タイブレークでのドラマに期待
来春行われる記念大会の選抜では出場校が増える以外にも大きな変更点がある。それは延長戦での早期決着を目的に得点の入りやすい状況から攻撃を始める、タイブレーク制度の導入だ。延長13回から実施するという点はすでに決まっているものの、アウトカウントや走者の状況については未定。詳細の決定は越年となった。仮に多くの都道府県ですでに導入されている無死1、2塁で任意の打順から、というルールになった場合、おそらく2番からの攻撃を選択しまずはバントで送ってクリーンアップのバットに期待する、という戦術が一般的だと思われる。
近年の流れは強打のチーム。タイブレークではどうか
プロ野球の場合だが、ある状況が現れてからそのイニングが終了するまでに何点入るかを示した得点期待値で無死1、2塁は1.414点、少なくとも1点は入る得点確率は60.4%というデータが残っている。ここからバントを成功させた場合と失敗した場合の得点期待値、得点確率を見てみると
1死2、3塁が1.335点で65.2%
1死1、2塁が0.905点で40.8%
このバントは成功させても得点確率は5%ほどしか増えないが、失敗すれば約20%も減少する。得点期待値に至っては成功させてもわずかながら減少している。近年の高校野球では、先頭打者が出塁しても簡単に送らず果敢に打っていくチームが増えた。タイブレークでもまずバント、ではなく3番からの打順を選択するチームがあるかもしれない。その場合、塁上にいるのは俊足の選手が多いであろう1、2番というのも好都合でビッグイニングを狙える。先攻で3点以上得点出来た場合、裏の守備では走者を無視出来る。無死走者なしと見なせばこの場合の得点期待値は0.455点、得点確率は25.2%だ。守備に就く際のプレッシャーは比べものにならないだろう。
主導権を握っているのはむしろ先攻チームか
強攻策が不発に終わり無得点だった場合でも1点取れば勝ちという後攻チームはバントをする確率が高くなるため思い切ったシフトを敷きやすい。送られて1死2、3塁とされても満塁策を取って問題ない。得点確率は65.2%と64.7%でほとんど変わらないからだ。しかも敬遠するのは目の前の打者にするか1人打ち取ってからにするかの選択権がある。延長戦は状況に合わせた攻撃が出来る後攻が有利、タイブレークなら尚更のことというのが通説だが、この流れはむしろ先攻チームが主導権を握っているようにも見える。そう考えるとベンチワークは先攻チームの方が重要だ。高野連によると、今春までの3年間に春・秋の都道府県大会でタイブレークとなったのは92試合あり、勝敗は先攻が44勝で後攻が48勝。後攻チームが勝ち越してはいるが拮抗しており必ずしも後攻有利とは限らない。
タイブレークにはタイブレークのドラマがある
この秋、京セラドームで行われた社会人野球の日本選手権ではタイブレーク後も膠着状態が続き、決着したのは延長16回という試合があった。12回の攻撃は1死満塁で任意の打順から、13回以降は1死満塁で継続打順というのが大会ルール。5イニング続けての1死満塁からの攻防は、見ているだけでも手に汗握る緊張の連続だった。タイブレークが導入されると野球の面白味が減るという意見が多数を占めるが、タイブレークにはタイブレークのドラマがある。