分が飛ばされた茶葉(筆者撮影)

さらに熱風を当てながら茶葉を揉んで、重量や水分が減ってくる。

茶葉の加工機械(筆者撮影)
茶葉の加工機械(筆者撮影)

茶葉の加工は、摘んでから蒸して冷却し、揉み、ヨレを作り、熱風をかけて乾燥させ・・・といったように、多くの工程を数時間かけて行なわれる。

茶葉の加工機械(筆者撮影)
茶葉の加工機械(筆者撮影)

最後に15度程度に保った保管庫に運ばれる。

15度程度に保たれた保管庫(筆者撮影)
15度程度に保たれた保管庫(筆者撮影)

ここで終わりかと思いきや、この後もまだ別の工場での加工工程を経るのだという。

天候の予測できない変化 お茶摘みの人たちが、毎年、右往左往する

この加工工程だけ見ても、かなりの労働力と、電力などのエネルギーを使うのだとわかった。尾堤さんによれば、さらなる苦労があるという。

それは、全国の茶どころで買い付けている新茶のとれる時期が毎年異なり、しかも予測が難しいことだ。2017年は、寒かったため、4月中旬に鹿児島へ行ったところ、一週間滞在しても茶葉の買い付けができなかったという。そこで、いったん埼玉県春日部市に戻り、再度、日程を組み直して、4月下旬から5月にかけて、鹿児島へ飛行機で飛んだそうだ。

かと思えば、2018年は、首都圏では3月に桜の開花が終わってしまうくらい、暖かかった。そのため、4月上旬に鹿児島へ行ったところ、すでに茶葉は無く、買い付けできなかったのだそうだ。

ちょうどこの日は筆者が取材を受けているテレビ局のクルーが撮影に来ており、彼らにも紹介させて頂いた、日本気象協会による需要予測精度の向上と食品ロス削減の取り組みについて、尾堤さんにお話ししてみたが、「できるかどうかはわからない」とのことだった。

おづつみ園が経営するカフェ「はなあゆ」のお茶を使ったデザート(筆者撮影)
おづつみ園が経営するカフェ「はなあゆ」のお茶を使ったデザート(筆者撮影)

モノではなく、コト消費を目指す

尾堤さんは、経営するカフェ「はなあゆ」で、抹茶を使ったビールの開発を進めている。他にもお茶を使ったデザートや、抹茶のラテ、そして今回のようなお茶摘み体験やお茶の講座など、「モノを売るのではなく、コト(体験など)を売る」ことを目指している。

還暦を前にした尾堤さんは、次世代への事業継承も念頭に入れつつ、「まだまだ」と、様々なチャレンジを続けている。

カフェ「はなあゆ」で頂いたランチと拙著『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』。余った野菜などが上手に美味しく活用されていた(筆者撮影)
カフェ「はなあゆ」で頂いたランチと拙著『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』。余った野菜などが上手に美味しく活用されていた(筆者撮影)

お茶の賞味期間は6ヶ月よりも長い

尾堤さんが講師となったお茶の講座では、「お茶の賞味期限は6ヶ月と決められていますが、本当は、それよりもっと長く飲むことができます」という言葉があった。賞味期限という数字ではなく、自分の感覚や五感を信じて飲むこと、食べることの大切さが参加者に語られた。

おづつみ園で頂いたお茶は、驚くほど香りが高く、「食品ロス削減検討チーム川口」の参加者と、「すごく美味しい!」と語り合った。ペットボトル入りのお茶に比べて、香り成分は、急須で淹れるお茶の方が断然高いのだそうだ。

参加した「食品ロス削減検討チーム川口」のメンバー(筆者撮影)
参加した「食品ロス削減検討チーム川口」のメンバー(筆者撮影)

ペットボトル入り飲料の便利さの恩恵に預かりながらも、急須で淹れるお茶の良さも味わっていきたい。

おづつみ園のように、茶殻をコンポストにしたり、店で提供する食品に工夫して食品ロスを減らしたりする取り組みが、全国の茶葉専門店に広がっていくことを願っている。

参考記事:

なぜ食品業界は日本気象協会に仕事を依頼するのか 

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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