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初めて選手が揃った状態で臨めたCS。真の強豪になるための道を歩み始めた名古屋ダイヤモンドドルフィンズ

青木崇Basketball Writer
須田のリーダーシップの下、全員でタフに戦い続けた名古屋 (C)B.LEAGUE

 セミファイナルは4点、7点、6点という僅差での決着。ゲーム3で力尽きた名古屋ダイヤモンドドルフィンズは、真っ赤に染まったドルフィンズアリーナでシーズンを終えることになった。しかし、初の西地区制覇とセミファイナル進出は、チームにとって大きな成果であり、新たな歴史の1ページを刻んだことを意味する。

 2020−21シーズンからチームを指揮するショーン・デニスヘッドコーチの下、名古屋はアグレッシブなディフェンスとアップテンポなオフェンスが持ち味のチームと変貌。3年連続でチャンピオンシップ(CS)進出を果たすなど着実にレベルアップしていたが、過去2年は故障者続出の状態で戦いを強いられていた。

 2022年の川崎ブレイブサンダース戦はゲーム1でスコット・エサトンがケガをし、ゲーム2で外国籍選手不在の状態となって2連敗。昨年はシーズン途中で加入したアラン・ウィリアムズがCS直前で離脱し、故障者リストに登録されていたモリス・ンドゥールが急遽復帰するも、琉球ゴールデンキングス相手に10人のロスターで戦うことを強いられた。ゲーム2では張本天傑が右ひざの大ケガに見舞われるアクシデントまで起きてしまうなど、名古屋が望んでいたメンバー構成で戦う機会がなかったのである。

 今季の名古屋は、デニスコーチが主力として期待していたエサトン、ティム・ソアレス、ロバート・フランクスという外国籍選手が揃った状態で臨んだゲームが一つもなかった。しかし、10月に加入したジョシュア・スミスがCSを含めて61試合に出場。CSではエサトンとソアレスをバックアップするだけでなく、インサイドで強烈な存在感を発揮することでチームに貢献していた。

 また、張本が2月に戦列復帰を果たした後、中東泰斗、佐藤卓磨とともにベンチから出てきていい仕事ができるようになったことで、名古屋は9〜10人でローテーションできるチームとしてCSに臨むことができたのである。キャプテンとして素晴らしいリーダーシップを発揮してきた須田侑太郎は、今季を次のように振り返った。

「過去2シーズンはケガでメンバーが揃わずに本当に苦しかったが、(今季は)ほぼ戦力が揃った状態で初めてCSに臨めました。今は本当に紙一重だったなっていうのを感じながらも、CSはやっぱり運もないと勝ち上がれないというのがあるので、何かがまだ足りなかったんだなと思います。

 ただ、過去2シーズンのケガ人(続出の中)ですごく苦しい試合をしてきたというのは、やっぱり自分たちの強みになったりとか、今日の試合に限らずですけど、だれが出ても素晴らしいバスケットができる。外国籍が仮に1人だろうがなんだろうが、普通に勝負をして勝ち切れるチームというのは、多分僕の経験上ドルフィンズしかないと思うんです。なので、そこは本当にドルフィンズのアイデンティティとして作ることができましたし、誇りを持つべきだと思います。

 結果は非常に残念でしたけど、これを受け止めて、次にファイナルに行くために、優勝をつかみ取るために何が必要なのかっていうのを考えて(前に)進んでいかないといけないと思っています」

厳しいディフェンスの対応に直面しながらも、3Pショットを積極的に打ち続けた須田 (C)B.LEAGUE
厳しいディフェンスの対応に直面しながらも、3Pショットを積極的に打ち続けた須田 (C)B.LEAGUE

 ファイナル進出をかけたゲーム3、齋藤拓実が3Q序盤で右足を痛めてしまい、試合に戻れなかったのは名古屋にとって大きな痛手。ケガ人が出てしまうことはゲームの一部とはいえ、バスケットボールの神様は名古屋が乗り越えなければならない新たな試練を与えたのかと思った人がたくさんいたとしても、決して不思議なことではなかった。しかし、デニスコーチは今季の成果に誇りを持っている。

「シーズンを振り返ってみると、我々にとっては初めてのことがたくさんあった。西地区で優勝したことと、セミファイナルに進出したことだ。この3年間で我々は非常に良いチームを築き上げてきた。ゼネラルマネジャーの梶山(伸吾)さんとともに、これまでに達成してきたことを誇りに思っており、それはだれにとっても失うものではない。

 コート内外でチームとして我々が成し遂げてきたステップ、我々のファンベース、観客数でリーグ4位というのはチームにとって素晴らしい成果だ。だから、この方向で進み続けられれば、いつの日か我々がチャンピオンシップを獲得することになるだろう」

 デニスコーチが話した成果という部分では、ドルフィンズアリーナを埋めたファンの熱意が強く印象に残った。梶山GMがヘッドコーチだった時期から筆者は何度か取材に来ていたが、広島とのセミファイナルは今までのドルファミのイメージから大きく変貌。オフィシャルタイムアウト時の「Wind Kamikaze」が流れているシーンと終盤における怒涛のディフェンスコールは、名古屋を応援する人たちの強い思いを象徴するものだった。

ドルファミの一体感を象徴していた試合終盤の大声援 (C)B.LEAGUE
ドルファミの一体感を象徴していた試合終盤の大声援 (C)B.LEAGUE

 ゲーム2での名古屋は、4Q中盤から5分35秒間得点できず、広島の追撃に直面した。そんな厳しい状況でも何とか逃げ切ってシリーズを1勝1敗のタイにできたのは、ドルファミの熱いサポートがあったからこそ。2014年からチームに在籍する中東泰斗は、チームのだれよりもドルファミの存在がいかに大きいかを理解している。

「ファンの皆さんの歓声、ディフェンスコールで自分たちもガーッと気持ちを盛り上げられた部分もあるので、本当にホームコート・アドバンテージはすごくでかいなと思います。シュートが入らなくて苦しい時間帯も続いたんですけど、そこでもやっぱり我慢して我慢してディフェンスで守ろうという思いがあったのは、ファンの皆さんの声援があるからこそだと思います」

齋藤が離脱した後、昨季経験していたポイントガードでいい仕事をしていた中東 (C)B.LEAGUE
齋藤が離脱した後、昨季経験していたポイントガードでいい仕事をしていた中東 (C)B.LEAGUE

 レギュラーシーズン最終戦で逆転しての西地区優勝を果たした名古屋は、セミファイナルまでホームコート・アドバンテージを手にした。戦力がほぼ揃った状態でのCSに臨みながら頂点に立てなかったことで、絶好のチャンスを逃してしまったという思いに駆られても仕方ないところだろう。

 しかし、視点を変えてみると、このセミファイナルで味わった悔しさを糧に、来季の名古屋は今季乗り越えられなかった壁を打破するための戦いに挑み続けるしかない。真の強豪チームとして頂点を目指す長い道のりは、このセミファイナルでの敗戦からスタートすることになるだろう。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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