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なぜ名古屋おもてなし武将隊は愛されるのか?

大竹敏之名古屋ネタライター
ご当地武将ブームの火付け役となった名古屋おもてなし武将隊

全国からファンが集まる武将隊イベントが活況

今や全国で群雄割拠し、まさに戦国時代を迎えている“ご当地武将隊”。城や土地にゆかりのある戦国武将たちがパフォーマンスを披露したり観光ガイドを務める、町おこしの新しい形です。

ゆるキャラのイケメン版ともいえますが、史実を背景にし、なおかつグループで質の高いパフォーマンスやキャラクターづくりが必要という点で、ゆるキャラよりもハードルが高く、粗製乱造に陥りにくいプレミアム感にもつながっています。

近年は各地の武将隊が集結するイベントも盛ん。去る2月20・21日には中部国際空港(愛知県常滑市)で「第一回全国武将隊大博覧会~宴~」が開催されました。

東は「奥州・仙台おもてなし集団 伊達武将隊」から西は「熊本城おもてなし武将隊」まで、スペシャルサポーターも含めると14隊が“参戦”。メインステージの殺陣やダンスを中心とした演武をはじめ、イケ武将選手権、よもやま談義、グッズ販売など、複数のスペースで様々な催しが同時多発的に行われる“武将隊フェス”ともいうべきイベントでした。

2月に中部国際空港で開催された「第一回全国武将隊大博覧会~宴~」
2月に中部国際空港で開催された「第一回全国武将隊大博覧会~宴~」

「熊本城に毎月2、3回行っています。それぞれの隊のパフォーマンスの違いを見比べられるので楽しい」(福岡県・20代女性)

「ゲームの『戦国BASARA』から歴史ファンに。信州上田おもてなし武将隊と伊達政宗がいる奥州・仙台おもてなし集団のファン。現地へ行っても遠征中でいないことがあるので、確実に会えるチャンスだと思ってやってきました」(大阪府・40代と10代の母娘)。

「人気投票で1位を決める武将隊イベントもありますが、それだとファン同士もライバル心むき出しで神経をすり減らしてしまう。今回はお互いにいいところを認め合えるので本当の意味の交流になって楽しい」(愛知県・30代女性)。

全国から集まったファンは9000人。30代前後の女性が目立ち、長距離移動もいとわない熱心な“追っかけ”も珍しくありません。自身の“推し武将”がいるのはもちろんですが、他の隊も含めて応援しているという人が多いことから、武将隊人気が成熟に向かっている印象を受けました。

元祖としてブームに火をつけた名古屋おもてなし武将隊

このムーブメントの先駆けであり、けん引車でもあるのが「名古屋おもてなし武将隊」です。先の大博覧会でもひときわ熱い声援を集めていました。

「武将の聖地・名古屋」のPRを目的に2009年11月に結成。メンバーは織田信長・豊臣秀吉・徳川家康という史上最も有名な武将である天下人3名を中心に前田利家・加藤清正、前田慶次、そして陣笠隊の計10名。“イケメン武将隊”の異名も取っています。

名古屋城二の丸庭園での演武。基本的に土日祝日の午前・午後に開催される
名古屋城二の丸庭園での演武。基本的に土日祝日の午前・午後に開催される

活動の拠点は名古屋城。毎日2名が城内に“出陣”して来場者を出迎え、土日祝日には演武と呼ばれるパフォーマンスを披露します。演武には毎回200~300名のファンが集まり、連休や好天の日には1000人を超えることも。名古屋城の来場者は2013・14年と160万人を突破し、武将隊デビュー前年の2008年度の126万人からおよそ3割アップ。城ブームや本丸御殿の公開(2013年)も追い風になっていますが、武将隊人気が動員増に貢献していることは間違いありません。

彼らの成功をきっかけに全国各地に武将隊が誕生。今では約30隊が各地に存在しているといわれます。

演武は殺陣、ダンス、寸劇、コミカルなトークなどの約20分構成
演武は殺陣、ダンス、寸劇、コミカルなトークなどの約20分構成

名古屋市の観光PRや自主イベントだけでも年間40~50回。市内各所のおまつり、企業の営業、さらには他府県や海外へ遠征することも。名古屋ではテレビとラジオのレギュラー番組が各1本、その他、テレビや雑誌などのメディア出演は数えきれません。CDやDVDも発売し、市内の主要や土産物売り場では武将隊グッズが1コーナーを占めています。武将隊は、地域のPR大使であり、有力な誘客コンテンツであり、貴重な“ご当地タレント”でもあるのです

昨年はミラノ万博「あいち・名古屋ウィーク」にも出陣。世界へ向けて勝どきを上げた
昨年はミラノ万博「あいち・名古屋ウィーク」にも出陣。世界へ向けて勝どきを上げた

“会いに行ける”が愛される理由のひとつ

なぜ彼らはこんなにも愛されているのでしょうか? 再びファンの声を拾ってみます。

「月に1~2回は名古屋城へ会いに来ます。本物の武将が目の前にいるかのようで、自分自身が戦国時代にいるような気分にさせられます」(名古屋市、30代女性)

「各武将に個性があって役割分担ができているし、地元のこと、歴史のことを本当によく知っている」(愛知県、20代男性)

「所作が本格的で、見せかけではない本物のオーラがある。誰が、というより武将隊が好き。東京から月1~2回は来ています」(東京都、60代女性)

「一昨年に初めて名古屋に来た時に一緒に写真を撮ってもらってからファンになり、以来月1回くらいは来てます。世界観がしっかりしているし、お城に来た人をちゃんとおもてなししてくれる。推しは信長様です」(大阪府、30代女性)

「ファン歴4年。来れる時はほぼ毎日で朝から晩までご一緒します。私は豊臣派で、秀吉様は2回交替してるんですが、接していくことで魅力が感じられて、応援し続けられるんです」(愛知県、40代女性)

演武の後は撮影会。老若男女で長蛇の列ができる
演武の後は撮影会。老若男女で長蛇の列ができる

人気の最大の要因はそのなりきりぶり。信長は荒々しくも人間味にあふれ、秀吉は知性を秘めながらひょうきん、家康は聡明で威風堂々。その他の武将や陣笠隊も、言葉遣いから立ち居振る舞いまで、決してコスプレではない見事なホンモノっぷり。現世によみがえったサムライたちとして、観る者に歴史体験をさせてくれるのです。

加えて、名古屋城へ行けば毎日でも必ず会えるという距離の近さ。しかも、“おもてなし”することが役目ですから、殿様たちも言葉こそ上からでもサービス精神満点。握手や写真撮影、歴史の解説や市内の観光案内まで気軽に応じてくれる、そんな身近さがリピーターの獲得につながっています。

そして、当事者である家康様は、自分たちの存在意義をこう語ります。

「我らは過去と現在、現在と未来をつなぐ歴史の語り部。地域のロマンを皆の者に伝えていくのが役割じゃ。観光PRはお国自慢と同じ。誰もがその土地の文化や誇りを知りたい、語りたいと思うておる。それを体現、象徴しておるのが我ら武将隊なのじゃ」

メンバー交替も人気は継続 武将隊はAKB48?

舞台公演「黎明転章(はじまりの戦)」3月16~21日テレピアホールにて
舞台公演「黎明転章(はじまりの戦)」3月16~21日テレピアホールにて

結成7年目を迎える名古屋おもてなし武将隊。実はこれまでに何度かメンバーチェンジをしています。2012年春には一番人気だった初代・信長をはじめ一気に5人が卒業。その後も何人かが入れ替わっています。

初めてのメンバー交替の際にはファン離れも危惧されましたが、新しい武将たちがデビュー時から堂々としたパフォーマンスを見せ、思いの外スムーズに受け入れられました。新メンバーの加入はフレッシュさを吹き込んでむしろプラス効果ももたらされることに。ファンの間ではその成長を見守る、という新しい楽しみ方も加わったのです。

ハイクオリティなパフォーマンス。会いに行ける身近さ。活動拠点がローカル。全国各地にチームが誕生。メンバーの卒業・・・。これらの要素を並べるとまるでAKB48のようです。結成当初は不安定な立場だった(名古屋おもてなし武将隊は名古屋市の就労支援事業としてスタートしています)という点も共通しています。そう考えると、元祖でありトップランナーである名古屋おもてなし武将隊は、まさに武将界のAKB48。その他、各地方でファンをつかんでいる武将隊はSKE48やNMB48、HKT48のような存在といえます。

そしてまさに現在、新メンバーを募集中。織田信長、加藤清正が3月末をもって卒業し、それに替わる新たな武将の発掘が進められています。今回も多数の応募があると予想され、それだけに選りすぐりの精鋭がデビューしそうです。

今や名古屋観光の目玉のひとつでもある名古屋おもてなし武将隊。新生・武将隊がまた新たな魅力を持って、尾張名古屋を盛り立ててくれることを期待しましょう。

□名古屋おもてなし武将隊HP

名古屋ネタライター

名古屋在住のフリーライター。名古屋メシと中日ドラゴンズをこよなく愛する。最新刊は『間違いだらけの名古屋めし』。2017年発行の『なごやじまん』は、当サイトに寄稿した「なぜ週刊ポスト『名古屋ぎらい』特集は組まれたのか?」をきっかけに書籍化したもの。著書は他に『サンデージャーナルのデータで解析!名古屋・愛知』『名古屋の酒場』『名古屋の喫茶店 完全版』『名古屋めし』『名古屋メン』『名古屋の商店街』『東海の和菓子名店』等がある。コンクリート造型師、浅野祥雲の研究をライフワークとし、“日本唯一の浅野祥雲研究家”を自称。作品の修復活動も主宰する。『コンクリート魂 浅野祥雲大全』はその研究の集大成的1冊。

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