Apple Vision Proのヤバい特許(1)
昨日発表の Apple Vision Pro、あまり価格の高さによりイマイチ注目度が高まらないようです(アップルの株価もちょっと下がりました)。しかし、言うまでもなく、テクノロジーとしてみると様々なブレークスルーがありそうです。MP3プレイヤーやスマートフォンなど既にある程度確立したジャンルに、ユーザー体験面での様々なイノベーションを提供することで、最終的にはそのジャンルの勝者となるという「アップルマジック」が再度起きるのでしょうか?
WWDCでは、過去数年間で約5000件の関連特許が出願されていることが発表されました。網羅的に調べるのは大変そうです。そのような特許の1件(バッファーコントロールに関するもの)については先日に記事(一部有料)を書いています。
さて、製品発表に合わせて、Sterling Crispin氏というVision Proの開発に深く関与してきた、脳神経科学を専門とするアップルのエンジニアが興味深いツイートをしており、そこでも重要特許のヒントがありました。
==(以下は栗原による要約)
私はVision Proの開発に人生の10%を費やしてきました。これほど長い時間をひとつのプロジェクトに費やしたことは他にありません。今回の発表をとても誇りに思っています。当然ながら研究成果はNDAの元にありますが、研究成果の一部は特許として公開されているので、それについて紹介することはできます。
そのような特許のひとつは、没入型体験においてユーザーの身体の状況から精神状態を検出することです。たとえば、アイトラッキング、脳内電気活動、心拍・リズム、筋肉活動、脳内血液密度、血圧、皮膚コンダクタンスなどによって、ユーザーが好奇心を感じている、迷っている、注目している、過去の経験を思い出しているなどを検出できます。その最もクールな応用パターンとして、ユーザーがクリックする前にクリックを予測することがあります。クリックの前に瞳孔が特定の反応を示します。これを検出することで、瞳孔の反応に応じてリアルタイムでUIを再構築することが可能になります。
また、画面や音をユーザーにわからないように急速に変化させることでその反応を評価するというトリックもあります。また、ユーザーがどの程度集中しているか、リラックスしているかなどを検出する特許もあります。
==(要約終わり)
ここで言っている特許のひとつがUS11354805と思われます。5000分の1ではありますが、まずはこの特許から見ていくことにしましょう。これ以外の重要特許についても見つかりしだい解説していく予定です。
発明の名称は”Utilization of luminance changes to determine user characteristics”(「ユーザーの特性を判断するための輝度変化の活用」)、実効出願日は2019年7月30日、登録日は2022年6月7日、同等特許が中国でも登録、欧州では審査中となっています。日本での出願は確認されていません(悲しいことです)。
発明のポイントは、画面の輝度をユーザーにはわからないレベルで変化させ、それに応じた瞳孔の変化をセンサーで検出し、ユーザーの集中度を評価することにあります。権利範囲はかなり広く、基本特許に近い形になっています。とは言え、この発明が具体的にどのようなユーザー体験をもたらしてくれるかは未知数です(明細書にはこの点での実施例の開示はあまりありません)。
クレーム1の内容は以下のとおりです。
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