「効く?」「鼻から入れる?」子どものインフルエンザワクチンへの疑問、小児科医が解説
例年よりはやく、インフルエンザの流行期に入りました。
例年より早く、インフルエンザの流行期に入ったという報道がありました。
この時期の小児科外来では、インフルエンザワクチンに対して、さまざまな疑問を投げかけられます。
『インフルエンザワクチンって本当に効くの?』
『小さい子には効果がないって聞きました』
『鼻からいれるワクチンを近くの医院でしていますけど、打っても大丈夫?』
といった質問です。
今回は、これらのインフルエンザワクチンの質問に対し私が普段の外来でお話ししている内容をご紹介することにしましょう。
インフルエンザワクチンは、効きますか?
皆さん、『ワクチンが効くかどうか』をどのように判断していますか?
家族や、友人、仕事仲間が『インフルエンザワクチンを接種したあと罹ってしまった/罹らなかった』といった伝聞で判断していないでしょうか?
でも、もともとインフルエンザは全員が罹るわけではありません。
あるシーズンにインフルエンザにどれくらい罹っているかを検討した研究(32研究13,329人)では、インフルエンザワクチンを接種していない場合、子どもは5人に1人程度、大人は10人に1人程度がインフルエンザに罹るという結果が得られています(※1)。
※1) Somes MP, et al. Vaccine 2018; 36(23): 3199-207.
つまり、ワクチンを接種していなくても、子どもでも5人に4人は罹らないということです。
ですので、『接種しなくても罹らなかった』という印象をもつ方もいるでしょうし、『接種したけど罹ってしまった』という方もでてくるのです。
そこで、ワクチンの効果をたくさんの人数で検討した研究結果でみてみましょう。
最近、2~16歳の子どもに対するインフルエンザワクチンの効果をみた41研究200,000人以上を集め、まとめた報告がなされました。
すると、インフルエンザワクチンは、インフルエンザに感染するリスクを1/3近くにするという結果でした(※2)。
※2) Jefferson T, et al. Cochrane Database Syst Rev 2018; 2:Cd004879.
『いやそれでも、私はインフルエンザに罹ったことが全く無いです/毎年罹ってしまいます』といわれることもあります。私もなんとなく偏りがあるようにも感じることがあります。
最近、インターフェロン誘導性膜貫通型蛋白質3(IFITM3)という蛋白質の遺伝子多型(人によって遺伝子が少しだけ異なること)が、インフルエンザの重症化に関係しているのではないかという報告があります(※3)。
※3) Prabhu SS, et al. Gene 2018; 674:70-9.
もしかすると、人によってインフルエンザに罹りやすい、もしくは罹りにくいという差は、こういう遺伝子のちょっとした違いの影響もあるのかもしれません。
もちろん、これまで罹っていなかったから、今後も罹らないとはいえません。
そしてこれまで罹ることが多かったのなら、なおさらにインフルエンザワクチンが有用であることもいうまでもないでしょう。
インフルエンザワクチンが、子どもにおける重症化を防ぐ効果はどれくらい?
インフルエンザワクチンの目的は、罹らないことだけではなく、『入院や死亡を防ぐ』といった、重症化のリスクを減らすという重要な役割があります。
子どもは、お年寄りと並び、インフルエンザにより重篤化しやすい年齢です。
ですので、インフルエンザワクチンにより重症化を防ぎたいのです。
このテーマに関し、2010年から2014年まで米国で実施された研究があります。
その報告では、インフルエンザにより亡くなった小児358件の報告を検討したところ、インフルエンザワクチンは6割以上も死亡するリスクを減らしたという結果でした(※4)。
※4) Flannery B, et al. Pediatrics 2017; 139.
インフルエンザワクチンは、重症化するリスクを減らす効果も十分あるといえそうです。
インフルエンザワクチンは、罹ったときの高熱になるリスクを減らしますか?
ただ、せっかく痛い思いをしてワクチンを接種したからには、できれば『高熱になるリスクも減らしてほしい』と思いたいところですよね(『高熱』は、インフルエンザの重症化の検討項目には一般的に含まれません)。
このテーマに関しては最近、生後6~35ヶ月の小児12018人に対し検討した報告があります。
すると、ワクチンをしていてもインフルエンザに感染してしまったという子どもにおいて、39℃を超える発熱のリスクは約半分程度になるという結果でした(※5)。
※5) Danier J, et al. Pediatr Infect Dis J 2019; 38:866-72.
そして、もう一つ注目しておきたいのは、この研究では、生後6ヶ月からの検討でも有効性が認められているということです。低年齢だから接種の有効性もあるといえるでしょう。
これらの結果から、インフルエンザワクチンの有効性は確かといえます。
鼻から使うインフルエンザワクチンは、してもいいですか?
注射ではない、鼻から使うインフルエンザ経鼻ワクチン(商品名フルミスト)が、一部の医療機関で個人輸入されて使用されています。
なお、注射で使用されるインフルエンザワクチンは不活化ワクチン、経鼻ワクチンは生ワクチンになります。
インフルエンザA型( H1N1pdm09=2009年に出現した、いわゆる”新型インフルエンザ”の型)の流行に対し、2〜17歳の小児におけるインフルエンザ経鼻ワクチンの有効性を検討した報告では、経鼻インフルエンザワクチンは、注射の不活化ワクチンに劣らないという結果が得られています(※6)。
※6) JAMA Pediatr 2018; 172:e181514.
経鼻ワクチンは有用な印象ですね。
しかし以前、このインフルエンザ経鼻ワクチンは効果が低いのではないかとされ、一度米国における接種推奨からはずされるという状況となっていました(現在は、推奨が復帰しています)。
この理由として、2013年から2014年シーズンにおける米国におけるインフルエンザ経鼻ワクチンの効果が、注射のインフルエンザワクチンに劣るのではないかという報告があったことも影響しています(※7)。
※7) Caspard H, et al. Vaccine 2016; 34:77-82.
この報告の中で、インフルエンザ経鼻ワクチンの保存性の問題が指摘されています。
というのも、インフルエンザ経鼻ワクチンは、保存状態に問題がある場合に有効なインフルエンザウイルス量が大きく下がってしまう可能性があるのです。
実際、日本に個人輸入されたインフルエンザ経鼻ワクチンのウイルス量が、使用期限直前には有効性のある下限量の1/10程度になっていたという報告もあります(※8)。
※8) 感染症学雑誌 2015; 89:720-6.
いまのところ私は、個人輸入では接種後の補償の問題があることもありインフルエンザ経鼻ワクチンに対しては慎重な考えです。もちろん、痛みが少ないというのはとても魅力的ですので、本格的に導入するならばワクチンの安定性が確認できるような体制を望んでいます。
さて今回は、小児におけるインフルエンザワクチンの効果から経鼻インフルエンザワクチンの話題をお話ししました。
これからのインフルエンザシーズンに向けて、ワクチン接種をする際の参考になれば嬉しく思います。