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冬の心筋梗塞に注意を~「レイア姫」キャリー・フィッシャーさんの死から考える

榎木英介病理専門医&科学・医療ジャーナリスト
飛行機内で心臓発作を起こし亡くなった女優のキャリー・フィッシャーさん。(写真:REX FEATURES/アフロ)

波乱万丈の人生に幕

スターウォーズシリーズで「レイア姫」を演じた女優のキャリー・フィッシャーさんが12月27日死去した。60歳の若さだった。

スターウォーズエピソード4(1977年)の撮影時、ハリソンフォードと愛し合ったことを告白し、話題を呼んだフィッシャーさん。昨年公開されたエピソード7で32年ぶりに「レイア姫」を演じ、今後のシリーズでの活躍も待たれていただけに、とても残念だ。ご冥福をお祈り申し上げる。

報道を総合すると、フィッシャーさんはロンドン発ロサンゼルス行きの飛行機に搭乗中、心臓が停止した。医師らが乗り合わせていたため、すぐに心肺蘇生が行われ、飛行機が着陸後にロサンゼルスの病院、UCLAメディカル・センターに搬送された。容態が深刻であることが伝えられると、世界中に衝撃が走ったが、治療の甲斐なく亡くなった。

死因は心臓発作だという。一部心臓発作ではなく心停止だ、という報道もあり、用語が不明瞭で混乱しているが、医学的に言えば、心臓を栄養する重要な血管(冠動脈)が詰まる急性心筋梗塞、もしくは致死性不整脈などが原因で心停止が発症したものと考える。

フィッシャーさんは一時期過体重だったという。

身長155センチのフィッシャーさんの体重は、1983年公開の「スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還」撮影当時は約45キロだったが、最近では82キロまで増加。

出典:「スターウォーズ」のレイア姫、今ではダイエットの「顔」に

後で述べるように。12月という時期も考慮すると、肥満が血管の動脈硬化を進ませ、急性心筋梗塞が発症した可能性が高いと考える。

コカイン中毒や精神疾患(双極性障害)にも苦しんだフィッシャーさん(コカイン服用が心筋梗塞を引き起こすことも知られているが、死の時点ではやっていないと信じたい)。

フィッシャーさんの母親で女優のデビー・レイノルズさんも、娘の後を追うように、28日に亡くなった。

息子のトッド・フィッシャーさんは、レイノルズさんが「キャリーと一緒にいたい」と言った後に亡くなったと語ったという。

出典:女優デビー・レイノルズ氏死去 C・フィッシャー氏の母

遺族は悲劇が重なりさぞご心痛のことと思う。

冬場に多い心筋梗塞

結局のところ、フィッシャーさんの死因は心臓が止まった、というだけで現時点で不明なのだが、フィッシャーさんの死の報道は、冬の心筋梗塞について考えるきっかけになったので、以下に記したい。

先ごろ厚生労働省が発表した人口動態調査では、平成27年に日本国内で心疾患で亡くなった人は196113人。死者全体の15.2パーセントであり、がんに次いで死亡原因の第2位だ。なかでも急性心筋梗塞で亡くなった人は37222人、狭心症などの虚血性心疾患で亡くなった人は34451人を数える。

とくに冬場は心筋梗塞に注意しなければならない時期だ。

国立循環器病センターの研究によると、10月から4月頃が心筋梗塞による心停止が多いことが明らかになっている。なかでも、12月から2月は特に多い時期として知られている。

私たち病理医の実感もこれと一致する。冬の冷え込んだ朝、もしかして急性心筋梗塞で亡くなる患者さんの解剖をするかもしれないな、という「予感」を抱くことがあり、実際何度かこの悪い「予感」があたってしまった。

個人的な話をして恐縮だが、私の父も、1月のある朝、睡眠中に急性心筋梗塞が起こり、朝布団の中で死んでいるのを発見された。

冬に急性心筋梗塞が発症しやすい理由は、「ヒートショック」だ。

冬に心筋梗塞が多い理由の一つとして、寒冷期の血圧の上昇、特に暖かい屋内から特に寒い部屋や屋外に移動する際の血圧の急激な変動があげられます。ヒートショックといわれるストレスが心臓の負担を増やし心筋梗塞を起こしやすくなります。また、寒さで心臓の血管(冠動脈)が過剰に収縮し血流不全に陥ることも心筋梗塞の一因である考えられています。

出典:国立循環器病センタープレスリリース

フィッシャーさんの場合は飛行機搭乗中(報道によれば着陸15分前)に発症しており、冬のロンドンから搭乗したこと、ある程度機内の温度は保たれているとはいえ、冬季の飛行で温度が低かったことなどが、心筋梗塞発症に影響を与えたのではないか。

これに加え、飛行機に乗ること自体も、体に影響を与えたかもしれない。

飛行機での旅行は,ある種の医学的な問題を引き起こすかまたは悪化させる可能性がある。上空ではジェット旅客機内のO2分圧が海抜6000〜8000フィート(1830〜2440m)のO2分圧と同等まで減じ,その結果Pao2が約70mm Hgとなるため,重度の心臓病または最近の心筋梗塞(合併症のない場合は4週間,合併症のある場合は6週間),不安定狭心症,および重度の肺疾患のある旅行者は,飛行機を利用すべきではない。

出典:メルクマニュアル 飛行機旅行

2400メートルといえば、富士山の五合目に相当する。さらに、水分補給が十分でないと、血液が濃くなり、心臓の動脈に血栓ができやすくなる。

冬の心臓死を防ぐには?

冬の急性心筋梗塞による死を防ぐためにはどうすればよいだろうか。国立循環器病センターは、「冬場に心筋梗塞を予防するための注意すべき10箇条」として以下を挙げている

1) 冬場は脱衣室と浴室を暖かくしておく。

2) 風呂の温度は38~40度と低めに設定。熱い湯(42~43度)は血圧が高くなり危険です。

3) 入浴時間は短めに。

4) 入浴前後にコップ一杯の水分を補給する。

5) 高齢者や心臓病の方が入浴中は、家族が声を掛けチェック。

6) 入浴前にアルコールは飲まない。

7) 収縮期血圧が180mmHg以上または拡張期血圧が110mmHg以上ある場合は入浴を控える。

8) 早朝起床時はコップ一杯の水を補給する。睡眠時の発汗で血液が濃縮しています。

9) 寒い野外に出る時は、防寒着、マフラー、帽子、手袋などを着用し、寒さを調整しましょう。

10) タバコを吸う方は禁煙をしましょう。

とはいえ、仕事や旅行で移動せざるを得ない場合、常に寒暖の差を調整できるとは限らない。

急性心筋梗塞になる前に、狭心症が起こるなど前触れがある場合がある。そういう場合は早めに治療を心がけたい。私の父も、狭心症が指摘されていたが、放置していたために、急性心筋梗塞が発症した。

そして、狭心症も含めた血管の病気の遠因は、生活習慣にある。食習慣や運動習慣、喫煙習慣などに日ごろから注意することが重要だ。私の父はヘビースモーカーだったが、せめてタバコの量を減らせなかったかと、いまだに後悔する。

急死は残された人に深い傷を残す。

フィッシャーさんの母、デビー・レイノルズさんがフィッシャーさん死去の翌日亡くなったように、私の祖母も父が亡くなった同じ年に、後を追うように亡くなった。

急死を防ぐことは、家族や周りの人たちのためでもあるということを肝に銘じたい。

フィッシャーさんの訃報を聞いたあと、公開中のローグ・ワンを観た。ネタバレになるので、詳しいことは述べないが、この映画はフィッシャーさんに捧げられたように思えた。

フィッシャーさんの魂がフォースとともにあらんことを。

病理専門医&科学・医療ジャーナリスト

1971年横浜生まれ。神奈川県立柏陽高校出身。東京大学理学部生物学科動物学専攻卒業後、大学院博士課程まで進学したが、研究者としての将来に不安を感じ、一念発起し神戸大学医学部に学士編入学。卒業後病理医になる。一般社団法人科学・政策と社会研究室(カセイケン)代表理事。フリーの病理医として働くと同時に、フリーの科学・医療ジャーナリストとして若手研究者のキャリア問題や研究不正、科学技術政策に関する記事の執筆等を行っている。「博士漂流時代」(ディスカヴァー)にて科学ジャーナリスト賞2011受賞。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。近著は「病理医が明かす 死因のホント」(日経プレミアシリーズ)。

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