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女子高生がプロを目指す映画『野球少女』公開 韓国には男子と一緒にプレーの女子投手が実在した?

室井昌也韓国プロ野球の伝え手/ストライク・ゾーン代表
写真:2019 KOREAN FILM COUNCIL.

3月5日からTOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー公開の韓国映画『野球少女』は、女子の高校野球選手がプロ野球選手になるという夢に向かって、ひたむきに努力する姿を描いたフィクションだ。

映像:映画『野球少女』予告編

映画『野球少女』公式サイト

作中、主人公・スイン(イ・ジュヨン)の前にはいくつもの壁が立ちはだかる。実際に日本、韓国ともプロ野球のトップリーグでプレーした女子選手はこれまでに存在しない。

それだけではなく日本では、日本高等学校野球連盟(高野連)の大会参加者資格規定に「その学校に在学する男子生徒で」という記述があり、女子生徒が男子と一緒に大会に出ること自体を認めていないのが実状だ。

令和3年度大会参加者資格規定(公益財団法人日本高等学校野球連盟)

では韓国はというと、高校野球の全国大会に女子選手が男子とともに出場したことが1度だけある。

1999年4月30日に行われた、第33回大統領杯全国高校野球大会の準決勝。トクス情報産業高(現トクス高)の3年生アン・ヒャンミ投手は、ペミョン高戦で先発登板した。

アン・ヒャンミ投手は先頭打者への3球目に死球を与えたところで降板。当時の聯合ニュースの記事によると、初球の球速が101キロ、2球目と3球目は105キロだったという。

韓国の高校野球史上初の女子選手の出場。しかしこの登板は戦力として認められての起用ではなかった。アン・ヒャンミ投手が大学野球部に進学する際に特待生の資格が得られるようにと、監督が配慮したものだったという。特待生に選ばれるには全国大会での準々決勝以上の出場実績が必要だったからだ。

映画の中でスインは「20年ぶりに誕生した女子の野球部員」と紹介されるが、その20年前の選手というのは、実在したアン・ヒャンミ投手のことを指している。

今回『野球少女』の日本での公開にあたり、作品のモチーフにもなったアン・ヒャンミ投手が「プロ野球リーグ(KBO)主催の公式試合に登板したことがある」という紹介や記事が一部で見られる。しかし同投手が登板したのは上記の通り、高校野球の全国大会でプロの公式戦ではない。

日韓どちらも女子が男子と同じグラウンドでプレーするのは、容易ではない。それだけに『野球少女』のあらすじだけを見ると、「現実離れしている」と感じる人もいるだろう。しかしこの作品はプロ野球選手になるという夢を決してあきらめないスインの姿を過度に美化せず淡々と描き、その世界の中に強く引き込んでいくのが特徴だ。

 写真:2019 KOREAN FILM COUNCIL.
写真:2019 KOREAN FILM COUNCIL.

また本作にはKBOリーグのSKワイバーンズの本拠地・インチョンSK幸福ドリーム球場や、実際の球団事務所などがそのまま登場する。そのことも作品の迫真性に一役買っている。

そのSKは今年1月下旬に球団売却が決まり、映画の日本公開日と同じ3月5日に新球団・SSGランダーズとなった。そのためSKのマークやユニフォームは本作で見納めだ。

(関連記事:新球団は「SSGランダーズ」 SKワイバーンズは21年の歴史に幕を下ろす

映画『野球少女』は野球に興味がなくても、「報われると信じて努力を惜しまない」スインとその周りの人たちに感情移入できる。だが、日本と異なる韓国の野球部員の日常や、韓国球界の仕組みがわかると、より深く内容が理解できるだろう。次回はそれらを紹介する。

(関連記事:高校球児、日本は13万人も韓国は3200人 映画『野球少女』を通して見る日本とは異なる部活事情とは?

(本記事は映画『野球少女』の劇場用パンフレットに寄稿した内容を一部抜粋し、構成しています)

韓国プロ野球の伝え手/ストライク・ゾーン代表

2002年から韓国プロ野球の取材を行う「韓国プロ野球の伝え手」。編著書『韓国プロ野球観戦ガイド&選手名鑑』(韓国野球委員会、韓国プロ野球選手協会承認)を04年から毎年発行し、取材成果や韓国球界とのつながりは日本の各球団や放送局でも反映されている。その活動範囲は番組出演、コーディネートと多岐に渡る。スポニチアネックスで連載、韓国では06年からスポーツ朝鮮で韓国語コラムを連載。ラジオ「室井昌也 ボクとあなたの好奇心」(FM那覇)出演中。新刊「沖縄のスーパー お買い物ガイドブック」。72年東京生まれ、日本大学芸術学部演劇学科中退。ストライク・ゾーン代表。KBOリーグ取材記者(スポーツ朝鮮所属)。

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