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【水害対応残業代報道】常総市議の抗議受け、毎日新聞第三者機関で審査へ

楊井人文弁護士
記録的な豪雨で鬼怒川が決壊した常総市内の様子(写真:アフロ)(写真:アフロ)

【GoHooトピックス12月22日】常総市職員が今年9月の水害対応で長時間残業をしていた問題を取り上げた毎日新聞の記事について、市議会議員が議会で職員の給与の高さを問題視したかのように質問の趣旨を捻じ曲げられたと抗議したことを受け、毎日新聞第三者機関の「開かれた新聞委員会」で審議されることになったことが、日本報道検証機構の調査でわかった。一方、ネット上で過剰な毎日新聞批判を引き起こしてしまったとして、まとめサイトの作者が謝罪していたこともわかった。

毎日新聞ニュースサイト2015年12月5日掲載
毎日新聞ニュースサイト2015年12月5日掲載

問題となったのは、「市職員、9月分給与100万円超も 水害対応で、残業最高342時間」と見出しをつけ、毎日新聞茨城県版に掲載された12月5日付記事。遠藤章江(ふみえ)議員の市議会での質問で、水害発生後3週間(9月10日~30日)の市職員の平均残業時間が139時間で、残業代などに1億3000万円が支払われたことが明らかにされたと報じた。その中で、遠藤氏が「もらう権利はあるが、全国から来たボランティアが無償で働いている中、市職員が多額の給与をもらうことに市民から疑問の声が上がっている」と指摘し、「給与が高額にならないよう、災害時の特別給与体系の創設を求めた」と記述していた。

地方版記事だがニュースサイトにも掲載されたため、遠藤氏が災害時の職員給与の抑制を求めたことを問題視し批判する声がインターネット上で巻き起こり、遠藤氏のブログにも批判のコメントが殺到。6日、遠藤氏はブログで「言葉尻だけを抜き出し、都合のよい具合に記事をまとめ上げ、質問の内容を正確に伝えていない」と反論、10日に毎日新聞社に対し訂正を求める抗議文を送った。

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市議会ホームページで公開されている動画で確認したところ、市の担当者が水害対応の残業時間などを答弁した後、遠藤氏は「職員の健康管理をしっかりしてしていただかないといけない」「これ社会保険料の問題なんですね」と述べ、残業代の支払時期によって職員の社会保険料負担が過大になる問題を指摘。続けて、「給与がすごく増えてしまった職員もいるということでため息でました。それも受け止めなくてはならない」と市民感情にも言及したうえで、「災害時の特別給与体系を今後早急に検討していく必要があるのではないか」と質問していた。

遠藤章江議員の抗議文(同議員ブログより)
遠藤章江議員の抗議文(同議員ブログより)

他方で、遠藤氏は質問の冒頭で、水害対応で高額の残業代が支給されたとの報道を取り上げ「市民の間でかなり話題になっている」「役所で皆さんが不眠不休で本当に一所懸命働いている姿も見ておりますので、働いた残業代分を当然もらう権利があるというふうにも思いますけども、実際市民の声というのはなかなか厳しいものがあります」と言及。「ボランティアの方たちは無償で不眠不休で働いてるじゃないか。そういう中で市の職員が残業代をもらうのはどうなのか、という厳しい意見もあることは事実」と指摘していた。質問のしめくくりでも「市民感情というのは、必ずこういう災害時はあります。本当に公務員というのは市民のための奉仕者であるというのが、市民の一番の考え方だと思いますので、その辺を少し考慮して今後の検討課題にしていただければ幸いです」と発言していた(BLOGOS編集部の文字おこし参照)。

したがって、毎日新聞の記事のうち、遠藤氏が「もらう権利はあるが、全国から来たボランティアが無償で働いている中、市職員が多額の給与をもらうことに市民から疑問の声が上がっている」と指摘したと報じた部分は間違っていない。「給与が高額にならないよう、災害時の特別給与体系の創設を求めた」との部分も、給与高額化に厳しい市民感情への配慮を再三強調していた点で、必ずしも間違いとまではいえない。

ただ、遠藤氏の質問の趣旨を総合すると、災害時の特別給与体系の検討を求めた理由として遠藤氏が挙げたのは、「職員の健康管理」「社会保険料高額化の問題」「高額の残業代に厳しい市民感情」の3点だったといえる。このうち記事では、職員の健康管理と社会保険料の問題に触れていなかったため、遠藤氏がもっぱら給与高額化だけを問題視したかのような誤解を与えた可能性は否定できない。

毎日新聞社への謝罪が記されたまとめサイト
毎日新聞社への謝罪が記されたまとめサイト

毎日新聞のサイトに掲載された記事は12月22日現在、訂正されていない。遠藤氏によると、毎日新聞は「開かれた新聞委員会」で協議する意向を伝えてきたといい、毎日新聞関係者もこの事実を認めた。開かれた新聞委員会はジャーナリストの池上彰氏ら4人の外部委員が苦情申立てなどを審理しており、結果を紙面で公表することもある(→池上彰氏「省略」の問題指摘 毎日新聞「先制攻撃」ミスリードで第三者機関が審査)。

一連の騒動はネットメディアでも取り上げられ、論議を起こしていた(弁護士ドットコムニュースJ-CASTYahoo!ニュース個人)。ただ、当初毎日新聞の記事を批判したまとめサイトの作成者が、記事に落ち度があったとしても「毎日新聞への過剰な叩きを引き起こしてしまいました」と謝罪を表明している

【追記】

毎日新聞の開かれた新聞委員会で審議した結果がニュースサイトに掲載された。池上彰委員ら3名は遠藤議員の質問の趣旨をねじ曲げていなかったとの見解を述べる一方、荻上チキ委員は「質問の趣旨と反する点もある。事実をねじ曲げた記事とまでは言えないが、ミスリードしうる切り取り方で、より注意して書かれるべきだった」との見解を述べた。(2016/3/28 10:30)

弁護士

慶應義塾大学卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHoo運営(2019年解散)。2017年からファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年『ファクトチェックとは何か』出版(共著、尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー受賞)。2022年、衆議院憲法審査会に参考人として出席。2023年、Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット賞受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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