がん検診の本当の目的とは? 知っておくべき過剰診断という弱点
がん検診の目的は何か知っていますか?
「がんを早く見つけること」だと思っている方が多いのではないでしょうか?
もちろん、がん検診が早期発見のために重要なのは間違いありません。
しかし実は「早期発見」そのものが目的というわけではないのです。
「えっ?早く見つけた方がいいに決まっているのでは?」
と思った方は、この記事をぜひ最後まで読んでください。
市町村が主体となり、公共の対策として行うがん検診を対策型検診と呼びます。
対象となるがんは、胃がん、子宮頸がん、肺がん、乳がん、大腸がんの5種類です。
それぞれ対象年齢と頻度が決まっており、数百円から数千円で受けられるよう、国費が投入されています。
それに対し、人間ドックのような、自費で受ける検診を任意型検診と呼びます。
一般に「がん検診」と呼ぶときは、前者の対策型検診を指します。
この目的は何でしょうか?
それは、そのがんの「死亡率を減少させること」です。
厚労省による「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」には、
「がんの予防及び早期発見の推進を図ることにより、がんの死亡率を減少させることを目的とする」
と書かれています。
国立がん研究センター「がん情報サービス」には、
「多くのがんを見つけることは、がん検診の目的ではありません」
と書かれています。
なぜ、「早期発見」だけではダメなのでしょうか?
そのためには、検診の弱点を知っておかねばなりません。
早く見つけても死亡率は低下しない?
「神経芽腫」という病気をご存知でしょうか?
幼少期に多いがんの一つで、進行すると治療が非常に難しい病気です。
この腫瘍があると、ある化学物質が尿中に排泄されるため、赤ちゃんに尿検査をして早期発見しよう、という取り組みが行われていた時代があります。
対象は6ヶ月の乳児でした。
1984年から、全国的にこの検診は開始されます。
そのおかげで、1998年までに2200万人以上の乳児が検査を受け、約2700例の神経芽腫が発見されました。
まさに赤ちゃんの段階から「早期発見」ができるようになったわけです。
ところが、2003年にこの検診は中止されてしまいました。
なぜでしょうか?
死亡率を低下させる効果がない、とする報告が相次いだからです。
ここで問題になったのが、「過剰診断」と「合併症の増加」でした。
過剰診断とは?
過剰診断とは、「治療の必要がないがんを見つけてしまう」という意味です。
「がんがあるなら全て治療が必要に決まっているだろう!」
と思いましたか?
そんなことはありません。
がんの中には、進行が非常に遅く、治療をしなくても命にかかわらないものがあります。
亡くなるその日まで体の中に持ち続け、何も悪さをしないはずのがんを、検診で「見つけてしまう」とどうなるでしょうか?
その人は、本来必要なかったはずの治療を受けることになってしまいます。
薬に副作用があるように、臓器を摘出するような大きな手術には、一定の確率で合併症が起こります。
入院が長引くこともあるでしょう。
治療コストもかかります。
しかし、がんを見つけた時に「これを治療しなければどうなるか」は誰にも分かりません。
もちろん、多くのがんは、治療しなければ進行し、それが原因で亡くなります。
ですから、見つけたなら原則治療を行います(治療可能なら)。
よって現実的には、その個人のがんが「過剰診断」なのかどうかを知るすべはありません。
タイムマシンでもあれば、その人が「治療した未来」と「治療しなかった未来」を比較すればいいのですが、そういうわけにはいきません。
検診には、こういう弱点があるのです。
では、対策型がん検診が有効だと言えるのはなぜなのでしょうか?
対策型検診はなぜ有効?
その答えが、
「検診を受けた人たちの方が死亡率が低くなること」
です。
全体としてがんの死亡率が下がり、国民の利益に繋がるからこそ公共の対策として採用できるのです。
冒頭に書いたがん検診に含まれている検査は、そのがんによる「死亡率の低下」が証明されたものです。
医師が対策型がん検診を勧めるのは、これが理由です。
一方、人間ドックのような任意型検診は、任意で、自費で受ける検査です。
死亡率の低下が(現時点では)証明されていない検査も多く含まれています。
任意型検診を受けたい人は、このデメリットも十分に理解しておく必要があるでしょう。
検診とは、全く無症状の人(現状では何も困っていない人)が受けるものだからです。
さて、検診には、もう一つ重要な弱点があるのをご存知でしょうか。
それが「偽陽性」です。
これについては、次の記事で解説します。
なお、がん検診や人間ドックの使い分けなどについては、先日発売した拙著「医者が教える正しい病院のかかり方」で詳しく解説しています。
ぜひ、ご一読ください。
(参考文献)
JCCG神経芽腫委員会「神経芽腫マススクリーニング」