次はエストラーダ?拳四朗? 軽量級新スター、バム・ロドリゲスが統一戦で実力証明
12月9日 アリゾナ州グレンデール デザート・ダイアモンド・アリーナ
IBF、WBO世界フライ級王座統一戦
WBO王者
ジェシー・“バム”・ロドリゲス(アメリカ/23歳/19戦全勝(12KO))
9回終了TKO
IBF王者
サニー・エドワーズ(英国/27歳/20勝1敗(4KO))
技術戦という見方を覆す打撃戦
戦前の展開予想が外れてうれしいと思うことは実は少なくないが、ロドリゲス対エドワーズ戦はそのわかりやすい例となった。
”フライ級の頂上対決”と称された注目の統一戦。マッチアップの質は文句ないものの、両者とも確かなスキルを備えた王者同士であるがゆえ、お互いのパンチがなかなか当たらない技術戦を予想する声は少なくなかった。
筆者もそう考えた1人。どちらが勝つにせよ、ジャッジ泣かせの判定勝負ではないかと予測していたのだ。
ところがーーー。ゴングが鳴ると、小柄な2人のチャンピオンは軽量級離れしたスリリングな打撃戦でアリゾナのファイトファンを沸かせる。
スピード豊かな攻防で序盤はほぼ互角。エドワーズが思いの外、得意とするフットワークを使わなかったこともあり、両者のパンチがよくヒットした。そうなるとやはりパワーに勝るロドリゲスに分がある。
5回にはロドリゲスのパンチでエドワーズの動きが鈍り、6回、通称“バム”は相手をロープに詰めて連打。ロドリゲスの被弾も少なくなかったが、やはりエドワーズはパワーに欠け、流れを変えるには至らない。8回、足が止まったエドワーズに“バム”の高速連打がよく当たった頃には、主導権のありかはもう明らかだった。
「KOできると思っていたし、時間の問題だった。思っていたよりも素早く、難しい相手だった。想定よりも聡明でもあった。それでも結果は見ての通りだ」
試合後、胸を張ったロドリゲスが指摘するフィニッシュシーンは9回終盤に訪れる。左パンチを狙いにいったエドワーズに完璧な左カウンターを合わせ、これまで一度もダウン経験がなかったタフな英国人王者は前のめりに倒れ込む。それでも立ち上がったエドワーズの闘志は見事だったが、このラウンド終了後、コーナーは適切なタイミングでストップをかけた。
「2回頃には左目が見えなくなり、おかげで彼のジャブを避けるのが難しくなった。彼は優れた足、ジャブを持っているから、ただ動き回るわけにはいかない。空振りさせ、パンチを当てねばならなかった。今日はより優れた選手が勝った」
そんな本人の言葉通り、エドワーズの左目は眼窩底骨折を負ったとも伝えられている。ノニト・ドネア(フィリピン)第1戦の井上尚弥(大橋)同様、2回以降は相手が二重に見えたということで、得意のアウトボクシングが影を潜めた理由の1つはそれか。
とはいえ、“バム”の鋭い右ジャブを浴びたがゆえの負傷なのだから、不運とみなされるべきではあるまい。戦前、盛んにトラッシュトークを仕掛けたエドワーズもそれを理解しており、「ジェシーはすごい選手。言い訳はないよ」と素直に完敗を認めた。傍若無人なほどにお喋りなエドワーズを沈黙させたのだから、この日のロドリゲスの戦いぶりには大きな価値があったのだろう。
リング王者でこそなくとも
今戦前、エドワーズ対ロドリゲス戦をリングマガジンのフライ級タイトル戦として認めるかどうかが同誌のランキング選定委員の間で大激論になった。
同王座は現在空位になっており、先週時点でエドワーズがランキング1位、ロドリゲスは4位。通常、同タイトルの王座決定戦は1、2位選手の直接対決に限定されるが、2022年、スーパーフライ級でカルロス・クアドラス(タイ)、シーサケット・ソーランビサイ(タイ)に勝った“バム”が最高級の実力者であることは明らかだった。
2位フリオ・セサール・マルチネス(メキシコ)、3位アルテム・ダラキアン(ウクライナ)の近況がもう一つなこともあり、編集長のダグラス・フィッシャー氏、元マネージングエディターのトム・グレイ氏は「例外を認め、タイトル戦として認定すべき」と強硬に主張したのだった。
上記通り、パウンド・フォー・パウンドの実績では軽量級屈指の“バム”だが、フライ級での世界レベルのレジュメは8月、クリスチャン・ゴンサレス(メキシコ)戦とのWBO王座決定戦での1戦のみ。しかもそのゴンサレス戦では顎の骨折を負うなどの苦戦を味わったこともあって、筆者を含むパネリストたちは結局、ここでの例外を認めなかった。
それでもエディ・ハーン・プロモーターが度々「リング誌はタイトル戦として認めるべき」と発言するなど、試合寸前まで論議を呼び続けた。この件がこれだけ話題になったことは、リングマガジンが選定するランキングの影響力とともに、ロドリゲスへの一般的な評価の高さを物語っていたのだろう。
次戦は来春、ビッグファイトか
それほど注目されたエドワーズ戦で、ロドリゲスは期待通り、いや期待以上の強さをみせてくれた。クリス・フローレス・レフェリーの手を煩わせることもほとんどなかったクリーンな戦いは、これまでのキャリアでベストファイト。統一戦の大舞台で最高の結果を出した意味は大きく、23歳の軽量級新スターがさらに株を上げたことは間違いない。
リング王者として認定はされなくとも、フライ級の階級ランキングでは1位に浮上。「これまで見た中でも最高級のパフォーマンス。彼は超特別だ。パウンド・フォー・パウンド・ランキングにも入るべきだ」とハーン・プロモーターは少々大げさに絶賛していたが、実際に早くもリングマガジンのパウンド・フォー・パウンドでトップ10入りが有力になっている。
それと同時に、エドワーズ戦後には次戦のダンスパートナー選びが話題となった。フライ級の統一戦路線か、あるいは他階級の強豪との戦いに乗り出すか。
現在のフライ級では最大の難敵と目されたエドワーズを下したあとで、ビッグネームが揃ったスーパーフライ級への再進出を期待するファンも多いのかもしれない。同じ帝拳傘下のローマン・ゴンサレス(ニカラグア)との激突こそ考え難いが、ともにDAZNとの関係が深いファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)との決戦への障害はほとんどないはずだ。
「(エストラーダ戦は)ずっとやりたかった試合だ。スーパーフライ級時代から望んでいた。彼はいつも僕が過大評価だと言ってきた。だったらリング上で証明してみればいい」
メキシコの英雄との対戦について会見で問われ、普段は大人しい“バム”が珍しく闘志をあらわにする場面もあった。「エストラーダ対“バム”はすごいカードになる」とハーン・プロモーターもこのマッチアップの質には太鼓判を推しており、2024年上半期に実現しても不思議はないのかもしれない。
日本のファンは近未来のフライ級転向を希望する言葉も残してきたWBAスーパー、WBC世界ライトフライ級王者・寺地拳四朗(B.M.B)、あるいはバンタム級への昇級が決まった中谷潤人(M.T)とロドリゲスの対戦を夢に見たくなるだろう。ビッグステージで持てる力を出すと、このように未来への扉が次々と開けていく。
2022年9月のイスラエル・ゴンサレス(メキシコ)戦、上記した今年4月のクリスチャン・ゴンサレス戦ともう一つの内容の戦いが2戦続き、“バム”の株は一時的に停滞しかけた。それがここで勢いを取り戻したとすれば、リスクの大きなマッチメークはやはり得られるものも大きいということ。そんな昔からの真理を証明する新たな好例が生まれたことを、私たちファンも喜ぶべきに違いない。