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ブラント・ビョーク・トリオ2024年10月来日。カリフォルニア砂漠を突っ走るデザート・ロックンロール

山崎智之音楽ライター
Brant Bjork live(写真:REX/アフロ)

ブラント・ビョーク・トリオが2024年10月、日本公演を行う。

カイアスやフー・マンチュー、ファットソー・ジェットソンなど、カリフォルニア・デザート(砂漠)を代表するヘヴィ・ロック・バンドで活動してきたブラントが自ら率いるプロジェクト。数多くのリーダー・アルバムを発表してきた彼のソロ・キャリアを網羅するライヴは、デザート・ロックの歴史を集約したものだといって過言でない。最新アルバム『Once Upon A Time In The Desert』を引っ提げてのステージ、どんな曲がプレイされるか?期待が高まる。

ブラントがギター&ヴォーカルでフロントを務めるのに加え、ベースで“ゴッドファーザー・オブ・デザート・ロック”の異名を取るマリオ・ラーリが同行することもファンを騒然とさせている。日本列島にカリフォルニアの砂塵が吹き荒れるツアーは誇張でなく“奇跡”といえるものだ。

日本上陸を目前にして、ブラントがツアーに向けた展望、そしてデザート・ロック神話の数々を語った。

Brant Bjork Trio Japan tour flyer / courtesy of 西横浜EL PUENTE
Brant Bjork Trio Japan tour flyer / courtesy of 西横浜EL PUENTE

<変化球は投げず、ロックとグルーヴとジャムを全身で感じるライヴ>

●2010年2月にC.J.ラモーン、ダニエル・レイとのトリオで来日公演を行いましたが、それ以来の日本ですか?

そうだな。その前にフー・マンチューで来ているから(2000年4月)これが3回目だ。とてもエキサイトしているよ。前回はライヴも楽しかったけど、街を歩き回ることが出来て、マジックのような経験だった。C.J.とはアメリカの南西部や東海岸で数公演、ヨーロッパ、南米を9ヶ月回って、日本でのショーがツアーの最終公演だったんだ。ガキの頃、ラモーンズは俺にとってすべてだった。ザ・ビートルズとザ・ローリング・ストーンズを合わせたぐらいビッグな存在だったんだ。だからC.J.と同じステージに立つなんて夢のようだった。ダニエルもラモーンズの作品を何枚もプロデュースしてきた人だし、一緒に出来て嬉しかったよ。

●今回の日本公演は『Once Upon A Time In The Desert』に伴うツアーとなりますが、新曲中心のショーになるでしょうか?

幸か不幸か俺にはヒット曲なんてものがないから、絶対にやらなければならない“お約束”の曲はないんだ。俺がアルバムを作るのは、曲を書いてレコーディングして、それをステージで演奏するのが好きだからだ。だからもちろん新作からもプレイするし、新旧いろんな曲をプレイするよ。

●『Once Upon A Time In The Desert』というタイトルのアルバムをいずれ誰かが作ると思っていましたが、それがカリフォルニア・デザート出身で“デザート・ロック”の重要な一角であるあなたで本当に良かったです。

ははは、誰でも思いつくタイトルであることは認めるよ(苦笑)。アルバムを作っているとき、ロバート・デ・ニーロのキャリアについての本を読んでいたんだ。それで『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』のところで、良いタイトルじゃないかと閃いた。

●カイアスやファットソー・ジェットソン、ヨーニング・マンなど、カリフォルニア・デザート出身のバンドはしばしば“デザート・ロック”と呼ばれますが、その音楽性をどのように表現しますか?

うーん、俺たちは自分の信じる音楽をプレイするだけだから、言葉で定義することは出来ないな。どのバンドも根底に1980年代中盤のパンク・ロックがあって、友達とジャムをしながらそれを発展させていったんだ。だから“デザート・ロック”という音楽スタイルは存在せず、デザートに住んでいたことと自由・実験性・真摯な精神が共通していたといえる。君が挙げたバンドはみんな異なった音楽をやっていたよ。

●“デザート・ロック”というとコード進行があまり複雑でなく、反復するリフによって陶酔感・トランス感を高めていくイメージがありますが...。

君の言っていることは正しいよ。デザートの多くのバンドはジャムをやりながらインプロヴィゼーションを交えて、テンションを高めていったんだ。俺たちはブラック・サバスやブラック・フラッグと同じぐらい、グレイトフル・デッドから大きな影響を受けてきた。だから目まぐるしいコード展開や超絶テクニック合戦はないんだ。それはカイアスについても言えることだ。俺たちはジャム・バンドだったんだよ。カイアスがメタリカのオープニング・バンドをやったとき、1曲目にジャムをやったら、持ち時間の半分ぐらいを使ってしまったこともあった(笑)。ただ曲をプレイするだけでなく、偶発性のある音楽をやりたいんだ。ただあまり変化球は投げず、ロックとグルーヴとジャムを全身で感じてもらう。

●カイアスはジャム・バンドだったそうですが、アルバムの作曲クレジットはバンド全員でなく、曲ごとにメンバーがクレジットされていました。例えば「グリーン・マシーン」や「ガーデニア」はあなたが書いたとクレジットされています。それは何故でしょうか?

俺たちはジャムをしながら曲を書いていたし、当初は4人のメンバー全員で書いたことにすれば良いと考えていたんだ。でもバンドが勢いに乗って、成功が視野に入ってきたことで、ジョシュ・ホーミが曲作りに最も大きな貢献をしたメンバーをクレジットするべきだと主張した。俺は反対したけど、多数決でそう決まったんだ。皮肉なことに、そのせいで「グリーン・マシーン」みたいな人気曲の印税を100%俺がもらうことになったんだけどね。

●現在のブラント・ビョーク・トリオのライヴで当時の曲を演奏する可能性は?

作曲クレジットがどうであっても、カイアス時代の曲はあの4人だから作り得たものなんだ。ソロ・アーティストになってから、当時の曲をプレイする必然性を感じないんだよ。今の俺は過去を振り返るよりも、クリエイティヴであることが大事なんだ。まあ、俺たちのライヴでは何が起こるか判らないけど、そっちには賭けない方が良いかもね。

Brant Bjork Trio / courtesy of 西横浜EL PUENTE
Brant Bjork Trio / courtesy of 西横浜EL PUENTE

<マリオ・ラーリとライアン・グルートは恐れを知らないミュージシャン>

●来日公演にはベーシストとしてマリオ・ラーリが同行します。彼は1980年代にカリフォルニア・デザートで“ジェネレーター・パーティー”をオーガナイズして、自らファットソー・ジェットソンやヨーニング・マンで活動する“ゴッドファーザー・オブ・デザート・ロック”ですが、どのようにして合体することになったのですか?

マリオは13、4歳の頃から知っていて、俺にとって師匠みたいな人なんだ。1986、7年かな。マリオはアクロス・ザ・リヴァーを解散させて、新バンドのイングルヌックを結成したところだった。いとこのラリー・ラーリがベース、アルフレド・ヘルナンデスがドラマーだったんだ。当時俺はトゥデイというバンドをやっていて、アクロス・ザ・リヴァーの前座としてブッキングされたけど、当日になってイングルヌックに変更になっていたのを覚えている。どっちのバンドも最高だったし、すごくエキサイトしたよ。それからしばらくしてイングルヌックにはギタリストのゲイリー・アーシーが加入して、ヨーニング・マンと改名したんだ。

●あなたはマリオといくつかのバンドで組んできましたが、どんなミュージシャンでしょうか?

マリオはパワフルなプレイヤーで、リズム感を備えていながら機械的ではなく、独学で演奏を習得したからか、すごくオーガニックなんだ。自分のインスピレーションに従う、恐れを知らないミュージシャンだ。それにとても寛大な人だし、ユーモアのセンスがある。彼とプレイすることが出来て本当に光栄だよ。

●ライアン・グートはどのようなドラマーですか?

ライアンはもう10年ぐらい俺のソロ・バンドでやってきたし、ストーナーの一員でもある。ただタイトに叩くだけでなく、お客さんの前であろうが、未知のゾーンに踏み込んでいくことを恐れていない。マリオと同じように、勇気のあるミュージシャンだよ。彼らとプレイするのはいつだって喜びだ。

●デザート出身のミュージシャンはバンドごとに楽器をスイッチする人が多いですね。あなたは今回ギター&ヴォーカルを担当しますが、カイアスではドラマーだったし、今回ベースを弾くマリオもファットソー・ジェットソンではギタリストです。さらにジョシュ・ホーミはクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジでギター&ヴォーカルを担当しながら、イーグルス・オブ・デス・メタルではドラマーです。

それはやはりジャム・バンドの精神によるものが大きいね。多くのバンドが、たまたまその場にいた人間によって結成されるんだ。「君がギターを弾くの?じゃ俺はドラムスね」というノリだよ。そもそも地元にミュージシャンがあまりいないから、いろんな楽器をやらなければならない。それまでベースを弾いたことがなくても、とにかく弾いてみるんだよ。

●前作『Bougainvillea Suite』(2022)を完成させた後、ヨシュア・トゥリーのホーム・スタジオを手放したとのことですが、『Once Upon A Time In The Desert』はどこでレコーディングしたのですか?

マティアス・シュニーバーガーがデザートのすぐ外、南カリフォルニアの山中でやっている“ドナー&ブリッツェン・スタジオ”でレコーディングしたんだ。マティアスはサンO)))やアースなどを手がけてきたエンジニアだけど、古い友人で、シュニービーと呼ぶ仲だよ。1999年、俺の初ソロ・アルバム『Jalamanta』のマスタリングをしてもらったんだ。それ以来、たくさんのアルバムを手伝ってもらった。

●あなたは『Once Upon A Time In The Desert』でもクールなギター・リフ、そしてリードを弾いています。どんなギタリストやレコードから影響を受けましたか?

正直、特定の“ギター・ゴッド”から影響を受けたことはないんだ。ギターを始めたのはドラムスの少し後、13歳ぐらいのときだった。だから手本としたのはドラムスと同じ、ラモーンズとブラック・サバスのレコードだったよ。だから最も影響を受けたギタリストといったらジョニー・ラモーンとトニー・アイオミということになるかな。彼らのリフは毎日コピーしたけどリードは自然に弾くようになった。ブラック・サバスはもちろん、クリーム時代のエリック・クラプトン、あとジミ・ヘンドリックスが好きだった。彼らの個性と恐れを知らない姿勢に憧れたんだ。あとするKISSのエース・フレーリーも味のあるリードを弾くね。彼のリードをコピーしたこともないけど、もっと評価されるべきギタリストだよ。

Brant Bjork Trio / courtesy of 西横浜EL PUENTE
Brant Bjork Trio / courtesy of 西横浜EL PUENTE

<ストーナーはマヌケで楽しいもの>

●現在ブラント・ビョーク・トリオ以外のバンドも並行してやっていますか?

現時点でライヴやレコーディングのスケジュールが入っているのはこのトリオだけなんだ。2025年にも世界のあちこちをツアーする予定だよ。まあ、俺とライアンはストーナーのメンバーだから、ニック・オリヴェリさえ来てくれればストーナーとして活動することも出来る。扉を広く開け放っておくよ。それともうひとつ、俺の自主レーベル“デュナ・レコーズ”を再開させたことで、そっちにも精力を注ぐつもりだ。新音源や未発表ライヴなど、いろんな作品をリリースしていく。ブラント・ビョーク&ザ・ブロズの2000年代のライヴを聴いたけど、すごくクールなんだ。とてもエキサイトしているよ。

●ヴィスタ・チノもあなたとニックがストーナーと重複していますが、活動再開の予定はありませんか?シンガーのジョン・ガルシア(元カイアス)と連絡は取っていますか?

ジョンとは数週間前に会ったばかりだよ。デザートはだだっ広いけど、人間の居住する地域は決して広くないから、誰とでもよく顔を合わせるんだ。そのときは音楽の話もしなかったし、ヴィスタ・チノの話題も出なかった。だから特に再始動する予定はないけど、アルバム『Peace』(2013)はとても気に入っているし、いつかジョンと「またやろうか」と盛り上がったらやる用意はあるよ。

●ヴィスタ・チノは元々カイアスの曲をプレイするカイアス・リヴズ!として始まって、ジョシュ・ホーミからクレームが入って改名することになりましたが、ジョシュとはもう交流はありませんか?彼の体調不良が理由でクイーンズ・オブ・ザ・ストーンズの2024年のツアー日程がすべてキャンセルになって、とても心配しています。

ジョシュとはしばらく話していないけど、ガキの頃からの友達だし、俺も心配しているよ。元気になって欲しいね。

●ジョシュが“ストーナー・ロック”という言葉を毛嫌いしているのは有名ですが、“ストーナー”をバンド名にしたのはどんな意図があったのですか?

ストーナーという語感が好きだったのと、“大麻でヘロヘロになった奴”というユルいイメージがピッタリはまったんだ。俺たちが高校生だった頃、近所の駐車場でハッパを吸ってダラダラ過ごしているストーナーがいたからね。まあ、20秒ぐらいで思いついたバンド名だよ。“ストーナー・ロック”のことは正直考えていなかった。大体、カイアスが活動していた頃にはそんな呼び名は存在しなかったんだ。解散してからどこかのマスコミが言い出したんだよ。元々“ストーナー”という言葉はずっと前からあった。当初は大麻と関係なかったんだ。酔っ払いとか、鍵を自動車に置き忘れるマヌケもストーナーと呼ばれていた。ボブ・ディランの「雨の日の女」で“everybody must get stoned”と歌っているのも、大麻とは限らない幅広い解釈があった。...大体、ロックのジャンルなんてマヌケな名前が大半だろ?“パンク・ロック”だって“ヘヴィ・メタル”だって相当マヌケだ。だからこそ楽しいんだよ。ストーナー・ロックだって楽しいものだ。あまりシリアスに捉えるべきでもない。

●それではブラント・ビョーク・トリオの日本公演を楽しみにしています!

俺たちも楽しみにしているよ。とにかくロックンロールを聴いてダンスして、最高のひとときを過ごして欲しいね。

Brant Bjork Trio『Once Upon A Time In The Desert』(Duna Records / 現在発売中)
Brant Bjork Trio『Once Upon A Time In The Desert』(Duna Records / 現在発売中)



【Brant Bjork Trio Japan Tour 2024】

- 10/23(水)大阪 - 戦国大統領

with 秘部痺れ / SLEEPCITY

- 10/24(木)金沢 - REDSUN

with GREEN MACHiNE / Contrast Attitude

- 10/25(金)名古屋 - TOKUZO(得三)

with Blasting Rod / Contrast Attitude / Crocodile Bambie

- 10/26(土)東京 - 両国SUNRISE

with DHIDALAH

- 10/27(日)西横浜 - EL PUENTE

with FLOATERS / Inside Charmer / HEBI KATANA / On A Cloud / yokujitsu / Raising Ravens

- 10/28(月)東京 – 新代田FEVER

with AZARAK / ETERNAL ELYSIUM

【問い合わせ】

西横浜 EL PUENTE / 各会場まで

https://x.com/yokohama_puente

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ブラント・ビョーク 2010年インタビュー

http://yamazaki666.com/interviewbrant.html

来日に同行する“ゴッドファーザー・オブ・デザート・ロック”マリオ・ラーリ 2020年インタビュー

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/93ad516187042ed12a909d621a313a636f329867

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/77fa975adc4f9cf7eb004e6e1f384c44bee84419

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,300以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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