通学中の高校生を駅トイレに連れ込み不同意性交等罪に問われた男に懲役5年の求刑 被害者の両親が意見陳述
通学中の高校生を駅構内の多目的トイレに連れ込み性暴力を行ったとして不同意性交等罪に問われた、上新電機の元社員・大石哲也被告の裁判が6月25日、京都地裁で行われ検察側は懲役5年を求刑して結審した。弁護側は被告人が再犯防止プログラムを受ける意思を示していることなどを理由に「執行猶予も含めた温情判決」を求めた。
この日は被害者の両親が意見陳述を行い、それぞれ「絶対に許せない」「被告はまったく反省していないと感じる」と心情を語った。また、起訴にあたって被告人に氏名が知られてしまうと警察から説明を受けた被害者が、それでも事件化したいと強く希望したことが明かされた。
大石被告は2023年12月13日朝、京都府内の電車内で被害者の体に触り、その後、多目的トイレに連れ込んだとされる。この1週間前と数日前にも被害者を電車内で見かけ、1回目は「手の甲が偶然当たった」、2回目は「近くに行って意識的に触った」と供述している。
これまで行われた審議の中で大石被告は犯行がエスカレートした理由を「自分でもはっきりした答えが出ていない」「わからない」などと話していた。被告人側が用意した賠償金100万円は受け取られず、示談は成立していない。
父親の意見陳述
被告人側に遮蔽措置を立てず
被害者の両親はこれまで法廷で裁判を傍聴し、この日、父親は遮蔽措置の中から、母親は代理人弁護士による代読で意見陳述を行った。父親の遮蔽措置は本人の希望により傍聴席側のみに設けられ、被告人側には遮蔽がない異例の措置が取られた。被告人に対して顔を隠さず直接意見を述べたい意図があったと思われる。
父親は意見陳述で事件があった日からこれまでを振り返り、「(大石被告は)自分や自分の家族のことを話すときは感情的になったのに、事件や(被害者である)娘について話すときは感情がないように見えた。結局娘のことを今も何も考えていないと感じる」と被告人への憤りを語った。
大石被告は被告人質問の際に、35年間勤めた会社を懲戒解雇処分になったことや、妻と離婚し、娘は破談となったことなどを聞かれて涙を見せていた。一方、自らの動機や被害者の心情について聞かれた際には、「わからない」「申し訳ない」など単純な回答に終始した。
父親は、なぜ犯行を起こしたのか「わからない」と言った被告人に対して「震えが止まらないほどの怒りを感じる。娘が抵抗しなかったから何をしてもいいと思ったのでしょう」と述べた。
母親の意見陳述
「氏名を知られても起訴を望んだ」
代理人弁護士が代読した母親の意見陳述では、被害者の性格について「自己主張が苦手で、極度に緊張しやすい」と語られた。事件時は声が出ず、体を動かすこともできなかったこと、降りるべき駅で降りられず、人が多く乗降するためやっと降りられた駅で被告人から多目的トイレに連れ込まれたことについても触れた。
さらに、被害者が起訴状に氏名が載る不安を押して起訴を望んだことが明かされた。この事件では被害者と被告人に面識がないため、被告人は被害者の名前を知らないが、起訴状には被害者氏名が載ってしまうためだ。
「警察から起訴するのなら起訴状に名前が載ると言われました。名前を知られれば、(被告人の出所後に)仕返しをされるかもしれない。裁判所は氏名を知られるというリスクがあっても起訴を望んだ娘の気持ちを汲んだ判決をしてほしい。考えられる限り重い刑罰を望みます」
被害者氏名が起訴状に載るこの問題は、今年の2月の刑事訴訟法の改正で見直されているが、この事件のように起訴状に氏名が載ることが被害者の負担になるケースはこれまでも多々あったと考えられる。
参考)性犯罪など被害者名秘匿し手続き可能に 改正刑事訴訟法が施行(2024年2月15日)
検察は「求刑5年」
検察は、犯行は悪質であり、1998年に痴漢行為で罰金刑となったことのある被告人は再犯の可能性も認められるとし、懲役5年を求刑。一方弁護側は、旧法の構成要件である「暴行・脅迫」がないことや、性交そのものは行っていないこと、再犯防止プログラムに臨む意思を示していることなどを理由に「執行猶予付き判決を含めた温情判決」を求めた。
検察官の主張は近年の性犯罪刑法改正や、電車内での性犯罪の悪質性などにも触れる重い内容であったものの、求刑は不同意性交等罪の懲役の下限である5年だった。これは意見陳述で厳しい処罰を望むと述べた被害者家族の思いに叶うだろうか。そうは思えない。
被告人質問で大石被告はどのぐらいの罪になると思うかを聞かれ「3年か5年か7年くらいと先生(弁護士)から聞いた」などと、まるで他人事のような受け答えをしていた。
重い刑罰を課せばそれでいいとは言えないが、性犯罪加害者の認知の歪みのひとつは、自分の加害行為を軽視しがちであることと言われる。「5年で許される罪」と理解されないように願いたいし、法廷で被害者の両親や被害者参加弁護士は、そのために言葉を尽くしたのだと感じる。