札幌ー東京間を普通列車だけで移動するとどうなるの!? 実際に35時間かけて乗ってみた【後編】
この夏「青春18きっぷ」の利用期間もいよいよ終盤を迎えている。2023年夏の発売期限は8月31日までで、利用期間は9月10日までだ。しかし、東京方面と東北・上越方面や北海道方面の旅行を考えた場合には、青春18きっぷと似たような条件で利用が出来る「北海道&東日本パス」が存在し、9月末までの利用ができることは、2023年8月25日付記事(1万円台で繁忙期の東京―札幌間往復も!? 7日間普通列車に乗り放題「北海道&東日本パス」の実力)でも触れた通りだ。
そこで、実際に札幌から東京までこの「北海道&東日本パス」を使って、普通列車のみで移動するとどうなるのか実際に試してみた。なお、津軽海峡を挟む函館ー青森間については、深夜帯にもフェリーが運行されていることから、この間はフェリーで渡り青森駅から始発列車に乗り東京駅を目指した。前編では1日目の札幌ー函館間を紹介したが、今回の後編では2日目の青森ー東京間の様子を紹介する。
青森から東京まではどう行くか
青春18きっぷでの移動を考えた場合、第三セクター鉄道には乗車できないことから、青森からJR奥羽本線で秋田、山形、福島を経由して東京に向かうのが基本的なルートになるが、始発列車で青森駅を出発してその日のうちに到達できるのは池袋までだ。なお、大宮ー池袋間は0時を過ぎてからの移動になる。青春18きっぷは原則として、乗車した列車が0時を過ぎて最初に停車する駅まで有効であるが、東京・大阪の電車特定区間は、乗車日の終電車まで有効であることから、追加の運賃は必要ない。
一方で、北海道&東日本パスの場合は、青森ー盛岡間を運行する第三セクター鉄道の青い森鉄道線とIGRいわて銀河鉄道線にも乗車できることから、青森駅から一直線に東京を目指すことが可能だ。青森ー盛岡間も、もともとはJR東北本線ではあったが、東北新幹線の新青森延伸開業までに青森県側が青い森鉄道として、岩手県側がIGRいわて銀河鉄道としてJR東日本から経営分離されている。
今回は、青森ー東京間を青い森鉄道線とIGRいわて銀河線、JR東北本線を使い移動する。移動距離は739.2km、所要時間は16時間11分だ。
定額タクシーで青森駅西口へ
前日の23時30分発の青函フェリーで函館港を出港した筆者は、翌3時20分に無事に青森港へと到着することができた。フェリー船内にはシャワールームがあったことから、ここで汗を流すことができ、3時間ほどではあったが睡眠を取ることもできた。
青森港到着後は、フェリーターミナル待合室が開放されていたので、ここで5時頃まで時間をつぶすことにした。青森駅から乗車予定の始発列車は5時40分発だ。乗船の際には、函館駅から函館のフェリーターミナルまで、青函フェリー指定の定額タクシーを利用したが、青森側でも定額タクシーの設定がある。こちらは、青森フェリーターミナルから青森駅西口まで1180円での利用が可能だ。
タクシーは、青函フェリーの乗船窓口に置いてあるタクシー会社直通専用電話から予約が可能だったので、筆者は4時50分頃に専用電話からタクシー会社に連絡をしたが、今の時間、配車できるクルマがなくフェリーターミナルに行けるのは5時半頃になるという。慌てて「5時40分発の始発列車に乗らなくてはいけないのでなんとかならないか」と交渉したところ、どうにか始発列車に間に合うようにクルマを手配してもらうことができた。
運輸業界においては、バスドライバーだけではなくタクシードライバーも深刻な人手不足に陥っているという話もちらほら耳にするが、青森のフェリーターミナルでタクシーを呼ぶ場合には、3時20分の到着後すぐにタクシーの手配をするのが無難だと感じた。なお、青森の定額タクシーも、函館のタクシーでご一緒させていただいた旅行者の方と割り勘にしていただくことができ、こちらは590円で移動することが出来た。こちらの方は、青森からは奥羽本線の始発列車に乗るということで、青森駅で別れることとなった。
早朝の東北路を南下し盛岡へ
6本目:青森5:40発 青い森鉄道 八戸行
2日目の最初の列車は、青森駅を5時40分に発車する青い森鉄道の八戸行普通列車で、所要時間は1時間30分だ。青い森鉄道は、東北新幹線の新青森延伸時までにJR東日本から経営分離された並行在来線区間を引き継ぐために発足した第三セクター鉄道で、青森県側の青森ー八戸ー目時間の運行を担う。一方で、岩手県側の目時ー盛岡間はIGRいわて銀河鉄道が運行を担っている。
こうしたことから、JR線しか乗ることが出来ない青春18きっぷでは、第三セクター鉄道となった青森ー盛岡間には乗車することができない。万が一、青春18きっぷで盛岡まで乗り通してしまった場合には、盛岡駅のIGRいわて銀河鉄道改札口で5590円を支払うことになるので、注意が必要だ。
青い森鉄道の車両は、JR東日本の701系がベースとなった青い森701系が主力車両で、その大半は通勤仕様のオールロングシート車両となっている。
列車は、5時40分になると定刻通りに青森駅を発車。丸一日かけた東京への長い旅路が始まった。
7本目:八戸7:13発 青い森鉄道 盛岡行
八戸駅では3分の待ち合わせで盛岡行に接続。接続時間がわずかであることから、筆者は、当然、到着したホームの向かい側の列車が盛岡行だろうと無意識に思い込んでいた。そのまま向かいの列車に乗車をしたところ、なにか違和感を感じる。盛岡側の運転席に運転士が乗っていないのだ。慌てて列車を降りて行き先表示を確認すると「青森」の表示が。間違いに気付いたことから猛ダッシュで跨線橋を駆け上り盛岡行の列車に無事に乗車することができたが、危うく青森方面に戻されるところであった。
八戸ー盛岡間は、青森県と岩手県の県境となる目時駅を境に、青森県側が青い森鉄道、岩手県側はIGRいわて銀河鉄道と管轄が分かれているが、列車自体は八戸ー盛岡間での通し運転が行われており、車両もそれぞれの会社のものが共同で運用されている。IGRいわて銀河鉄道管内に入った目時駅となりの金田一温泉駅からは、女性アテンダントが乗車。盛岡駅までの案内放送のほか企画乗車券の販売を行なっていた。また、2両編成の列車の後部車両は全席優先席となった。盛岡までの所要時間は1時間47分で9時ちょうどに到着した。
車窓に広がる水田を眺めながら仙台へ
8本目:盛岡11:04発 一ノ関行
盛岡駅では約2時間の待ち時間があったことから、その間、田沢湖線で雫石駅までの間を往復して時間をつぶす。ここからは、東京までJR線となることから青春18きっぷでも利用ができる区間となる。
盛岡から一ノ関行となるのは、1993年登場の701系電車で、盛岡地区の車両は紫帯となっていることが特徴だ。盛岡都市圏ということもあり、座席は全て埋まるほど利用者が多く、途中の北上までは区間列車の設定もある。一ノ関までの所要時間は1時間25分で、12時29分に到着した。
9本目:一ノ関12:44発 小牛田行
一ノ関駅は、中尊寺金色堂のある観光地・平泉への玄関口であるためか駅舎内の売店やそば屋などが充実している。時間もお昼時ということで、ここでおにぎりなどの食料やお茶などの飲料の補給を行う。東京まではまだ9時間かかることから、食料や飲料の調達は欠かせない。
一ノ関から小牛田までの所要時間は47分、13時31分に到着した。小牛田駅は、東北本線から石巻を経由して女川までを結ぶ石巻線と山形県の新庄までを結ぶ陸羽東線が分岐する主要駅で、駅には車両基地も併設されている。筆者が到着したときには、石巻線に乗り入れる貨物列車が機関車の付け替え作業中だった。
10本目:小牛田13:37発 仙台行
小牛田駅から車両はセミクロスシート仕様のE721系に変わり、車両数もこれまでの2両編成から4両編成に倍増。大都市が近いことを感じさせる。E721系は、2007年に仙台地区で運用されていた国鉄型車両の置き換えを目的として導入された車両だ。
小牛田ー仙台間の所要時間は46分で14時23分に到着した。仙台まで来るとようやく折り返し地点に到達といった気分になる。東京まではのこり約7時間だ。
関東目前!?夕刻の南東北を黒磯へ
11本目:仙台15:00発 白石行
仙台駅では37分の待ち時間の後、白石行に接続。コロナ前は、仙台から南方面は、福島や郡山に直通する列車が大半であったが、いつの間にか白石駅で系統分離されてしまったようで、乗り換えの手間を感じることとなった。白石までの所要時間は48分だった。
12本目:白石15:51発 福島行
白石駅では3分で福島行に接続。ここでは向かいのホームに停まっている列車にそのまま対面乗り換えができた。この日6回目の乗り換えであったが対面乗り換えできたのは白石駅がはじめてであった。福島駅までの所要時間は25分、車両は再びオールロングシートの701系2両編成だった。
13本目:福島16:39発 郡山行
福島駅では7分で郡山行に接続。30時間近く列車に乗り続け、こまめな乗り換えが増えてくると車窓風景を楽しむ余裕もなくなってくる。福島ー郡山間の所要時間は46分だった。
14本目:郡山17:49発 新白河行
郡山駅では24分で新白河行に接続。こちらも2017年までは黒磯駅までの通し運転を行っていたが、現在では新白河駅で系統分離されている。新白河駅までの所要時間は39分だ。
なお、郡山駅も、会津若松方面の磐越西線、いわき方面の磐越東線が分岐する主要駅で、駅側線にはガソリン専用の貨物列車が発車を待っていた。
15本目:新白河18:32発 黒磯行
新白河駅では4分で黒磯行に接続。東北本線の乗り換えホームは、郡山方面と黒磯方面の線路の間にコンクリート製の車止めが設置され、分断されていることが特徴だ。青森から新白河までは交流電化区間であったことから交流専用電車の701系とE721系が主力車両であったが、黒磯駅構内からは直流電化区間となるため、車両もそれに対応した交直両用電車のE531系となる。
新白河ー黒磯間は、E531系5両編成によるワンマン運転が行われており、運転士は運賃精算に対応していないということで「きっぷは目的地まで正しくお買い求めください」という掲示物が各所に見られた。黒磯までの所要時間は33分であった。
青森から11時間20分!ついに関東へ!
16本目:黒磯19:00発 宇都宮行
黒磯駅は栃木県!青森駅を出発してから11時間20分あまりでついに関東地方に到達した。黒磯駅では5分で宇都宮行に接続。車両は2022年3月に導入されたばかりのE131系電車だ。3両編成を2編成繋いだ6両編成だった。ここまでくると日はすっかり落ちてしまい、車窓風景を全く見ることが出来ないなか、宇都宮までの51分を乗り通した。
17本目:宇都宮20:01発 熱海行
宇都宮からは通算で17本目となる最後の乗り換えだ。宇都宮では10分の接続だが、向かいのホームで乗り継ぎが出来るのはありがたい。東京駅までの所要時間は、1時間50分で到着は21時51分となった。
前編の北海道編では、景色や周囲の様子を観察する余裕もあったが、さすがにここまで乗り続けると後編では乗車した車両の記録を取るだけで、精一杯の状況となってしまい、読者の皆さまには東北地方の旅の魅力を伝えきれなかった点についてはお詫び申し上げたい。
なお、熱海まで乗り通せば23時52分着となり、これが北海道&東日本パスで取り通せる最長距離となる。
(了)