「ウンコの力」は商標登録可能か
文響社による「うんこ漢字ドリル」の大ヒット以来、「うんこ」という言葉の顧客吸引力への注目度が高まり、うんこ関連の商標登録出願が少なからず見受けられるようになってきました(関連過去記事「"うんこ漢字ドリル"の商標戦略について」、「うんこ関連商標の現状について」)。なお、この過去記事でも触れた「株式会社うんこ」についてITmediaが記事にしています。
これら以外にも、大阪の「株式会社P.T.G.グローバル」という企業が今年の6月から7月にかけて、「ウンコ味のチョコレート」、「カレー味のウンコ味のカレー」、「チョコレート味のウンコ味のチョコレート」、「うんこまん」、「うんこの山」、「うんこの里」、「ウンコンドーム」、「東京うん固」、「うんこま」と大量のうんこ関連商標を出願しています。出願人は物流会社のようですが、いったいどうするつもりなのかは不明です。
さらに、つい先日の9月18日には、誰もが心には浮かぶがなかなか口に出せない禁断のネタ「ウンコの力」が出願されていました(商願2019-123028)。出願人は「株式会社すべてがうんこにみえてきた」という会社です。グッズ製作の会社のようですが詳細不明です。指定商品は薬剤(サプリ)、飲料等です。
以下、この出願の登録可能性について真面目に検討してみます(仮に自分にこの出願案件が来たらどういうプロセスで考えるかということです)。
まず、公序良俗違反です(商標法4条1項7号)。
既に数多くの「うんこ」関連商標が登録されていることを考えると、この理由で拒絶される可能性は低いと思います。ハウス食品の「ウコンの力」との関係で協業秩序が害されるという論点はあるかもしれませんが、それが問題になるとすれば他の条文が適用されると思います。(追記:と書きましたが、吉本興業による「面白い恋人」は4条1項7号を理由の一つとして拒絶されたので審査官によってはこの条宇文適用もあるかもしれません)。
次に、類似先登録です(商標法4条1項11号)。
当然ながらハウス食品は「ウコンの力」を商標登録していますので、それとの類似が気になるところです。指定商品には「うこんを使用した清涼飲料」が含まれますので、商品は一部類似です。商標として類似するかですが、ウコンとウンコは確かに紛らわしいですが、概念が大きく異なりますし、短い言葉の一文字違いは非類似とされることが多いので、たぶん問題ないのではと思います。ただし、仮に「ウンコの力」が登録された実際の商品に使うときに「ウコンの力」と紛らわしいパッケージ等を使用すれば、商標法とは別に不正競争防止法で訴えられる可能性はもちろんあります。
次に、他人の業務との混同です(4条1項15号)。
これは、「ウコンの力」が周知商標(ひょっとするとさらに有名度が高い著名商標)とみなされる可能性が高いために効いてくる条文です。消費者が「ウンコの力」と「ウコンの力」を間違えるかというと微妙なのでおそらく大丈夫とは思いますが、もし拒絶されるとするならばこの条文が理由になるように思えます。万一、ハウス食品が異議申立をしてくるとちょっと危ないかもしれません。
最後に、記述的商標(3条1項3号)あるいは(一般的に)識別力欠如(3条1項6号)です。
実は、ハウスの「ウコンの力」の登録もストレートではなく「"ウコンの成分(クルクミン)を強化した商品"の意味合いで、健康によい商品であることをアピールする語として理解されるにとどまるものである」として3条1項6号によりいったんは拒絶されたものを不服審判によりひっくり返しています。また、某サプリメーカーによる「牡蠣のチカラ」なる商標登録出願は3条1項3号違反で拒絶され、不服審判でもひっくり返せませんでした。一般に記述的商標の登録可能性は読みにくいところがあります。
ここで、「ウンコの力」という飲料やサプリを消費者がどう判断するかですが、飲料の中にウンコ関連成分が入っているとは思わないので記述的商標とはされず、こららの条文が関連してくることはないのではと思います(腸内フローラがどうしたこうしたという話もあるのでまったくその可能性がないとは言えませんが)。
ということで、鉄板とは言えないものの登録可能性は十分にあると思いますので、仮にこの案件が自分のところに来ていたとするならば喜んで受任していたと思います。